【老人】‐Old Wizard‐
レリックの取り巻き[魔法使い]たち。『七光りに集まった虫3匹』では流石に呼びづらいから名前を覚えてやることにする。
──名前を覚えるのは苦手だからこの依頼が終わったら忘れているが。
腕に薬草の臭いがついた包帯をしているオレンジ髪【アン】。
冒険者ギルドで肌を晒した青髪【ドゥ】。
ティファにあらぬ疑いをかけた緑髪【トロワ】。みな魔力量Dランク。
そのままの名前だ。
「お前、聞いたぜ。[探偵]とか名乗って冒険者組合を転々としてるらしいじゃねぇか。しかも【魔力なし】だってな」
「ださっ。両親もきっと、魔力貧困層だったのよね」
「てかこの依頼、[魔法使い]か[2名以上魔法使いがいるパーティー]が参加状況じゃなかった?」
「なー、それな」
お前たちのセリフのせいで尺が削れる。出来るだけ口を開くな。
ティファなんて居心地の悪さで空気のように静かじゃないか。
だが確かに参加条件には当てはまっていない。
依頼人には許可をもらう必要がある。
「ノラ。この通り、俺たちは[魔法使い]ではない。[探偵]と[回復職]だ。それでも依頼を受けさせて欲しい。代わりにこの事件の解決を約束しよう」
伸ばした袖を口に当てて悩むノラ。
それから隣に座っている老人ガノールフとレリックの取り巻き3人に視線を向ける。
[魔法使い]が参加条件の理由は被害者である父と同じ[職業]で、事件時の再現がしやすいと考えたためだろう。ならば人数は十分ではないだろうか。
「うん、大丈夫。多いほうが心強いと思うの」
「感謝する」
深く頭を下げる。
探偵として依頼人には敬意をはらうのが礼儀だ。
「[回復職]だってぇ──また嘘つくんだ」
「このイカサマ男が『女装』って言ってたけど、そんなわけないしね」
「嘘つき同士仲良くやってろ、って感じ」
なぜ言い返さないのか──……ティファを見ると小さくしぼんでる。
どうやら他人の意見は気にしないが、ダメージは受けるらしい。
俺が推理力で静かにさせてやろうと思ったがガノールフのひと睨みで全員固まった。
「若い者は血の気が多くて困る。行くのは冒険者ランク1でも潜れる初級ダンジョン。ならばこのガノールフだけでも事足りよう。観光が増えたところで問題はない」
俺たちを観光扱いとは。と思うところだがレリックたちもこの老人にとっては『観光』なのだろう。
【ガノールフ】。
魔力量Cランク[魔法使い]。以前は『人間種最強の[魔法使い]』と呼ばれ、このドラゴネス王国の【王宮魔法使い】として働いていた実績を持つ。
国王にも気に入られていたが魔法研究のために【王宮魔法使い】を辞職した。
「このおじじは凄い人なの。王子様に魔法を教えてたんだって」
「はーん。ユリアス第一王子? それともレオルド第二王子か?」──興味なさげなレリック。
「アルバート様だ」
ガノールフの言葉に店の空気が固まり、冒険者や従業員までこちらを向く。
「え? まじ? まじでアルバート第三王子のお師匠様?」
「すっっっご! 激アツじゃんそれ! [魔法使い]の神っしょ」
「第三王子ってどんなひと? 顔は? 好きな女性のタイプとか」
取り巻きたちが興奮してガノールフに迫る。
レリックを押しつぶす勢いで。
「師匠とはおこがましい。私がアルバート様に魔法の基礎を教えていたのは王子が幼い頃で、どのように成長したかは知らぬ。しかし顔は、そうだな……そこの彼に似ている」
ガノールフが視線を向けたのはティファ、ではなくその隣にいる──俺。
「名前も」と付け加えた。
「しかし彼からは魔力を微塵を感じない。そもそもアルバート様は金髪ではないしな。髪色は彼女のように漆黒だ」
ノラの髪色を見る。
それを聞いて「えへへ、王子様とお揃いなの」と少し照れて笑う。
「ふはっ、第三王子って言えば。国から逃げ出したヘタレだろ? すげぇ魔力量だって言われてっけど、実際見たこともねぇしな。どうせ獣人国の[半豚王]みたく神話的なデマを流してるだけなんだろ?」
力強く机が叩かれた。
そしてガノールフはレリックの胸元を掴む。
「黙れ小僧ッ‼︎ アルバート様への冒涜は我々[魔法使い]への──いいや、【魔法】そのものの冒涜である!あの方こそ【奇跡】の体現!それを汚すつもりなら貴様をここで──」
「落ち着け」
俺は激昂しているガノールフの肩を軽く叩いた。
我に返ったようで、周りの状況を確認してからひとつ咳払い。
「……すまぬ。歳を考えず熱くなってしまった」
「構わないさ。それで、お前はどうしてこの依頼を受けたんだ?金に困って──ではないだろ」
高級なローブを見るに明らか。
それに元はといっても【王宮魔法使い】であれば、もっと割のいい依頼を受けられるはずだ。
「『魔法使いが消えた地下迷宮』。実に興味深い事件だったものでな。その真実を解き明かしてみたくなってしまっての」
老人は悪人みたく笑う。
弟子は師に似る。と言ったところか。
「間違いない」──俺は笑い返した。