【喧嘩】‐Fight‐
ドラゴネスの王族は成人式を迎えるまで家族の顔も知らぬまま別の屋敷で使用人達と生活する。
そして俺ことドラゴネス王国第三王子アルバート・メティシア・ドラゴネスは、妹の成人式の前日に王位継承権を捨て家出をした男である。
アルバと名前を改め、[職業:探偵]として生きて行くと決心した。
だったのだが兄レオルドの依頼で魔法学校に潜入することに。
そこで妹イルミアと気まずい再会を果たす。
彼女の前で魔法完全無効の特性を持つ[魔封石龍]の化石から作られた指輪を外し、魔力量【神種領域ランク】であることを知らせる。
こうしてツインテールの似合う美少女に育っていたイルミアは生き別れの兄と再会するのであった。
もしこれが兄妹物の乙女ゲームであったのなら。
大げさすぎるBGMと声優の演技と素晴らしい神絵師スチルで涙なしでは見られない感動の場面になること間違いないのだが──……。
「どの面下げて会いに来てんの?」
照れ隠しか殺意のこもった視線を──「ちょっと黙ってくれるか」
「『黙れ』って、私に言ってるわけ」
「違う。この長期連載明けみたいなモノローグにだ」
乙女ゲーオタクの腐女子脳が時折思考に入ってくる。
二重人格という感覚ではないのだが、私生活にまで役が影響してしまうカメレオン俳優。のような。
とりあえず思考の主導権を取り戻す。
「別にお前に会いに来たわけではない。事件の捜査だ」
「はっ。不登校の誰かさんと違って、ちゃんと魔法学校に通っててすみませんね。随分とその『事件の捜査(?)』の邪魔だったことでしょう」
「よく分かってるじゃないか」
「──────~~っッ!!」──急に地団駄を踏み出す。
「実際、邪魔されたせいで重要参考人もしくは黒幕を取り逃がした。手がかりはこのローブだけだ。早く調べたいからこの[神聖巨龍]を引け。悪いが、お前でも俺には敵わない」
光属性だからか、聖なる生物だからか発光している。
四方八方囲まれたら眩しくて細目になってしまう。
だが『最高品質』というのは確かのようだ。
【魔法戦】の時の[龍]とは違い、俺の魔力量を目の当たりしても萎縮していない。
「思っていたより遥かにクソ野郎なんだけど! こんな奴に【最強の[魔法使い]】なんて称号着けた奴出てこいし。魔力取り上げて今すぐ顔面たこ殴りにしたいんだけど……」
馬鹿でかいため息と一緒に吐き出される怒号。
それから俺が持っているローブを見て。
「ふーん。……それがなくなったら困るわけね」
「変な事を考えるな。これは人命に関わる。ダリア嬢の行方やレオルドの婚約者にかけられている容疑を晴らすために必要かもしれない」
「ああ、そう。だから? 貴方が困るなら下級貴族の令嬢の命なんてどうだっていい。レオルドお兄様には『新しい婚約者を探してください』とでも言ってやるわ」
もう自分がなにを言っているのか分かっていないのではないだろうか。
顔を真っ赤にさせて、駄々をこねる子供のような口調。
イルミアは近くの[神聖巨龍]に乗り移る。
「【能力向上】【敵意向上】」──この量の[召喚獣]に【強化魔法】を。教師は軍団強化に長けているレオルドだろうな。
「我は龍の女王。我の敵は、皆の敵。悪漢は救いの光をもって浄化せよ。──【聖なる導きの洗礼光線】!」
全ての[龍]が大口を開けて、光の球体を作り出す。
光の球体が自分の身体を覆う程の大きさになったら放つ。
標的は俺ひとり。
……小国くらいなら一瞬で消える攻撃なんだが。
それを実妹から躊躇なく使われている。
「【防御力向上】」──避けるのも可哀想だし、土地への被害が出そうだから真正面で受け止めることにした。
サングラスでも作っておくか。
痛みはないが、まるで閃光弾も目の前に放り投げられ続けるような攻撃。
服も証拠品も魔法をかけたから灰になる恐れはない。
「嘘……でしょ」
呆れているのか、信じられないのか。
震えた声のイルミア。
光線は少し長く。
終わった後でも目がチカチカする。
「【重力操作】」──空を飛んでいる[龍]を地面に叩き落とす。
「【植物の拘束】」──地面から木の根っこが伸びて全ての[龍]の動きを止めた。
動けるのは一匹とそれに騎乗したイルミアのみ。
「まだやるかい」──さっとサングラスを外す。
「どこまで私をコケにするつもり……。基礎魔法だけで正面から受けるとか」
「コケになど」
「してるんだって。存在そのものが! ──どうして、そんな馬鹿げた力があって城に残らなかったわけ? いてくれたら敵国への抑止力にだってなれる。戦争だってなくなるかもしれない」
「まるで核兵器みたく言うんだな。そんな危険物よりしがない[探偵]で良い」
[探偵]と聞いて顔色が変わる。
熟考した末、『どうでもいい』と言うかのように小さく首を振った。
「そんな理由で捨てられるほど貴方にとって、私は無価値だった?」
「……もともと人に価値などないだろ」
「いいえ。他人は私にとってただの家来。家来の価値はどれだけ利用出来るかで決まる」
「なるほど。だから周りにはお前を利用しようとする者ばかりなわけか」
そんな人間関係を築いていれば飽きてくるし、世界は随分と狭かろう。
「まあ、だから城を出た理由も分かってたから憎みはしなかった。『クソ野郎』とは思ってたけど──……だって、一緒に連れ出してくれないのだもの」
「何故自分で動かなかった」
「……は?」──『この場面でそれを言うか』の顔。
「他人を結果にするな。人との繋がりで影響されるものはあるが、過程の話。結論を出すのはいつだって自分自身だ」
兄らしいことを言えたような気がするがきょとんとされた。
それからイルミアはため息交じりに微笑む。
「流石に一発は殴らせろし。クソ兄貴」
「いや、今の流れでそれはないだろ」




