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【密会】‐Secret Meeting‐

 消灯時間が過ぎ暗闇になったドラゴネス魔法学校の庭を歩く。

 ──頼りは月の明かりのみ。


 ティファは【魔法薬学】の授業が終わってから薬草研究に没頭してしまった。

 黒い花も調べてもらったのだが特に薬的効果はなく、ただの花だそうだ。

 それからは憑りつかれたように[記憶(メモリ・)果実(フルーツ)]を調べているため寮の部屋に置いてきた。


 学校の庭には入り口の物と比べたら一回り小さいが[(ドラゴン)]の石像が並んでいる。


「着いたぞ。校舎からも結構離れているし出てきても大丈夫だろう」──地面に向かって話しかける。


 すると影から猫耳と尻尾を生やした猫亜人の幼女ノラが飛び出た。

 結構長い時間影に潜んでいたからか首を回したり身体を伸ばす。


「間違いない、ここなの。アルバが生意気王女に食べ物ぶっかけた後、捜査対象は『着替えを持ってきます』って走り出したのにすぐには寮に向かわずこの石像の前にやってきたの」


 影魔法の使い手であるノラは他人の影に潜ることが出来る。

 [人間種]よりも高い魔力ランク[B]のため魔力感知能力が高い者には見破てしまうらしいのだが、ノラ曰く『にゃはは。[人間種]程度の魔力感知能力じゃ見付るわけないの』とのこと。

 そのドヤ顔にイラっとしたから両脇を持ち上げて振り回してやったのも記憶に新しい。


 そんなノラには【(転生者(未確定)の記憶を体験出来る)黒いキャンディ】使用の疑いがある第二王女イルミアの取り巻き令嬢の影に潜って尾行してもらった。


「それから丸い石を取り出してなにか話してた」


「[記録石(メモリージェイド)]か?」──映像記憶が出来る魔法石。魔力を流し込んでいる最中は映像記録が出来、また魔力を流し込むことによって録画映像を確認。ただし一度で石は砕ける。


「たぶん。でも石を握りしめてたから録画と言うよりも録音が正しいかも。石をあの8の形をした[(ドラゴン)]に隠してたけど……なくなってる」


 イルミア達の寮の象徴であり不死を意味する[ウロボロス]の石像。

 2匹の蛇のような[(ドラゴン)]がお互いの身体に食らい付いている。片方には王冠のような角と翼があり、もし何かを隠すなら翼と台座の隙間だろう。


 覗き込むが何もない。

 そもそも伝達目的ならば相手に確認されて[記録石(メモリージェイド)]はすでに壊れている。

 これほど密約事に適した道具(アイテム)もないだろう。


「録音内容を憶えているか?」



「ノラの記憶力を舐めないで欲しいの。意味はさっぱりだけど。『貴方は、支配者。貴方達の、黄金の島。幸せで、あくびが出てしまう、姉妹。勝ち目はない。人の爪、自業自得。私は二歩しか進めない』」



「『夜、4時。林の中』か。……もうすぐだな」


「なんでこんな気持ち悪い文章をすぐ解読出来るの!?」


 実に初歩的な暗号だ。

 しかしこの世界の文字しか知らない者には解読は不可能だろう。

 やはり【黒いキャンディ】に転生者の記憶を保存し、それを隠れて流通させている奴がいる。と考えるべきか。


 暗号の文面を考えるに、令嬢は俺が【黒いキャンディ】の事を嗅ぎまわっていると知り売人のような存在に報告しようとしている?


 この庭には森と表現しても差し支えのない巨大な林があり、密会はそこで行われる。


 売人を捕まえればダリア嬢の行方が分かるかもしれない。

 ダリア嬢の髪色を考えれば巻き込まれている可能性はある。

 ノラのように遺伝的な黒髪という場合もあるだろうが他人が見分けることは出来ないだろう。


 もし関係がなかったとしても、【黒いキャンディ】という怪しい物で商売している悪人を捕まえられる。


「真っ暗なの」──ノラと共に林の中を進んでいく。


「お前の魔法属性を考えたらかなり良い立地じゃないか」


「だけど暗いのは好きくない。夜ってなんでか悲しいこと考えちゃうの」


「まあ分かるな。たまにマイナス寄りになることがある」


「意外。アルバでもあるなんて」


「留守中の探偵事務所が荒らされていないか心配すぎて早く帰りたくなったりな」──「思ってたのと違うの」


 進むごとに暗くなっていく周り。

 怖くなったのか俺のローブの裾を引くノラ。

 捜査で使い勝手が良いからたまに忘れそうになるが、こういうところはやはり子供だなと思う。


「お前は夜どんなこと考えるんだ?」


「色々……」──小走りをして真横にくる。──「アルバって本当はこの国の王子様だから。いつかはお城に帰っちゃうかもしれない。……そしたらもう一緒にいられないの」


 夜は弱気になるのは本当のようだ。

 昼間にこんな話は絶対にしないだろう。


 弱っているノラを見てなんだか笑ってしまった。

 馬鹿にされたと思ったのかこちらを睨む。


「いや、すまんな。お前があまりに可愛らしいこと言うもんだから」


「か、可愛くないもん!」──自分の言葉を思い返して恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にさせる。


「俺は[探偵(ディテクティブ)]アルバだ。どんなことがあっても助手や弟子と一緒にいるさ」


 ぽんと軽く叩くように頭を撫でる。

 しかしノラは不服そうに。


「ノラの方が優秀だからアルバが弟子なの」


「ほう。ならば知恵比べでもしてやろうか小娘」


 火花が飛ぶ。

 美談で終わるかと思ったらどちらが[探偵(ディテクティブ)]という称号にふさわしいかの勝負への前振りだった。


「あの転校生を始末して欲しいのですわ! これは貴方のためにもなるでしょう。【黒玉】の事が明るみになったらそちらも終わるのですから」


 令嬢の叫び声。

 ノラの口を抑え木の陰に隠れる。


 暗闇にまだ慣れていないのか周りの様子はまだよく分からない。

 ただし令嬢ふたりと謎のもうひとりのシルエットだけは確認出来る。


 目を細めて観察する。

 令嬢達の密会相手──おそらくは【黒いキャンディ(令嬢曰く【黒玉】)】の売人。

 制服とは違うローブを着ており、フードで輪郭を隠している。


 そして怪しげな仮面を着けていた──……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『貴方は、奪う。貴方達の、黄金の島。幸せで、あくびが出てしまう、姉妹。勝ち目はない。人の爪、自業自得。私は二歩しか進めない』 ??? 解読出来なかった……orz [一言] 更新ありが…
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