表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/112

【腐知識】‐A/B/O‐

 ──私は田舎が嫌いだった。

 コンビニに行くとしても車を使って10分はかかるし、田んぼしかない。


 バイト先の本屋だって客は老人たち。ほとんど介護センターである。

 在庫確認を頼まれたら決まって「タイトルは忘れたんだけど~」──そんなものどうやって探せばいいというのだ。お前が知らんのなら誰も分からんて。

 レジ袋有料化反対の講義を始めたり、常連だからと期限切れのクーポン券を使わせろだの。


 崇高な漫画・ラノベなどを同士達に提供する仕事のはずなのだが、これでは田舎の老人のおせわ係。

 品物を割引で購入出来る特典がなければこんな場所すぐにでも辞めていた。


 それに私には推し作品にお布施するという使命がある。

 乙女ゲー廃人の私が辿り付いた神作品。


 『探偵学校ディテクティブ・プリンス~私の彼氏は名探偵~』。通称『ディテプリ』。

 世界的有名な名探偵が美少年化され攻略出来る神ゲー。

 この作品に出合ってあらすじを読んだ瞬間、脳汁が噴出して狂戦士みたく攻略に励んだ。


 私の推しキャラは【ホームズ先生】。

 隠れルートキャラで生徒と絡みたがらないクールビューティー。

 初対面時は一匹狼にも見えるのだが内面はすごく弱く、攻略後はヤンデレに近い依存度を見せる。

 そしてなにより保健委員の【ワトソン君】との絡みが尊い。

 ホームズ先生は基本受けだと思うのだけれどワトソン君の時だけは不器用ながら頑張って攻めると考察。


 解釈一致の薄い本の数々がそれを証明している。


 そう。私は腐っている。

 恥ずかしげもなく腐っている。


 といっても明らかBL作品というより一般誌の男キャラの友情エピソードから妄想するタイプの腐女子である。

 主食は男の娘orショタ×イケメン。


 『ジョ●ョ』であるならば承×花よりもフー×ナラが。

 でも『バカ●ス』は明×秀より明×康の方が個人的にエモい。

 アスト●フォはあざと過ぎたのかあまり刺さらなかった。

 ●塚は結婚したい。


「──ア……バ」


 言わずもがな『もや●もん』の蛍×直が最適解──……。


「──アルバ。しっかりしてよ!!」


 …………身体を揺らされ正気に戻った。

 急いで口に含んでいるキャンディを吐き出す。


「ぐへっ!?」──ティファの眉間に直撃した。


 床に落ちたキャンディをすぐに拾って、包みに戻す。

 意識が朦朧(もうろう)としている。まるで一瞬で他人の一生を体感したかのような。

 サブカルチャーにほとんど触れてこなかったのに(偏りはあるけれど)数々の作品を鑑賞した記憶がある。


「大丈夫なの? お菓子を口にしたら意識がどっかに行ってたけど。そんなに美味しいならノラにも」──手を伸ばしてきたから叩き落とす。


「なんでもない。だがこれは口にするな」


「いてて。すっごくまずかったとか?」──痛みが引いたのか顔をこちらに向けるティファ。


 綺麗な茶髪。長いまつ毛。柔らかそうな唇。

 どういうわけだか【魔法戦】で合った悪女よりも魅力的に見えてしまう。──違う。そんなわけがない。


 こいつは男だ。──だがそれでいい。むしろそこがいい。

 静かにしろ。──後半で『実は女の子でした展開』は萎えるから。先に確かめてしまおう。

 アルバは制服のネクタイに手をかけてゆるめながら、ティファをベッドに押し倒──すわけがない。


 そしてティファの長く綺麗なエルフ耳にこう囁くのだ。

(神絵師スチル)『男の娘だから恋したんじゃない。お前だったから──……


「静かにしてくれっ!!」


 珍しく動揺している。

 それほどに頭の声はうっとうしく、理解が追い付いていない。


「……えっと。なにも言ってないの」


「さっきから変だよ? ちょっと診せて」


「お前だけは来るな。事態をややこしくしないでくれ」


「えぇ~……」


 涙目になっているがとりあえず距離を取ってもらう。

 まずは現状把握の為に冷静になる必要があるのだ。


 すぅ……はぁ……。

 すぅ……はぁ……。

 ふぅー……。



 ①幻覚魔法の可能性。──幻覚を魅せられたというよりも過去の出来事を思い出していたような感覚。それに幻覚魔法などの攻撃意識がある場合ティファとノラも影響していないとおかしい。部屋の外からでは特定の誰かに魔法をかけるなんてほぼ不可能。

 ②症状。──挙動不審。見せられたものに影響されているとしか思えない思考。

 ③起こった事。──他人の記憶を体感した。それも前世の日本で生活していた女性の記憶。


 ④原因。──どう考えてもこのキャンディを口にした瞬間から。



「つまりこれは【他人の記憶を体感できるキャンディ】か」



「なにそれ。胡散臭い」


「へー、でも面白そう。魔法学校ってそんなものまで購買で売られてるのかな」


「そんなわけがあるか。どう考えたって違法だ。誰かの記憶を見たい場合は当たり前だが記憶を奪う必要があって、抜き取られた記憶は返してもらわない限りは完全に消える。このキャンディの大きさを考えるとかなりの量だろう。60年生きてきた人物でも余裕で日常行動すら忘れるくらいだ。──……被害者は植物状態でもおかしくない」


 保存されているのが〝転生者〟の記憶であるというのが不可解さを増している。


「……ダリア嬢も俺と同じ黒髪だったな」──嫌な予感しかしないのはどうしてだろうか。


 そしてなにより、このキャンディの手がかりは庭で見かけた【ウロボロス寮】の女子生徒。

 第二王女イルミアが【守備(ディフェンス)】を任せていた令嬢である。




 プロローグに繋がります。

 アルバ「すごろくみたいな書き方するな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ