【魔法戦】‐Magic War‐
全生徒と『親友』になるという目標を掲げている男テレムに連れ出され、巨大な運動場に辿り着く。
[魔法使い]が愛用しているような長いローブ(制服)を着た生徒達。青と黄色。
遅れてやってきた俺達に視線が集まるがテレムに気が付くと──「遅いぞテレム」「遅刻常習犯かよー」「よ! 待ってました」──まるで有名人のような人気である。寮関係なくハイタッチ。
『すでに8割の生徒が『親友堕ち』している』というのも真実味を帯びていく。
「彼が今日から【リヴァイアサン寮】に所属するアルバちゃんだ! 皆も『親友の親友』として困っていたら助けてあげてほしい。ちょっと皮肉屋だが根は良い奴なんだ」──勝手に紹介されている。
生徒達が俺の周りに集まってきて自己紹介(レオルドの資料情報と重ね合わせていく)。
「よろしく」──握手を求められた。
転入初日の1限目授業を欠席しているから少し浮いた存在になることを覚悟していた。
変な奴だがテレムのおかげでその心配はなさそうだ。
当然【魔力なし】と気付かれると複雑そうな笑みを浮かべる者が多少はいる。
「すごい人気だな。魔力が多いようには思えない……特殊な[職業]だったりするのか?」
「人気者とは違うな。『親友』が来たことによる安心感さ」──満足そうに微笑む。──「魔力量ランクは【C-】。そんで[職業/遊び人]でぇす!」
「……本気か?」
「本気と書いて本気だぜ」
その[職業]を選択しても得られる恩恵はない([探偵]もそうだが)。
[遊び人]を名乗る者は大抵王族や貴族階級が酒場や売春宿を隠れて利用する時くらいだ。
「極めると特殊なスキルを得られるなんてことも聞いてないが」
「ないない。なんも意味ないし。[職業]つーより生き様? って感じ。そもそもオレって魔法使えないんだよなぁ。唯一出来る事って言ったら魔力の放出くらいでさ、めっちゃ目立てるんよ!」
「ほう。それはなんとも」
「だから【魔力なし】でも関係ないって。オレがなんとかやれてるんだからさ」
肩をポンポンと軽く叩かれた。
どうやら励ましてくれているらしい。
「なら【魔法戦】のルールを教えてくれ」
「ああ良いともさ。至ってシンプルだからな。ポジションは3つ【攻撃】【守備】【大将】」
テレムは運動場の真ん中の線に立ち──「左がオレ達」「右が【ウロボロス寮】」。
【攻撃】──【魔法戦】が開始されたら自分の陣地から出て敵の陣地に突撃していく。敵の陣地から追い出されたら退場。
【守備】──自分の陣地に留まり敵【攻撃】を食い止める。自分の陣地から追い出されたら退場。
【攻撃/守備】──リタイア宣言。戦闘不能になった場合も退場とする。また回復魔法以外の回復(回復薬)を禁ずる。
【大将】──名称の通り大将。敵【攻撃】に攻撃を受けた場合チーム全体の敗北とする。大将エリアから出てはいけない。大将エリアの配置は自分の陣地内であれば自由に決めることが出来る。
【守備】は大将エリアには入れない。
「なるほど。つまり俺達の【大将】はあいつか」
「そゆこと。我らがドラゴネス魔法学校の生徒会長ブラック・フレイド。【リヴァイアサン寮】最強の[剣士]だ」
勇者から代々伝わってきたのであろう聖剣を持ち、凛々しくたたずんでいるブラック。
けれどあれはどう見たって【火属性の聖剣】のため水属性魔力のブラックでは本領発揮されないだろう。
それでも『【リヴァイアサン寮】最強の[剣士]』の称号を得ているのだから大したものだと思う。
「絶対に負けない【大将】だ。……相手の【大将】があれじゃなければだが」
【ウロボロス寮】の陣地。大将エリアに視線を向ける。
高級な椅子に足を組んで不機嫌に座っている金髪ツインテールの少女。
水色の瞳は美しいが顔だけ見ても『生意気そう』と思ってしまう。
「第二王女イルミア・メティシア・ドラゴネスか」
「ばっか。王女様を呼び捨てはダメだって。いくらあの生意気王女だとしても」
「お前も大概だろ」
「あの王女様が入学して3年目。【ウロボロス寮】は無敗」
「王族に勝つと打ち首になるとか考えてわざと負けてるんじゃないだろうな?」──「……あれを見てよく言える」──「冗談だ」
生徒の配置を見るに【ウロボロス寮】の作戦は【攻撃】メイン。
というよりもほぼ全員【攻撃】。
【守備】を任されているのは令嬢ふたりだけ。
そのふたりがさぞかし強いのだろう。と勘ぐってしまいそうになるが違う。
大将エリアには第二王女イルミアの横に6匹の巨大な[龍]。
こちら陣地を睨みつけているのだ。
しかもあれはこのドラゴネス王国を象徴する[神聖巨龍]。
「【大将】は大将エリアから出られないそうだが。あれは良いのか?」
「大将エリアから出なければ魔法を放っても良いことになってる。[召喚師]にとっての[召喚獣]は魔法みたいなものだろ」
「そうか。頑張ってくれ」
「そうはいくか。親友は死ぬときも一緒だ」──手を小さく振りながら立ち去ろうとしたが腕を掴まれた。現在『自称親友ハラスメント』を受けている。
「なぜそんなに熱くなれる? 見てみろ。【リヴァイアサン寮】生徒のほとんどはどうやってすぐに退場してやろうか考えている。負けるための戦いなどするだけ無駄だ」
「なら勝とうぜ。アルバちゃん」
「は?」
「オレたちふたりで【ウロボロス寮】無敗記録をぶち壊そう! 劣等生なオレたちがSSランクの王女様を倒すんだ。滾るだろ! これは」
【魔力なし】と【魔力の放出しか出来ない[遊び人]】。
言う通り劣等生なふたり。
平均的な[魔法使い]にも勝てないような組み合わせだ。
だからこそテレムの戯言に──……。
「その無謀。気に入った」──滾ってしまった。




