【同室】‐Share‐
レオルドが気を利かせたのか、俺の探偵力によるものか──寝室【221号室】。
寮の共同スペースを抜けて階段をひとつ降りたら直進の21番目の部屋。つまり【地下2階21番目=221号室】である。
「使用人室。鍵がかかってるね」──困り顔を向けてきた。
貴族階級が高い生徒の部屋の隣には【使用人室】というものが設けられており、主人が呼んだらすぐに対応出来る。
しかし俺たちの【221号室[使用人室]】には『修理中』の張り紙と鍵がかかっている。
そういえば案内してくれた生徒会長ブラックは──『【221号室】がアルバ様とその使用人の部屋です』──と言っていなかったか?
つまり221号室を共有しろ。ということ。
「同室か。[男同士]だから別に構わんが、ティファはそれで良いか?」──別に意識しているわけではないが勘違いのないよう[男同士]というのを強調する。
「うん。大丈夫だよ。相手がアルバなら安心だし」
くどいようだが[男同士]である。
どんなに性別偽装が上手な[半妖精]だろうと。あざと可愛い女子も顔負けな仕草をしようと、結局のところ──『男の娘』には変わりない。はず。
ならばこの[探偵]アルバは揺るがない。
「それに部屋は違うけどアルバとは【探偵事務所】でずっと一緒なわけだし。なにも起こらない。よね?」
おい、不穏なフラグを立てるんじゃない。
「天地がひっくり返ろうと。お前とは[探偵]と[助手]の関係でしかないさ」──自分の言葉ですら変なフラグにしか感じないのは何故だろう。
おかしな思考回路になっている。
打ち壊すためにもすぐに部屋の扉を開けた。
「げ」──ティファと声が重なった。
2台ではなく2台分である。
夫婦が使うようなダブルベッドが部屋の真ん中に置かれ、気のせいかムードのある装飾までされている。
「……レオルドの指示だな。事件調査の押し付けだけじゃ飽き足らず、俺をここまでコケにするとはいい度胸じゃないか。いっそのこと奴の屋敷を更地にしてしまおうか」
「アルバなら簡単に出来ちゃいそうなのが怖いよね」
「この指輪を外せばの話だ。もう二度と外さん」
俺の右手人差し指には[魔封石龍]の化石から作られた指輪が付いている。
[魔封石龍]は【魔法完全無効化】という強力な種族スキルを有していた絶滅[龍]だ。
その化石を装備することで【魔力なし】として生きて行ける。
弱体化によって俺は[探偵]の美学を守ることが出来るのだ。
その為、[探偵]の手には終えない超越した存在との対立がない限りは外すつもりはない。
「外せばダリア嬢がすぐに見付かって無事に事件解決出来るとしても?」
「もし魔法を使って令嬢を見付けたとしても犯人には辿り着けないさ。[探偵]にしか達成出来ない仕事があるのだよ」
「そっか」──自分には難しいけどそれとなく理解したよ。な笑顔。
部屋の鍵を閉める。
ダブルベッドの上には生徒手帳と制服であろう長いローブ。色は青。
【生徒手帳】
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第二王子レオルド様の身元保証済み。
高等部5年から当学校へ転入。
組:リヴァイアサン
名前:アルバ
性別:男性
種族:人間種
家柄:同盟国の貴族ご子息
職業:探偵
職業パッシブスキル:なし
魔力量:なし
魔力色:なし
属性:なし
[使用人]
名前:ティファ
種族:エルフ種
魔力量:F
属性:土
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昨日依頼があったばかりなのにこんなものまで用意されているなんて手際が良すぎる。
「ノラちゃん。もう誰もいないから出てきて大丈夫だよー」──しゃがんで俺の影に向かって話しかける。事情を知らなかったらシュールな絵面だ。
[探偵の弟子]ノラの魔法は影の中に潜ることが出来る。水に潜るような要領だが息が出来なくなる注意点はないらしい。
しかも他人を影の中に入れる場合かなりの魔力を消費させるが、自分だけならばずっと影の中に入っていても魔力の減りは──(ノラの魔力量が多いのもあるだろうけど)──少ないとのこと。
呼びかけの返事はない。
熟睡しているのか。それとも──……。
「まさか。自分だけで調査に行ってしまったか? ……ブラックの影に……あの生徒会長が怪しいと本能で察したのかもしれんな」
「え!? ダメだよ。ノラちゃんはまだ子供なんだから。なんとかして連れ戻さないと!」
「そう焦るな。奴は[探偵の弟子]。俺たちはノラの成長を誇り、無事を祈ってやるだけでいい。──俺はノラを信じている。必ず有力な情報を持ち帰ってくれるはずだ」
「でも──……ううん、そうだね。ボクも信じてる」
子の成長を喜ぶ親の気分と言うべきか。
まだまだ子供だと思っていたノラがひとりで考え行動し、最善手を打ったのだ。
無事に帰ってきたら褒めてやらねば。ちょっとくらいは甘やかしてやろう。
「……えっと。盛り上がってるところ悪いんだけど……寝てただけなの」
気まずそうに影から顔を出すノラ。
「ちっ」──「舌打ち!?」──「やはりノラはノラだったか」──「『ノラ』を残念用語みたいにしないで欲しいの!」
罰として髪をぐしゃぐしゃに撫でる。
ティファは離れてないのが嬉しかったのかノラの顔を両手でふにふにした。
「貴族ばっかの魔法学校って聞いてたけど部屋はそこまで大きくないの」
「寝るだけの部屋だしな」
あくびが出た。
そういえば昨日から一睡もしていない。
「だから寝る」──ベッドに腰掛ける。授業が始まるまでの数時間。
「じゃあボクも」──横に寝転ぶ。
「ノラも!」──「お前はずっと寝てたろ」──「ちゃんとベッドで寝ないとダメなの」
脚でぐいぐい押されて俺たちの間に陣取るノラ。
不覚にも川の字になった。




