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【資料】‐Information‐

 ──支度に時間がかかり日が暮れてしまった。

【ドラゴネス魔法学校】があるのは王都の中心。

 拠点であるペタフォーク街からは馬車で3時間の距離。


 服選びに疲れたティファとノラは向いの席で眠っている。

 ティファは馬車の壁に寄りかかり、ノラはティファの膝を枕にしている。使用者曰く『至高の心地良さ』とのこと。


「ん……んん」──ティファの寝息。悪夢でも見ているのか汗ばんでいる。──「アルバ。そこ。下腸(かちょう)間膜(かんまく)動脈(どうみゃく)


 どんな夢見てんの?


「にゃはは……アルバより背伸びた。……ちぃび」──お前は起きたらシバく。


 まったく、お気楽なものだな。

 俺はレオルドに渡された『【ドラゴネス魔法学校】の全生徒/役員の情報』の資料に目を通す。

 流石は[職業(ジョブ)軍師(タクティシャン)]。情報収集能力が高い。

 ……と言うか正直怖いぞ。

【名前】【魔力量】【魔法属性】【身体情報】【家族構成】【血筋の起源】【弱み】。

 正確に事細かく。

 平和な世なら『ストーカー気質』と呼ぶのではないだろうか。


「この男だけは敵に回したくはないな」──我が兄ながら完璧主義の度を越している。


 まあ、読み物があるおかげで馬車の時間は退屈ではない。

 ひとりひとりの情報を、まるでアンソロジーや短編集のような気分で読む。

【弱み】の部分なんてまさに終盤のどんでん返しだ。まさか学校のマドンナが薔薇(BL)小説の愛読者だなんて。


 そしてどの情報よりも熟読しなけらばいけないのは──行方不明の【ダリア嬢】。


 ───────────────────


 名前:ダリア・ロングスター

 性別:女性

 種族:人間種

 国籍:ドラゴネス王国


 職業:[盾使い(シールダー)

 パッシブスキル:なし


 魔力量:E+-

 魔力色:水色

 属性:肉体強化


 見た目:長い黒髪でコンプレックスのそばかすを隠している。164cm。拒食なのかと疑うほどに細身。


 家族構成:両親ともに平民の生まれだが、父クリフォード・ロングスターの商売が上手くいったことにより爵位を得た。それ以前は農家の血筋である。


 弱み:平民上がりの為、貴族の子供たちからいじめを受けていた。その反動からか自信が無く、ずっと怯えているような娘だったとのこと。強いストレスに晒されると吃音を引き起こすらしい。


 リリーナとの関係:魔法学校に入ってすぐリリーナと出会う。伯爵令嬢の友人という噂が流れてからはいじめが(少なくとも公の場では)なくなったそうだ。リリーナに感化され明るさを取り戻していったはずである。

 やはり僕のリリィ──【塗りつぶされて読めない文字】。


 行方不明:1週間前の金龍日。登校せず。真面目な生徒だった為、連絡ひとつなかったことが気にかかった教師が寮を訪問するが部屋にはいなかった。自宅にも帰っていない。


 号外:まだ行方不明と断定していない2日目に【第二王子の婚約者がいじめていたご令嬢が行方不明。人知れず命を経ったか?】という号外が発行される。情報屋組合(ギルド)を問い詰めたところ『匿名のタレコミがあった。証拠だってある』と供述。交渉したが証拠がなにか分からず。


 匿名のタレコミ:情報屋組合(ギルド)の会話を断片的に組み合わせ推測するに、学園内でリリーナがダリア嬢に暴力を振るう/暴言を吐いている所を目撃した人物がいる。──このあたりだろう。組合(ギルド)はその生徒の記憶映像を証拠として持っている? いいや、ありえない。彼女に限ってそんなことは──【塗りつぶされて読めない文字】。


 ───────────────────


「なるほど。性格の悪い策略で多くの[軍師(タクティシャン)]を泣かせてきた男が随分と追い込まれているじゃないか」


 とりあえずは魔法学校に着いたらやるべき事は見えたな。

 ──【匿名のタレコミ】をした人物を探し出すこと。

 容疑者はこの分厚い資料の中にいる。

 その人物がダリア嬢の行方不明に関わっているかは定かではないが事件の重要人物であることは間違いない。


 そうして再び資料を読み(ふけ)る。

 この事件はダリア嬢自身の意思で行方をくらましたのか。誘拐事件か。

 もし誘拐ならば犯人は誰なのか。


 ──リリーナに恨みを持ってそうな人物。

 ──またはダリア嬢/父クリフォードを邪魔だと思っている人物。

 ──王位継承候補であるレオルドを(おとし)めたい人物。この場合兄弟の支持者。または兄弟自身。


 容疑者が絞られていくが、結局は仮定の話。

 計画的ならともかく突発的な犯行ならば資料だけで答えを導くのはほぼ不可能だ。


「──……っ」


 馬車の窓に日が入ってきたから目を閉じる。

 朝日、熱中していたせいか時間の進みを忘れていた。


 窓の外を覗くと目的地である魔法学校が見える。

 まるで王の城と見間違えるほど巨大で立派な建物。

 馬車が近づくと学校の門が開き、招き入れてくれる。

 巨大な庭と湖。王都の一部ではあるものの、この敷地だけでも立派な国だ。


 しばらく進むと突然止まった。

「起きろ。到着だ」──眠っているティファたちを起こし馬車から降りる。ウトウトしているノラは俺の影に隠れた。


「ようこそ【ドラゴネス魔法学校】へ。私は生徒会長【ブラック・フレイド】であります。お待ちしておりました、第二王子レオルド様のお知り合いのご友人アルバ様」──出迎えてくれたのは制服をきっちり着ている真面目そうな男子生徒。赤い髪のセンター分けポニーテール。


【ドラゴネス魔法学校】生徒会長──資料に【要注意】と書いていた人物。

 ダリア嬢の婚約者。海外ミステリーでは大抵『妻が被害者の場合、犯人は夫』というのが定番である。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ダリア嬢、女性にしては……? [一言] 更新ありがとうございます! レオルドがツンデレっぽくて(・∀・)ニヤニヤしましたw ティファのねごと…なるほどかちょうかんまくどうみゃく……
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