【解決】‐Solve‐
■探偵組
【アルバ】本作の主人公。職業:探偵。
【ティファ】新米の助手。職業:医者。
【ノラ】依頼人の幼女。
■黒幕
【ガノールフ】元王宮魔法使いの老人。★
■戦闘不能組
【レリック】品がない冒険者。職業:剣士。
【アン/ドゥ/トロワ】レリックの取り巻き娘。職業:魔法使い。
──勝利したのはノラだった。
かつて『人間種最強の[魔法使い]』と呼ばれていたガノールフを打ち負かしたのである。
[猫亜人]と[人間]のハーフだからか、ガノールフの老いか、なんにせよ幼女は勝った。
──といってもノラのほうはボロボロで、ガノールフは無傷。
後方には崩れた[土塊人形]たちの欠片。
[土塊人形]は破壊されても[魔法使い]が魔力を流し続ける限り戦いをやめない。──つまり本来人間種の最上Cランクの[魔法使い]を魔力切れさせた。
ここまで相当の苦労があったことだろう。
「おじじ、なにか言い残すことがあるなら聞いてやってもいいの」
「なにも。……バアル様復活に父親を利用したことは、今でも罪悪感はない。謝罪は不快なだけであろう?」
「うん」
[魔法使い]は自分の好奇心を満たすためであればどんな悪だって行えてしまうような者が多い。時に[人間]の心を捨て魔法研究に没頭することまである。
後悔という罰は[魔法使い]には縁遠い。
ならば──……。
ノラは[悪精霊花]の根の毒を染み込ませたナイフを振り上げる。
人でなしならば、モンスターに変わり果てる罰がお似合いだ。
首元目掛けで振り下ろ──……。
「なんで止めないの? 王子様」──バアルを討伐し帰ってきた俺に視線を向ける。
ガノールフは俺が勝ったことに然程動揺していない。
バアルの信者であったはずだが──『やはりそうか』──と拍子抜けな微笑みを見せた。
「止めて欲しいのか?……『王子様』と呼ぶな、むずかゆい」
「[探偵]は正義の味方なの。悪を行おうとするものは絶対に許さない」
「いや[探偵]は結構際どいぞ」──人によっては悪寄りの中立だったりする。『死神』なんて呼ばれる奴までいる。
「パパが言ってたから間違いないの」
確かに彼はそう言っていた。
探偵の始祖であるヴィドック大先生がそうおっしゃるならそうなのでございましょう。
ならば正義の味方として目の前の悪は見過ごすわけにはいかんな。
「俺が『復讐なんてやめろ』と言えばやめてくれるのか?」
「どうだろ。命の尊さとか解かれても逆効果かも」
「じゃあまず、なぜガノールフを殺さなくてはいけないかを教えてくれ」
「誰かのものを壊したらそれと同等の物を支払うもの。だから命は命で支払うべき」
「お前の父親とこの罪人の命は同等か?」
「パパは命は平等だって」──困り顔でこちらを覗く。──「……でも、パパとおじじが同じなんて、やなの」
おそらく命を奪わない理由を探している。
ヴィドック大先生の娘だ。うっとうしいほど愛されて、彼の善性を見ながら育った。
父親の死の真相を探るべく【魔法使い狩り】として暴れ回ったが、黒幕を前にして戸惑う。
今まで追っていた正体も分からない犯罪者が、ただの老人だったのである。
化物を相手にしていたつもりだったのかもしれない。
「どうせ魔法犯罪は立証されない。[悪魔]に憑き殺されたのなら尚更。私が憎いならば殺すが良い。そうすることでしか父親の未練は断ち切れんぞ?」──悪に堕とそうとする囁き。
ナイフを持つ手が震えた。
黒い感情がノラの心をぎゅっと絞めつける。
もう我慢ならん。どうにでもなれ。
「お前が選べる選択はふたつだ。①ガノールフを殺害し、父親の無念を晴らす。追わないから逃げろ。そして一生独りで生きていく。──②俺とティファと一緒に探偵事務所を開き。探偵の弟子として一生こき使われる。ミルクティーくらいは毎日飲ませてやる」
「………………いいの?」
「好きな方を選べ」
地面にナイフが落ちる。
それからこちらに駆け寄って、顔を見せないように抱き着いた。
「ふたりと一緒が良い」
「あんまりひっつくな。うっとうし──いっ」──腹に頭突きされる。
引き離したら服が鼻水と涙でぐしょぐしょである。
「お前よくもお気に入りの一張羅を!」
「王子様なんだから何着も持ってるはずなの。心が狭い」
「城を出てからほぼ一文無しだ!」
「え。ノラもお城に住めると思ったのに。貧乏ならアルバと一緒にいる必要ないの」
「甘えるな小娘ッ!!」
威嚇し合う。
さっきまで哀愁漂わせていたのに、なんだこの変わり身は。
ノラの頬っぺたをつまんで伸ばす。
「もう、やめなよ。ふたりとも」──間に入ったのはティファ。ノラを救い出し「痛かったね」と慰める。
まるで『犯人はこの人です』と言わんばかりにこっちを指さすノラ。
「やだね。ボクがちゃんと『めっ』てしておくから安心して」──母性でも目覚めたのかと思うほど口調が優しい。──「アルバ。えっと……王子様?」
「やめろ、むずかゆい」──その流れはもうやった。
「えへへ、おかえり」──「おう」
なんだか気が抜ける笑顔。
思い返すと色々とあった依頼。ティファの笑顔を見たらようやく終わった気がして急に疲れが襲ってくる。
「大団円には早いと思いますぞ。問題は残っているのでは? アルバート第三王子」
問題そのものが横槍を入れる。
魔法犯罪の立証は難しい。
しかも容疑者は【元王宮魔法使い】。下手したらもみ消される可能性だってある。
俺がアルバートとして魔法省に突き出す方法が確実だが、間違いなく城に連れ戻されるからそれは避けたい。
そもそも立証出来ないなんて誰が言った?
「安心しろ。証拠はある。お前は確実に魔法省の監獄に送ってやる」
「ほう。レリックの上書きされた記憶ですかな?」
「もっと確実なものだ。ティファ」──俺が合図すると右手を開いてこちらに見せる。
薄緑色の石──【記録石】。
所有者が魔力を注ぐとその場の映像と音声が記録出来る魔法道具。
【地下迷宮街】の飲食店『トヨウケの里』で押し売りされた廃棄品同然の石である。
まあ、使い時はあった。
不良品でなければガノールフの自供が全ておさめられている。
「なるほど。私の完全敗北というわけですな」
──こうして【[魔法使い]が消えた地下迷宮最下層】は解決。
魔力タンクにされていた冒険者たちもみな命に別条はなかった。
【ガノールフ】は魔法省が管理している[魔封石龍]の化石から作られた監獄にて無期懲役が言い渡された。
【ヴィドック】はノラと一緒に探したこの世界で一番景色の良い場所に埋葬する。
【レリック】たちは……知らん。
たぶん元気にやっていることだろう。冒険者を辞めて田舎で素敵な家庭を築いているやもしれん。
俺たちは事件解決後しばらくして念願の【探偵事務所】を手に入れることが出来た。
ヴィドック大先生が娘ノラの為に遺してくれた【巨大なルビー】を換金したためである。(出所が怪しいため闇市で)
ティファと同じく【記録石】を押し売りされていたそうで、そこに残っていた動画によって隠し場所が発覚した。
──異世界に転生してから、ようやく[探偵]人生の幕が上がった。
冒険者組合に顔を出す回数も減るだろう、俺は紅茶を飲みながら事件が扉をノックするのを待っている。
「アルバ。全然依頼が来ないの。働け」
「ノラちゃん。カッコつけてるところだから邪魔しちゃダメだよ」
──────第一章 魔法使いが消えたダンジョン最下層 【完】




