【始祖】‐Founder‐
■探偵組
【アルバ】本作の主人公。職業:探偵。
【ティファ】新米の助手。職業:医者。
【ノラ】依頼人の幼女。
■黒幕組
【ガノールフ】元王宮魔法使いの老人。★
【バアル】上級悪魔。ノラの父親に取り憑く。
■戦闘不能組
【レリック】品がない冒険者。職業:剣士。
【アン/ドゥ/トロワ】レリックの取り巻き娘。職業:魔法使い。
前髪を引っ張ると黒髪に戻っている。
指輪をつけるとどういうわけだか金髪に変わるのだ。
この世界では黒い髪は珍しい。
前例を見るに転生する前の世界が関係している。
異世界召喚された勇者たちやその子孫はもちろん、転生者とその子孫までもが黒髪で生まれてくるらしい。
しかし俺の場合、魔力を封じ込める指輪をすると金髪になる。
遺伝的には不思議ではないのだが、髪の色が変わる原理がよく分からないからもやもやしてしまう。そもそも能力解放時に金髪になるのが主流では? 知らんけど。
「なにをのんきにぼうっとしてる。神を前にして余裕じゃあないか。気に食わん」
「ああ、すまん。久しぶりの感覚なものでな」──魔法はあまり好きではないが、確かに高揚感を覚える。
変わったと言えば【バアル】の方だ。
ノラの父親の姿をしていたが今では、醜い[悪魔]そのもの。
伝承通り──【蠅の魔王】。
醜聞によって堕とされたなれの果て、神の面影はどこにもない。
『神なのに悪魔』──どっちつかずの存在。
まるで『ファンタジーなのにミステリー』みたいな中途半端な探偵小説みたいだ。
そんな風に考えたら、なんだか親近感が芽生えてしまう。
「なにを笑っている?」──馬鹿にしていると思われたようで睨まれた。
「いや、ちょっと面白くなってな」──似た者同士語らわなければ。──「どうせなら薄暗い地下じゃなく、もっと景色の良い場所に行こう」
バアルは俺の魔力を吸い上げて【神種領域ランク】に到達した。
[地下迷宮]のルールにはもう縛られていないはずだ。【設置場所の約半径20メートルしか行動せず、地下迷宮から出た記録は一度もない。】の範疇ではない。
「せっかく立派な翅が付いているんだ。空へ行こう」
手を差し出す。
バアルは訝しげに──「……空?」
「逢引というやつさ。断ってくれるなよ」
「【転移魔法全般使用不可領域】で【転移魔法】を使うつもりじゃあないよな? モンスターの配置とはわけが違う。絶対的なルールだ」
「ああ。だから試したいことがあってな。──【消失】」
[地下迷宮]の天井が──消えた。
この最下層だけではなく、すべての階層が……もはや巨大な落とし穴のようになってしまう。
多方向から「いやいやいやっ!!?」と現実を受け入れられない悲鳴が響く。
まだ明るかったら影が使えずノラに恨みを買うところだったが、幸いもう夜である。
「この状態でも[地下迷宮]と認識されるのか。【転移魔法全般使用不可領域】のままか。──【転移魔法】」
景色は一瞬にして変わる。
どうやらあそこまで破損したら[地下迷宮]とは認識されないらしい。
薄暗い地下から雲の上、満天の星空。随分と遠くだが[龍]の親子が飛んでいるのが見えた。
ずっとジメジメした空気を吸っていたから外はやはりうまい──とも思ったがやはり空気が薄い。
天空にはふたりだけ。なんてロマンティックなのだろうか。
「好き勝手しやがって!」──バアルが右腕を大振りすると竜巻が襲ってくる。
俺が手招きすると竜巻は球体になって手に収まる。
その風の球体をバアルの翅目掛けて打ち込む。
「──クソッ!?」──見事命中。
飛ぶ手段をなくしたバアルは落ちていく。
そう何度も堕天しては可哀想だから【飛行魔法】をかけてやる。
「馬鹿にすんじゃあねぇ。我は打ち砕かれた怒れる神。例えこの身が糞にまみれようと我が敵を蹂躙す──【穢れし主神の暴食】」
緩やかだった雲が荒れ始め、巨大な蠅の形になりこちらへ──指を鳴らす。
巨大な蠅の身体に大穴が開き、バアルの魔法は消滅する。
「次はこっちだ。──【星降りの矢】」
星たちがバアル目掛けて降る。
名手が放った矢のように光が打ち抜く。数個は避けれたようだが何千もの光の矢が直撃。
まさに虫の息。
「──……俺を消せば、【地獄】の牢獄に囚われたヴィドックは一生救われない。苦しみ続けるのだ」
[悪魔]の器にされた者の魂は【地獄】の牢獄に送られ、永遠の苦しみを味わわされるという。
【地獄】に行くことが出来たとしても牢獄の場所を知っているのは身体を奪った[悪魔]のみ。
俺は右手で拳銃の形を作り、バアルへ向ける。
「た、探偵の始祖であるヴィドックをこのままにしておいて良いのか!?」
「『[探偵]のお仕事ってのはな殺人犯との頭脳勝負なんかじゃあない』」──「『死者を正しく送ってやること』」
【地獄門】──バアルの背後に禍々しい巨大な門が現れる。
開門。先はその名の通り地獄絵図。
[悪魔]や[鬼]が罪人たちを拷問し続けている様子が見えた。
【蜘蛛の糸】──右手の拳銃の先から蜘蛛の糸がバアルを貫き門の先へと飛ぶ。
釣りに獲物が引っかかるのを待ち、反応があると速攻引く。
大物を釣り上げるような勢いで。
白い靄のようなものが釣れた。
その靄がバアルの身体に入ると[悪魔]がはじき出される。
本来の魂が身体に戻ったのだ。
「出番が少なくてすまないな。でもまあ、他作品で擦り倒されてるから安心してくれ。バアル・ゼブブ」
「バアル・ゼブルだ!!!」
魔法で攻めるのを諦め、肉弾戦に持ち込もうとする。
叩き潰そうと腕を上げ──……。
「【探偵を亡き者にした不条理に裁きの鎖を】」──異次元から出現した無数の鎖が拘束する。──「[悪魔]は名を呼んだら退場するものだろ?」
「アルバート・メティシア・ドラゴネス!!!!!!」
呪いの言葉のように俺の名を叫びながら【地獄門】に閉じ込められる。
……まさか俺を[悪魔]認定したから名前を呼んだとかじゃないよな?
門が完全に閉まると霧のように消えていった。
「[悪魔祓い]の才能まであるとは、我ながら恐ろしい」
なんて言っている場合じゃない。
魂が戻ってきた器が絶賛落下中である。
急いで追いかけて身体を掴む。
筋肉隆々なせいでとても重い。腕が引き千切れるかと思った。
──魂が戻って来たからといってやはり生き返るわけではないようだ──。
しかし心なしか安らかな表情を浮かべている。
「ヴィドック大先生。俺は異世界でも──貴方が始めたことを、[探偵]を続けていく」
聞こえてはいないだろうが、そう誓った。
【ヴィドック】世界初の探偵。彼の著者『ヴィドック回想録』は多くの探偵小説家に影響を与えた。




