【真相】‐Truth‐
■探偵組
【アルバ】本作の主人公。職業:探偵。
【ティファ】新米の助手。職業:医者。
【ノラ】依頼人の幼女。
■黒幕組
【ガノールフ】元王宮魔法使いの老人。★
【バアル】上級悪魔。ノラの父親に取り憑く。
■戦闘不能組
【レリック】品がない冒険者。職業:剣士。
【アン/ドゥ/トロワ】レリックの取り巻き娘。職業:魔法使い。
現状に追いつけず固まっているティファとノラ。
まずティファの肩を軽くたたき。──「レリックが負傷した、手当を頼む」
なんとか現実に戻って来てくれた。流石は[医者]。
倒れたレリックの方へと駆け寄る前に耳打ちする。
「ひとつ頼みごとがある」──息がかかってくすぐったいのか長い耳がぴくぴくっと震えた。
伝え終えると強く頷き。──「まかせて。……あまり危ないことしないでね」──と小さく手を振ってレリックの方へと走っていく。
──問題はノラの方である。
魔王のような立ち振る舞いをしているボスモンスターが、姿を消した父親と瓜二つなのだから。
けれどノラだって理解している。
──あの魔王は父親に取り憑いた[悪魔]であることくらい。
そして[悪魔]の器にされた場合、魂は【地獄】の牢獄に送られ永遠と苦しみ続けることも。
理解は出来ているが、受け入れたくないのだ。
だから【魔法使い狩り】と恐れられた切り裂き魔だろうと立ち竦む。
──助けてやりたいがかける言葉が見当たらない。
そもそもノラにばかり構っていられない。
俺たちに虫程度の興味しかない瞳を向けている魔王は──ただの【殺害方法】だ。
ノラの父親を[悪魔]の器にし、殺害した張本人がいる。
「魔王の為に魔力タンク集めか。【王宮魔法使い】から【魔王の使用人】とは、随分と身分が下がったな──……ガノールフ」
魔王の間の横から立派な髭と高価なローブ、これぞ[魔法使い]な老人が現れる。
悪役みたく微笑むばかりで口を開かない。
──どうやら、答え合わせがしたいようだ。
「お前はこの【魔法使いの地下工房】の製作者と知り合いだったのだろう? でなければ顔も知らない人物の死を断言するのは妙だ」──「魔法研究のために【王宮魔法使い】を辞職したお前は製作者の研究を引き継ぐことを決意」──「けれど石碑の謎は解けなかった」
〝転生者〟ではないから当たり前だ。
だから【解読魔法】を得意とする冒険者ヴィドックに依頼することにした。
流石に【魔法使いの地下工房への行き方】とは依頼出来ないため【ここでしか手に入らないレアドロップ品の取得】と偽装。
顔の広いガノールフであれば魔法省の書庫にあるロナードの論文【呼び寄せ魔法】に目を通していてもなんら不思議ではない。──ヴィドックにだけ依頼を受けさせるのは造作もなかったはずだ。
「ヴィドックは依頼を達成し、[虚偽記憶の水晶]を受け取ったお前は石碑の秘密を聞いた」──「そして案内のもと魔法使いの地下工房へと向かった」
「しかしたまたま[地下迷宮]に潜っていた[剣士]に目撃されてしまう」──「その男に[虚偽記憶の水晶]を使い記憶を書き換えた」
そのまま道具を渡して帰らせる。
レリックは酒場に向かい、道具の後遺症のせいで情緒不安定になっているということもあって泥酔という形で片付けられた。
「目的地まで辿り着き、研究成果を確認」──「それから口封じのためにヴィドックに[悪魔]に憑依させ、殺害した」
魔王の間に拍手の音が響く。
ガノールフが愉快そうに笑っている。
「流石、アルバート第三王子。昔から割れたガラス片をつなぎ合わせて元通りにさせるのが好きなお方だった。……そんなことをしても、割れたことに変わりはなかろうに」
「俺のこと、憶えていたのだな」
「ええ。ええ! 忘れませんとも。【奇跡】の体現者。我ら[魔法使い]の道しるべであった貴方様を忘れたことなどありませんとも」
深々と頭を下げる。敬意を込めて。
王に剣を捧げた騎士のごとく。
その場面を目撃したノラは目を丸めて、こちらに顔を向ける。
魔王のことを忘れるくらいの衝撃だったらしい。
ティファに至っては──「ぎょえええ!?」──魚の断末魔みたいな驚愕の声を上げた。
「……なぜ衣服だけが教会に転移した?」
「時間差と言いましょうか。生贄にはある程度弱ってもらう必要があったので攻撃魔法を少し、しかし憑依する前に【瀕死状態時の転移】が発動。なんとか間に合い、肉体だけがとどまった」
「冒険者ではなくモンスターと認識され、肉体だけがはじかれたという方がしっくりくるな」
「そうかもしれませんな」
「それで? [悪魔]を使って世界征服でも企んだが[地下迷宮]のルールに適用され、モンスターはその場を動けない。だから冒険者を攫って魔力タンク集めか。……道化すぎるだろ。お前」
冒険者は行方を消しても依頼失敗で命を落としたと思われるため、都合が良い。
今回の依頼を受けたのもそれが理由だろう。
【呼び寄せ魔法】の効力もあるが、[魔法使い]を対象とした依頼ならば魔力量の高い冒険者が集まると考えた。
「バアル様が本来の力を取り戻せば、女神の加護など馬鹿げたものの呪縛から解き放たれる。──そして正しい神としてこの世界を導いてくださる」
「それが【動機】か」
なんて壮大で、探偵小説にあるまじき動機。
相変わらず「異世界ってやつは」と小言を漏らしそうになった。
「動機。……はじまりは信仰対象の喪失。貴方様が我々の前から姿を消し、道を見失った。──だと言うのに魔力を使わず[探偵]などと名乗り冒険者をしていた。これほどの侮辱があろうか! もう私の道しるべではない」──憎しみを込めて杖を振る。──「我は生命を裏切る者。心なき従僕よ、我が敵を滅せよ。──【土塊人形】」
巨大な[土塊人形]が4体、ガノールフを囲うようにして現れる。
──……このジジイ、音楽家の痛いファンかよ。
推しが活動中止したから新しい推しと好き勝手やってます、てか。
メンヘラジジイの需要。どこ?
「そんな理由で? 人でなしに相応しい姿にしてやるの」──ノラはナイフを地面に突き刺し。──「我は影を統べる者。陽は沈めど、影は底なし。──【影の流砂】」
[土塊人形]が影に溺れる。
あがいているが、下半身が徐々に沈んでいく。
「卑しい半獣め。邪魔をするな」
「アルバ。このおじじはノラの相手なの。だから。奥にいるパパの皮を被ったやばい奴、なんとかしてほしい」──「彼は影を歩む者。導くは影の国。陽と影は反転す。──【影道】」
俺の返事を待たずしてノラは魔法を展開した。
まばたきひとつで世界が一変する。
白黒で静かな景色。
先ほどまでいた魔王の間には変わりがないのだが、歪みがあるし俺以外誰もいない。
──[土塊人形]の下半身が地面から生えている。
ここはノラの魔法。影の中。
小学生の下校遊びを思い出しながら、白線の上だけ歩くゲームみたく影の上を進んだ──。