【例外】‐Exception‐
【トキ】鳥亜人。ノラの助手。職業:仕立屋。
【ノラ】猫亜人。探偵の弟子。職業:獣術師。
【ユリアス】ドラゴネス第一王子。圧倒的長男。職業:剣士。
僕とノラの前には全身オリハルコン製装備で身を包み、手には剣──初見でもそれが聖剣だと確信出来る豪華さ。
肩には[魔封石龍]の化石で作られたと思われる大剣。
整えられた綺麗な金髪にキリっと凛々しい顔立ち。
瞳は青色。
その容姿だけでも彼がドラゴネス王国の王族という証拠に成り得る。
しかも騎士団を率いる第一王子となると国民にも顔が知られている。
【ユリアス・グレンデル・ドラゴネス】──SSランクの[剣士]。
勝てるわけがない。
ここは引いて──。
「そこをどいて。そもそも名乗らずノラたちの目的を妨げようとするなんて無礼極まりないの!」
無礼者は君だ。
ここが王国なら不敬罪で首が飛んでもおかしくない。
急いでノラの口を塞いで身体を抑える。
「も、申し訳ございません。僕たちはただの迷子、しかもこのノラという娘は絶望的に方向音痴なもので──きゃっ!?」
口を塞いでいた手を舐められた。
びっくりしてノラの拘束を解いてしまう。
「方向音痴じゃない。いますぐアルバを助けに行くの!」
吠えるとユリアス第一王子は驚いたような顔を見せた。
「ふむ。末弟の友人か。なら、なおの事ここから先は行かせられん。魔封じの化石を装備しているようだが、童を死地に送ったとなればそれこそ王族の名折れだからな」
「……王族?」──ようやくノラも感づいたのか緊張感を増す。ただ武器を構えるのはやめて欲しい。
「ああ、名乗ろう! 兄の名はユリアス。ドラゴネス王国の第一王子だ。──む?」
確かに聞いた。
相手が王族だと。
王位継承に最も近い第一王子だと。
だというのにノラという少女は気後れすることもなく、短剣2本握りしめ突撃していく。
しかし当然のことながらいなされる。
それはもう文字通り赤子の手をひねるがごとく。
「流石に不敬罪で首が飛ぶよ。バカノラ!!」──今世紀最大に血の気が引いている。
いなされ続けても攻撃をやめようとはしない。
迷いのない連撃。
「なかなか筋が良い」
ユリアス第一王子はご満悦。
まるで稽古でもつけているように、攻撃のアドバイスをする。
そのおかげかノラの斬撃は次第に鋭さを増していく。
なんだこの状況は。
ノラに出会ってから僕の人生は大忙しだ。
始まりはひったくり犯を捕まえたノラに興味を持ったから。
子供のくせに危ない事をしているなと。
『〝依頼人探し〟で街を巡回しているの』だとノラは言った。
暇を持て余していたし、面白半分で後ろについていたらいつの間にか[探偵助手]というよく分からない称号を得る。
ノラはよく家族の話をしてくれた。
『家族のような他人』という存在らしいが、言葉に含まれる愛情で彼等がどれほど大切なのか伝えわってきた。
「どんなに偉いか知らないけど、ノラの邪魔をするなら倒すだけなの!」
だから必死に立ち向かっているのだろう。
僕はノラの斬撃をいなそうとする剣の前に立ち盾で防ぐ。
しかし身体が軽すぎたのか吹き飛ぶ。
「トキ!」
「……まったくしょうがない。不敬罪仲間になってあげるよ」
カッコつけたのはいいけど、手がひりひりする。
戦いなんて初めてだから足も震えている。
「何故逃げない。童たちが行こうとなにも変わらん。装備で魔法を封じようと魔力なしの状態で〝あの存在〟には勝てないのだから」
ユリアス第一王子に敵意はない。
ただ純粋に僕たちの身を案じて道を塞いでいる。
確かに【神種領域ランク】の[魔法使い]が未知過ぎるから、【洗脳魔法】などを危惧しての魔法封じの装備をしているが、この装備がプラスに働くのは元々魔力なしの者くらいだろう。
魔法を使えない状態で最強の[魔法使い]同士が戦っている戦場に向かおうとしているのだから無謀と言われても仕方がない。
むしろあちらが正しい。
「なにも出来なくても見届けるの。負けそうになったら背負ってでも逃げるし、勝ったら駆け寄って褒めてあげるの」
「頑固者め」
「それに〝家族〟は一緒にいないとダメなの!」
「──……っ」
もうヤケだ、[人間]の見た目をしたノラは駄々っ子のように地団駄を踏む。
ノラは[猫亜人]と[人間]の混血。
魔力を失うと[亜人種]ではなくなる。
そして付け加えるとするのならノラの職業である[獣術師]にはもうひとつ魔力を手放す方法が存在する。
「黒猫」──ユリアス第一王子の後ろに巨大な獣。
魔力に守護霊を憑依させ、自分から分離させる。
つまりノラは[魔封石龍]の化石を装備していても守護霊と共に戦うことが出来るということ。
「──見事!!」
巨大な黒猫はユリアス第一王子に強烈なパンチを喰らわせると、不意打ちだったからか思った以上に吹き飛ぶ。
「行くの。トキも乗って!」
「わ、わかった」
黒猫に背負われ、発進。
「待てぃ! 勇気ある童2匹!!」──後ろから大声。
それと同時に空から無数の剣が降り注ぎ、進行方向を塞ぐ。
剣の壁である。
後ろに視線を送ると背負っていた[魔封石龍]の化石の大剣を地面に突き刺し、仁王立ちでこちらを見据えるユリアス第一王子。
「家族だから見たくないのだ。〝あの存在〟がどう生まれてどこから来たかは知らん。だが兄の末弟だというのは分かった。ならばこの戦いの中心には末弟と末弟がいるのだろう。兄はそんな光景は見たくはない。あまりにも悲しいではないか」
再び大剣を背負いこちらに歩み寄る。
……戦いは避けられないか。
「しかし童、いやノラと言ったな。末弟を『家族』と呼んだ。──ならば兄の妹と同義! 妹の願いを叶えられずしてなにが兄か。戦場へ向かうぞ」
「へ???」
【兄が仲間に加わった!】




