【対面】‐Face-to-Face‐
【アルバ】本作の主人公。職業:探偵。
【ティファ】探偵の助手。職業:医者。
【アルバート】別の世界のアルバ。職業:魔法使い。
頭の中に直接語りかけらた。
背筋が凍るような冷たい声。
周りを見渡すとそれが俺だけではないと確信する。
『この世界のドラゴネス王国第三王子アルバートよ。闘技場にて我は待つ。来なければ無辜の血が流れよう』
推理しなくともこの言葉の主が誰なのか簡単に行き着く。
まるで封印されていた魔王が復活したかのような絶望感。
ベルカーラに視線を向けると複雑な微笑みと「覚悟は出来ている」と言わんばかりの頷きが帰ってきた。
他の者に状況は説明したのだがあまりに突拍子のないことでほとんど理解してもらえなかっただろう。
それでも『アルバの敵なら一緒に立ち向かう』と言ってくれた。
──……正直なところ逃げ出して欲しい、とも思ってしまう。
「皆さん、武器の装備を」
[公爵令嬢]ベルカーラ。──[魔封石龍]の化石【大剣】装備。
[専属メイド]ネネルカ。──[魔封石龍]の化石【ナックルダスター】装備。
[探偵の弟子]ノラ。──[魔封石龍]の化石【短剣2本】装備。
[弟子の助手]トキ。──[魔封石龍]の化石【手持ち盾】装備。
[魔法省]ルパナ。──[魔封石龍]の化石【短剣】装備。
[魔法使い]殺しの武器がこんなにも。
まるで合戦準備だ。──いや、〝まさに〟それか。
「準備してもらったのに悪いが俺に武器は不要だ」
「アルバ。〝いつもの美学〟は今は捨てて、彼とは魔法で戦ってくれるのですよね?」
「自己防衛の為には使うさ。だが[探偵]として奴と対峙する」
「よく分からないけど、相手はアルバよりも強い[魔法使い]なんでしょ。だったら、絶対に〝ミステリー〟は成立しない。だから……」──ノラが袖を引く。
変な意地を張らないでちゃんと戦ってくれ、と。
「うん。ボクも武器はいらないよ。[医者]が人を傷付けたら本末転倒だからね」
しかし追い打ちをかけるようにティファも胸に手を置き、前に出る。
ノラが余計に困り顔をしてしまう。
「安心しろ。いつの時代だって[探偵]が犯人に勝つと相場で決まっている。滝の底に沈んだとしても意地でも帰ってくるさ」
「それにさ。敵は別の世界のアルバなんでしょ? だったら、多分だけど言葉で戦える」
「約束、して欲しいの」
ノラは小指を立てた。
俺たちはその小指に自分の小指を結んだ。
ゆびきりげんまん。
誰一人欠けずにこの事件を解決してみせるさ。
「俺とティファは先に闘技場に向かう。お前たちはまず帝国の住民を避難させてくれ」
「はい。すぐに向かいます」
ティファの肩を掴む。
肩に力が入っているが、当たり前か。
正真正銘、最強の[魔法使い]を相手にするのだから。
「【転移】」
──……場所は闘技場入り口。
横にはティファのみ。
建物内にこの世の者とは思えないほどの魔力量を感じる。
まさに【神種領域ランク】。
この世に生を受けて、初めて自分よりも上位の者と対面することになる。
「ボクで、良かったの? 戦闘ならベルカーラさんの方が……」
「お前も言っていたではないか、言の葉で戦えるかもしれないと。ならば俺はその可能性に賭けたい」
俺は奴を知らなければ。
ユリアス辺りなら「戦いにこそ心の語り合いがある」だとか言いそうだが、俺はそこまで脳筋にはなれない。
「それに、ベルカーラにかっこ悪い所は見せられんからな」
「えへへ、男の子だね」
「お前が言うとなんだか語弊がありそうだな」
「なんで!?」
闘技場に繋がる通路を歩いていく、光が刺す。
その中心に待っていたのは俺とよく似た容姿を──していない。
「……女性」
横で困惑の声が上がった。
そう、それは女だった。
地面に付きそうなほど長い金髪。
黒いドレスを着用し、胸はほどほど。すらっとした体系。
確かに顔の部分としてはよく似たものだが、色気というか。
人の領域を外れた美女であった。
「我が誰だか解るな? この世界のアルバート」
「待て。さっきまで確信があったが」
「まだ我の正体に辿り着いていないと申すか。なかなかに愚鈍ではなかろうか」
断じて違う。
混乱理由を察しろ。
「別の世界のアルバート・メティシア・ドラゴネス。[錬金術師]プレラーティが造った[人造生命]を器にした。女性なのは、魔力の許容量の問題だろうか」
「正解だ。女体化させられたのは奴の趣味も含まれていようがな」
品定めするようにこちらを眺める。
なにか相違点を見つけたようだ。
「髪は黒なのだな」
「そちらの俺は違うのか?」
「ドラゴネスの王族は金髪青瞳と相場が決まっている」
「そうか。違いがあって良かった。第三者でも見分けが付けられる」──それ以前に性別が違うが。
「それはそうと、なぜまたその家畜を連れている。生贄の供物か? 悪いが我は、そのような[半妖精]の命ひとつで収まる厄災ではないぞ」
冷たく、本当に飼育されている家畜を見るような瞳をティファに向ける。
──その視線だけで確信する。
「お前は誰だ」──明らかに価値観、思想が違う。
相手は不思議そうに目を丸めた。
それから腹を抱えて笑い出したのだ。
「ふはははは、まさか貴様から問うてくれるとは。ああ、そうだな。我等は同じ個体のはずなのにあまりに違う。プレラーティから貴様の話を聞いた時、『一体誰の話をしているのだ?』と頭を抱えてしまったほどだ。我からも問おう。──貴様は誰だ」
俺たちにはあまりにも相違点が多すぎた。




