【禁じ手】‐Prohibited‐
【アルバ】本作の主人公。職業:探偵。
【ノラ】猫亜人。探偵の弟子。職業:獣術師。
【トキ】鳥亜人。ノラの助手。職業:仕立屋。
「ミステリー不足だ。誰か俺にイキの良い謎を」
今回の事件には知恵比べという展開があまりにも乏しい。
元々魔法という存在は[探偵]に配慮なんてしちゃくれないが、今回の事件の犯人は──[探偵]の天敵だ。
そして推理が正しいのであれば、まさにミステリーの禁じ手。
『探偵自信が犯人』なんて使い古されたどんでん返し。
伝統芸能と言っても過言ではない。
なにより、もしも本当にこの事件の犯人が【アルバート・メティシア・ドラゴネス】であるのなら、それは魔法そのものを相手にしなくてはいけないという事だ。
「本当に魔法ってやつは──……」
「アルバ、暇なの?」
自室のベッドでぐだっとしていると客人が来た。
俺の真似事で[探偵]をしているノラとその助手トキである。
トキはノラの後ろに隠れており、話によると男性が苦手だそうだ。男装ロリのくせに。
「暇というよりも栄養不足だ」
「食べ物持ってきてほしいの?」
「なにを言っている。[探偵]の栄養といえば事件であろうが。事件があれば飲まず食わずで2週は持つ」
「……ノラは謎より食べ物が良い」
「それはお前たちが未熟な証拠。ちびっこ探偵コンビ」
「──むぅ!」
フグのように口を膨らませるノラ。
後ろのトキも腹が立ったのかむっと表情を変える。
ベルカーラはなにやら戦闘準備だとか言って外に出ている。
しかも『抜け駆け禁止』と言って何故だかティファとルパナまで連れ出された。
ベルカーラの専属メイドであるネネルカでさえこの地下施設の手伝いをしている。
手付きなのは俺とこの幼女2匹だけ。
──[探偵]の師として手ほどきをしてやってもいいだろう。
「ならば推理ゲームで[探偵]としてどちらが上か白黒付けようではないか」
「望むところなの! パパに鍛えられたノラこそ[真の探偵]を名乗るのに相応しいもん」
「ほう。ヴィドック大先生の名を背負うか、探偵の祖の娘」──今更だが、なんだその肩書。羨ましすぎやしないか。
「アルバなんてけちょんけちょんなの」
幼女相手にみっともないとは思うが火花が散った。
「トキも準備はいいな?」
「も、もちろんだよ」
まだ緊張は見られるが、勝ちたいという意思があるのかノラの横に立つ。
小さなホームズとワトソンか。
ならば今だけ俺がモリアーティ役をしてやろう。
「しかし景品がなければつまらないな」
「うん。じゃあノラは『アルバに一生言うとこを聞いてもらえる権利』!」
「それは禁止だ。『一度だけ』に変えろ」
「仕方ないの」
「……僕は衣服生成に必要な貴重素材かな」
「良いだろう」──俺はどうしようか。ノラをパシらせるのなんて日常茶飯事だし、幼女にしてもらえることなんて……。
俺はトキをじっと見る。
視線が苦手なのか顔を真っ赤にさせて腕から生えた[鳥亜人]特有の羽で顔を隠す。
「変な事考えてるの。まさか男装している幼女だけに魅力を感じるタイプのロリコン?」
「ええい。誤解を招く言い方はやめろ」
「やっぱり異性装好きなの」──なんのことだ。
「僕の顔になにか、付いてるのかな?」
「先刻、ティファに衣服を作ってくれただろ。俺が勝ったら『これぞ探偵服』を作ってもらおうか」
「わかった。それくらいなら構わない」
負けられない理由が出来た。
いままで[探偵]っぽい衣服を見繕ってきたが、やはり異世界の美的センスというか少し違うのだ。
だから卑怯と言われようと勝たねばならぬ。
「ではまず推理ゲームの説明からさせてもらおう。といっても至ってシンプルだ。ひとりが事件を展開し、相手はその犯人を当てる。ただし魔法や奇跡が存在してはない。決して物理学に反してはならない。あくまで現実的に」
「魔法が登場しない事件の方が現実的じゃないの」
「とりあえず魔法は無効だ!」──推理ゲームの中ぐらい探偵美学を嗜んだっていいじゃないか。
やれやれ、といった顔つきのふたりを気にせず俺は事件を語った。
──────……
舞台は【山荘】。
同じ大学を卒業した5人が地元に戻り山荘を借りていた。
そこで、殺人事件は起きたのである。
被害者はその仲良しグループのリーダー格とも言えるA。
用意していたワインの中に青酸カリが混ざられていたことにより毒死。
容疑者は残りのグループ4人。
B:被害者Aの親友。Aが社長をしている会社の従業員。
C:被害者Aの元カノ。現在Dと婚約している。専業主婦。
D:Cの婚約者。気弱な性格で大学時代はよくからかわれていた。プログラマー。
E:グループ1のひねくれ者。仲間を卑下するようなことをよく言う。職なし。
事件が起き呼ばれたのは若い警察官と探偵とその助手。
──────……
「情報が少なすぎる」──考え込んだ顔でトキが呟く。
「[探偵]なら調査しろ。疑問点はあるか?」
「どうして山荘を借りたの?」──「大学を卒業してから毎年訪れているそうだ。追記だがその山荘が存在している山はA家の敷地だ」
「Aを恨んでいた人物は?」──「多かったんじゃないか? 自分中心な性格だったそうだ。大学時代のDをからかっていた中心人物でもある」
「容疑者Cは被害者Aと付き合っていたらしいけど、容疑者Dはそのことを?」──「もちろん知っていたさ。……おっと、お前たちがゆっくりしているからまた被害者が出てしまった」
──────……
取り調べ中に口論が起こった。
この中に犯人がいる疑心暗鬼状態である。
毒が入っていたワインは去年から山荘にあったもので誰が最初に口にしてもおかしくなかった。
その直前の会話を思い出し、誰が犯人かと口論に。
唯一口論に参加していなかったEが警察官と探偵たちにだけ聞こえる程度の大きさで呟く『これはFの復讐だ。亡霊になって俺たちを皆殺しにするつもりなんだ』。
発狂して、自室に逃げ込んでしまった。
その夜、Eは自室で首を絞められ亡くなっていた。
──────……
「分かった! 犯人はそのF。言葉通り[幽霊]にやられたの」──だからファンタジーではない。
「トキも同じ推理か?」
「僕はDが怪しいと思う。大学時代ずっとからかってきたわけだし、もしかしたらAとCは縁が切れてなくて不倫関係にあったのかもしれない。それを知ったDが犯行に及んだ」
随分とませている推理だな。
「まっっったく話にならんな。ふたりとも不正解だ。そもそも答えを出すのが早すぎる。ちゃんと調査しろ。──犯人はお前たちと一緒に山荘を訪れた『警察官』だ」
「『容疑者は残りのグループ4人』って言ったのに!?」
「文面を信じ込む[探偵]はどこにいる。『青酸カリとはなにか?』と聞いていれば一般人には手に入りづらい薬品であることはすぐに分かった」
「動機は?」
「彼等は大学時代にFという生徒をDと同じくからかい自殺に追い込んでいる。犯人である『警察官』はその親族か恋人だった。グループが毎年山荘に集まることを知り、置いたままになっていたワインに押収品である青酸カリを混ぜ、事件が起き自分が呼ばれるのを待った。Eを殺害したのは復讐の続きと動機であるFの事を話されるのは困ると考えたからだろう」──ふわっとしてるのはそこまで事件が広がらなかったからである。
「ずっっっる! 正義の人が急に犯人に変わるなんてずるなの!」
「だが勝ちは勝ちだ。探偵服は作ってもらう」
「……なんて大人げない」
ノラの言う通り、これは禁じ手だ。
探偵や警察官が突然と事件の犯人になってはならない。
──だから俺はこの事件の犯人を否定しなければ。
お前は俺ではないのだと。
「次はノラたちの番なの! 絶対負けない」
「ふっ。望むところだ」




