【指輪】‐Ring‐
【アルバ】本作の主人公。職業:探偵。
【ティファ】新米の助手。職業:医者。
【ノラ】依頼人の幼女。
【ガノールフ】元王宮魔法使いの老人。
【レリック】品がない冒険者。職業:剣士。
【アン/ドゥ/トロワ】レリックの取り巻き娘。職業:魔法使い。
生贄──レリックが自分たちばかり働かされていることに3階層終盤にしてようやく気付いたようだ。
『お前たちが前を進まねぇなら一歩も動かねぇ』なんて言い出す始末。
仕方がないからガノールフ、俺、ティファ、ノラ、レリックたちの順番に進むことにする。
初心者向け地下迷宮と言えどザコモンスターの数はそれなりに配置されている。
非戦闘員である俺たちには流石に荷が重い。だから戦闘は全てガノールフ任せだ。
【元人間種最強の魔法使い】の異名は伊達ではない。敵を引き付けると【拘束魔法】で動きを止め、岩で作られた槍の雨を降らせる。最小限の魔力消費で10体同時撃破。
ガノールフを先頭にしたことによって石碑があるという最下層までの道のりが格段に速くなる──……かと思ったのだが。
「うぎゃっ」──前にこの地下迷宮に来たと思われる冒険者が仕掛けた罠にかかるティファ。
「アルバぁぁぁあああ!」──[小鬼]の集団に担がれて攫われそうになるティファ。
「──やめっ! いひひひ! あひぃ」──[沼の怪]に身体をまさぐられて悶え苦しむティファ。
ティファ。ティファ。ティファ。
全てのトラップの引っ掛かり、毎回のごとくモンスターにちょっかいを出される。
「いい加減にしてくれるか」
「だから言ったんだよ『どんくさい』って……」
え。どんくさいってそういう意味?
説明が欲しくて以前ティファと依頼をこなしたことのあるレリックたちに視線を向けると速攻で目をそらされた。覚えがあるようだ。
冒険者組合での一件は救いようがないけれど、こんな不幸体質を無事に帰還させたレリックたちは意外に面倒見がいいのでは?
「わかった。お前は俺から離れるな。さっきからまるで進めていない」
「う、うん。ありがと」
服の袖を掴むティファ。
気のせいか耳が垂れ下がっている。
「アルバたち、仲が良くてほっこりなの」──からかうように笑われた。
「ノラちゃんも危ないからボクと手繋ご」──ティファが手を差し出す。ノラはその手の平をじっと眺めて──「うん」──と小さく頷き手を取る。
意図せず俺とティファとノラの連結機関車が出来上がってしまった。
早く進むための選択で、余計に歩きづらくなるなんて。
「ふたりは夫婦なの?」
「断じて違う」──男女が一緒にいるからといって恋仲であると勘違いされるのは困る。そもそもこの[半妖精]は──……。
「そっか。確かに結婚指輪って人差し指じゃなくて左手薬指にするんだもんね」
俺の右手を見ている。
子供だから目線に付きやすいのだろう。
「でもその指輪に着いてる青い宝石ってなんだかアルバの瞳みたいに綺麗。それに結構年期も入っているよね。大切な人からの贈り物かな?」
「まあ、そんなところだ」──ズボンのポケットに右手を突っ込む。
「そういえば、この世界にはどんな魔力でも吸い取っちゃう化石が存在するって知ってた?」──『そういえば』と切り出すにしてもかなり話が変わる。子供だから興味がころころ変わるのはおかしいことではないが。
「あったあった。そんな噂」──「デマだろ、どうせ」──「でも発見したのって公爵令嬢とかじゃなかった?」──「ばっかだなぁ。令嬢がどうやってそんなすげぇ物を見付けんの? 着替えだってメイドとかにやらせてる奴らっしょ」──「令嬢が化石堀りってか。うける」
「ほう。それは興味深いな」
「アルバは魔力持ってないから関係ないよね。あ、でもその石を武器にしたら無双出来ちゃうかもね」
立ち止まる。──「ふぎゃ」と俺の背中に顔面を打ち付けたティファ。
ノラの目をじっと眺める。黒い髪と相性の良い落ち着いた紫色。
相手は無邪気な笑顔を浮かべ。
「えへへ、ノラも魔力ないからおそろいだね。[探偵]さん」
「父親が[魔法使い]なのに魔力なしとは珍しい。母親は?」
「どうだろう。物心ついたころにはママはもういなかったから。アルバの両親は魔力なしだったの?」
「それなりにはある」
「ならノラも一緒なの。魔力のある両親から生まれた魔力なし」
後ろにいる[魔法使い]娘たちを見る。
[魔法使い]は大抵【魔力感知】に長けている。他人の魔力量、適正属性を表す魔力の色がある程度見えるのだ。
そんな奴らが「マジじゃん。同情するわ」とひそひそと笑った。
魔力がないなら初心者地下迷宮だというのに大勢の冒険者を連れて探索に来ているのも説明がつく。説明はつくが……。
「お前はなぜ俺のことを──」
「雑談はその辺で終わらせよ。5階層に着いたのだからな」──黙々とモンスター退治をしていたガノールフが自分の杖を地面に叩き付けるとまるで裁判官の槌のように響き渡った。
[魔法使い]が消えた地下迷宮の最下層。
広々とした空間の真ん中に木製の宝箱がひとつあり。大きな石碑が4つ、宝箱の周りに置かれている。
俺は誰よりも早く石碑に駆け寄った。
「……楔形文字……シュメール語。いや、簡略されている。フルリ語か?」──どこの言語かは即答は出来ないが、少なくともこれは前世に存在した文字だ。