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87 交渉相手

「やけにすんなり信じるんだね」



 そう笑うノアに、王は「合点がいったのだ」と答えた。



「世界の往来に女神さまが介入しているのであれば、なぜユージの妹であるシャルロッテ嬢をこれほど苦しめるのかと疑問だった。ユージはこの世界を救った勇者だ。その家族であれば、普通は幸福な家庭へ送るだろう」



 そして深くため息をつく。

 今まで信仰していた女神が理想とかけ離れていることを知ったのだ。

 落胆するのも無理はないだろう。


 もっとも、シャルロッテの惨状を直前に把握していたことが、より説得力を高めたのかもしれない。



「しかし、神は我々人間にとっては遠く手の届かぬ存在。そんな相手に、一体何ができるというのだ」


「ま、そこは僕の役目かな」


「君の?」


「そう。こっちのことは僕に任せて、君たちは人間側の処理をしっかりしてくれればそれでいいよ」



 ノアがまっすぐに王を見つめる。

 王はその視線に、ノアがどういう存在なのか察したらしい。


 ゆったりとソファに腰掛けていた姿勢を正し、ゆっくりと立ち上がる。

 そしてノアの前に膝まづいた。

 一国の王が、一見ただの子どもにしか見えないノアに頭を下げている姿は衝撃的だったのだろう。

 ロエナも驚き、父の姿に狼狽えていた。



「今までの非礼をお許しいただきたい」



 緊張感のある声で、王が言った。

 しかしノアは手をひらひらと振りながら「気にしなくていいよ」と笑い、王に顔を上げるよう促した。



「むしろ、さっきまでのように話してくれた方がいいね。王様が敬語で話す相手なんて、怪しすぎるでしょ?」


「……仰せのままに」


「よし。……それに、僕は君もロエナちゃんも気に入ってるんだよ。王族としての誇りを持ちつつも、驕らず、民のために行動できる善良な王様とお姫様だからね。だからこそ、君たちに彼女を任せようと思ったんだ」







「あなたって、すごい方でしたのね……」



 打ち合わせが終わり、王が退出したあと、ロエナがポツリと言った。

 ノアは少し胸を張り「まあね」とおどけて見せた。


 ロエナは少し緊張した様子だったが、ノアの様子にふっと笑みをこぼした。

 そんなロエナの表情を見て、ノアも満足そうにしている。



「そういえば、もう一つ先にやっておくことがあるんだ」


「やっておくこと?」


「そう。ロエナちゃんにお願いしようかな?それとも、伊月くんの方が適役かな?」


「何の話だ?」



 ノアは少し考え込んだあと、俺に白羽の矢を立てた。


 何をすればいいのかと訊ねると「交渉かな」と返ってくる。

 相手が誰なのか質問する前に、ノアがパチンと指を鳴らした。



 俺の前に、四角いモニターのようなものが現れた。

 画面をのぞき込むと、中心に「Now Loading...」と書かれている。

 ご丁寧に、画面下には細長いバーが設置されていて、進行状況の確認までできる仕様だ。



「なんか、ゲームみたいだな……」



 俺が呟くと、ノアが「よくできているでしょ」なんて自慢気に言った。

 確かによくできたローディング画面だが、なぜそこにこだわったのかはよくわからない。


 そんなどうでもいいことを考えているうちに、ロードが完了したようだ。

 画面がぷつっと入れ替わり、どこかで見たような部屋の映像が映し出される。



「ここは……?」



 あまり広くない部屋の中には、本の山が多数できている。

 ベッドの上には乱雑に洗濯物が積み重ねられていて、住人の性格を物語っているかのようだ。



「散らかってるね」



 妻が遠慮なしに言った。

 ロエナの顔をちらりと見ると、全面的に妻に同意しているようだ。


 女性陣の反応に、なぜか俺が恥ずかしくなってくる。

 妻がきれい好きだったから、結婚してからはそれなりに片づけをするようになったが、独身時代の俺の部屋もこんな感じだった。


 そうこうしていると、ガチャリと鍵のあくような音がした。

 住人が帰宅したのだろうか?



「あれ?パソコンつけっぱ?」



 若い男の声がした。

 どうやらこちらの映像は、あちらのパソコンに映し出されているらしい。


 ……パソコン?

 ということは、もしかしてこの画面の先は、元の世界なのだろうか?

 画面内に家電製品などは映り込んでいないが、よく見れば積み上げられている本に書かれている文字は日本語だ。


 ふと、画面を男の顔がふさいだ。

 画面をのぞき込んだであろう男は『うおっ!』と声をあげて後ろに飛びのく。

 そして口をパクパクさせながら、こちらを指さしている。


 男の顔を見た俺も、同様に驚き、固まっていた。

 そして一瞬の間のあと、互いの名を叫んだ。



『瀬野さん!?』


「勇司くん!?」



 画面の向こうには、かつてこの世界を救った勇者である勇司の姿があった。

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