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75 謁見前日

 ギルド職員に案内され、ギルドの一番奥の部屋に通される。

 ここはどうやら、ギルドマスター専用の応接室のようだ。


 棚に飾られている珍しそうな素材を眺めていると、ギルドマスターが息を切らして戻ってきた。


 城へ行くと言っていたから、もっと遅くなると思ったのに。

 まだ1時間も経っていない。

 よほど慌てて戻ってきたのだろう。



 ギルドマスターは、俺たちが指示通り待っているのを見て、安堵した様子だった。

 待たせているうちにどこかに行かれたら、と思っていたのかもしれない。



「城に話をつけてきた。明日謁見だ」


「……は?」



 展開が早すぎて、間抜けな声が出てしまった。

 んんっ、と咳ばらいをして「明日ですか?」と確認する。



「ああ。何事もスピードが命だからな」



 ギルドマスターはすこぶるいい笑顔でそう言った。

 ノアは楽しそうに笑っているし、妻は話の内容がよくわからないようで、首を傾げている。

 コトラは妻の膝の上で眠りこけたままだ。


 え、明日俺、王様に会うの?

 混乱したまま、俺は「服がないです」と言った。



「服?」


「そう、服!こんな服で謁見したら、不敬罪に問われません?!」


「はははっ、大丈夫だ!陛下はそんな些末なことは気になされない。私もさっき、この服でお会いしてきたぞ」



 先ほどまでのクールさはどこへやら、ギルドマスターは豪快に笑う。

 確かにギルドマスターの服装はラフで、お世辞にも王宮にふさわしい恰好とは言えない。



「そういえば、まだちゃんと自己紹介をしていなかったな。私は、イルミュール。この王都のギルドマスターであり、国のギルドのトップだ。イルと呼んでくれ。昔は冒険者をしていたが、怪我を負って引退してな。今はギルド全体の管理をしつつ、後進の育成に力を入れている」


「あ……俺はイツキです。彼女はシオリ、そっちがノア。それとシオリの従魔のコトラです」


「ああ、よろしく!それで、ドラゴン討伐時の詳しい状況を聞きたいんだが、かまわないか?」


「もちろんです」



 森の奥にいた理由以外は、そのまま話をした。

 嘘は苦手な性分なので、余計な話をせずに済むのはありがたい。


 ちなみにノアの助言で、森の奥へは修行の一環で赴いたことにした。


 ギルドマスターは俺たちの話を興味深く聞いて、何やらメモを取っていた。

 そして話し終えると、納得した様子で頷いた。

 ドラゴン討伐の詳細に興味があったのはもちろんだろうが、念のため、本当に俺たちがドラゴンを討伐したのか確認しておきたかったようだ。



「しかし、危なげなくドラゴン討伐を成し遂げるとは……どんな修行をしたらそうなるんだ?」



 ギルドマスターの疑問には、苦笑いで返した。


 明日の謁見に備え、その日はそれで解放されたが、後日改めて実力を見せてほしいとの申し出を受けた。

 ノアが了承していたが、実力を見せて期待外れだと評価されたらと思うと、少し憂鬱な気持ちになった。

 いくつになっても、テストというのは嫌なものなのだ。







 ギルドに紹介してもらった宿は、落ち着いた雰囲気の店だった。


 冒険者御用達の荒っぽい雰囲気の宿をイメージしていたが、俺たちは一応賓客扱いしてもらえているらしい。

 宿代までギルドが負担してくれるというのだから、ありがたい話だ。



「なあ、ノア。明日の謁見って、俺たちどうしたらいいんだ?この国のマナーとか、何も知らないぞ?」



 不安になって問いかけると、ノアはくすっと笑った。



「伊月くんって、小心者だよね。大丈夫大丈夫、この国の王様はバカじゃないから」


「は?どういう意味……」


「軍を総動員しても倒せないほどのドラゴンを、難なく倒す実力者。そんな勝ち目のない相手に喧嘩を売ったりしないってこと」


「いや、でも……」


「それに、明日王宮に行くのには、もう一つ理由がある。王と会ってパイプを作るのはもちろんだけど、もう一人強力な味方となりえる人物がそこにいるからね」



 王宮にいるとなると、国の重鎮ということだろうか?

 しかしそのうちの誰が強力な味方になってくれる可能性があるのか、一向にわからない。



「勇司くんのことを、何より大切に思っている人だよ」



 ノアの言葉にハッとした。


 王宮。

 つまり王族の住まいだ。

 そこには、かつて勇司とともに魔王を討伐し、将来を誓い合った姫がいる。


 女神によって、その仲は引き裂かれてしまったが。



「……協力、してもらえるかな……」


「きっとね」



 そう返したノアの顔には、一切の憂いがなかった。

 それだけで俺は、大丈夫だという根拠のない自信を得ることができた。

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