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73 ギルドでのひと悶着

 ドラゴンの巨体をどうするのかと思ったら、ノアはまるごと鞄の中に入れてしまった。

 鞄の口を開いてドラゴンの身体に当てると、吸い込まれるように鞄に収納されたのだ。


 あんぐりしながらその様子を見ていると「魔法の鞄だって言ったでしょ」なんて涼しい顔をしている。

 収納容量が桁違いなのは知っていたが、大きな城くらいのサイズのドラゴンが入るとは思わなかった。



「ドラゴンは、身体全体が貴重な素材だからね。まるごと運ばないと損するよ」



 にやっと笑ってノアが言う。

 鱗や牙はもちろん、血の1滴さえも無駄にはならないという。


 

 ノアが「もちろんお肉は絶品だよ」というと、妻とコトラが目を輝かせた。


 ドラゴンステーキ。

 夢の食べ物だ。

 男の浪漫と言っても過言ではない。


 少しワクワクしながら、これからどうするのかとノアに訊ねる。



「このドラゴンをギルドに持っていくよ。こんなに大きいドラゴンを討伐した冒険者……街の領主はどうするかな?」


「……囲い込む?」


「そう。自分の戦力としてほしがるだろうね」



 それがつまり、有力貴族とコネを作ることにつながるのか。

 ならば、これから行く街は、侯爵よりも身分の高い貴族が治める土地ということになる。



「相手は公爵とか?」


「どうかな?」


「でも侯爵より上の貴族って、公爵くらいじゃないか?」


「ま、街に行ってのお楽しみだね。どちらにせよ、大きな街だからね。着いたらまず、食事にしようか?おいしいものがたくさんあるよ」



 そう言って歩き出したノアのあとを追う。

 妻は「おいしいもの」というフレーズにご機嫌で鼻歌まで歌っている。


 俺は軽く呆れながらも、空腹を感じていた。







 街の入り口には、検問所が設置されていた。

 身分証の提示を求められ、一瞬身構えたが、案の定ノアが精巧な偽造品を用意していた。


 簡単な質疑応答を終え、すんなりと入り込んだ街の中は、活気にあふれている。



 大広場には、さまざまな屋台が軒を連ねていた。



「あ、ケバブ!」



 妻が指差し、大きな肉がぶら下がっている屋台めがけて走っていく。

 この世界にもケバブがあるのかと思いつつ、他の屋台にも目を向けた。


 串焼き、飴細工、フライドポテト、サンドイッチなど、見慣れた食べ物もちらほらある。



「勇者が伝えた食べ物も多いらしいよ」



 ケバブを頬張りながら、ノアが言う。

 勇者というと、勇司くんのことだ。

 屋台のラインナップに、彼の食の好みがわかるような気がした。




 食事を終えた俺たちは、ギルドへ来ていた。

 子どもの冒険者は珍しいのか、中に入ると怪訝そうな目を向けられる。


 受付には短い列ができており、最後尾に並んだ。

 すると、前に並んでいた男が話しかけてきた。



「おいおい、ここは子どもの遊び場じゃねえぞ?」



 テンプレみたいなやつだな、と思いつつも、トラブルは避けたいのでスルーした。

 男の仲間と思われる女性が「やめときなって」と制止していたが、男は無視されたことが気に食わないのか、ふいに俺の胸ぐらをつかんできた。



「ガキが。いっちょ前にすかしてんじゃねえよ!」



 アルコールが入っているのか、わずかに酒の匂いがする。

 俺は男の手をそっと振りほどき、妻に順番が来るまでノアと離れたところで待つように言った。

 妻は俺のことが心配なのか首を横に振ったが「大丈夫だ」と笑うと、安心したようだ。


 しかし、そんな妻の行く手を阻むように、男が妻の方に手を伸ばす。

 とっさに、男の腕をつかんだ。

 男は「離せ」と抗議したが、妻に危害を加えられてはたまらない。


 ……いや、装備の防御力が高いから、実際に危害を加えられる可能性は限りなく低いが。

 とにかく、あまり怖い思いをさせたくはない。



 そのとき、背後から「何の騒ぎだ?」と声をかけられた。


 振り返ると、鮮やかな緑色の長い髪をたなびかせた美女が立っていた。

 耳が細長く尖っているから、エルフだろうか?



 美女を目に留めた男は、ビクッと体を震わせた。

 男の仲間も青い顔をしている。



「あなたは?」



 ノアが訊ねると、美女はギルドマスターだと名乗った。

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