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特別編(5)待ち望んだ再会

 異世界での記憶を消そうかという神の提案に、由佳里は迷うことなく、首を横に振った。



「異世界での生活はつらかったけど……私を強くしてくれました」


「……うん」


「私、今まで頑張ってきたことを忘れず、糧にして生きていきます。それに、たくさん頑張ってきたこと、両親に話して褒めてもらわないとだし」


「そうかい。きっとたくさん褒めてくれるだろう」



 神が微笑むと、由佳里は力強く笑った。

 そんな由佳里に、神がもう一度手を差し出し「君の人生に幸あらんことを」と囁いた。


 瞬間、由佳里に強い風が吹く。

 風の勢いに、思わず目を閉じる。


 目を開くと、そこには見たこともない古びたドアの前だった。



「……あれ?」



 あたりを見渡し、戸惑う。

 さっきまで話をしていた神も、もちろんいない。


 どこかのビルなのだろう。

 殺風景な廊下には、いくつも似たようなドアがある。



 そして、目の前のドアからはざわざわと複数の人たちが会話する音がした。



 ここはどこなのだろう。

 日本みたいだけど、神様が送る場所を間違えたのかな?


 由佳里は不安に襲われながらも、とりあえず外に出ようと踵を返す。

 そのとき、背後でドアの開く音がした。


 思わず振り返ると、中年の男女が驚いたようにこちらを見ていた。



「あ、すみません。私……」



 とっさに言い訳しようとして、ふと男女に見覚えがあることに気づいた。

 体形がずいぶん変わっているから、気づかなかったが、その顔は間違いなく……


 目を見開いたまま固まっている男女に、部屋の中から「どうしました?」と誰かが声をかけた。

 しかし彼らをそれに返事をすることはなく、ともに由佳里を抱きしめた。


 壊れ物を扱うように恐る恐る伸ばされた手を、由佳里は受け入れる。

 懐かしい体温を感じながら、由佳里は泣きながら笑った。



「お父さん、お母さん、ただいま……」



 その声を聞いて、両親は泣き出した。

 小さな嗚咽がどんどん大きくなる。

 号泣する両親に抱かれながら、由佳里もこらえきれずに涙を流す。


 両親の肩越しに、戸惑ったようにこちらを見る人たちの姿が見えた。

 もしかしたら彼らが、伊月さんの言っていた異世界転移被害者の会の人たちなのかもしれない。



「川西さん?」



 戸惑いながら声をかけてきたのは、派手な見た目の若い男だった。

 男は由佳里のことを見て、何かを察したような顔をした。


 そして少し悲しそうに微笑んで「よかったですね」と呟いた。







 部屋の中にいた人たちは、戸惑いつつも由佳里たちが落ち着くのを待ってくれた。

 ひとしきり泣いてようやく落ち着いたのか、由佳里の父、川西誠が頭を下げる。



「お見苦しいところをお見せして、申し訳ないです。この子は……この子はっ……」


「娘の由佳里です」



 再び涙があふれ、言葉に詰まった誠に代わって、由佳里が挨拶をした。

 その途端、ざわっと空気が一変する。

 みな、期待と不安が入り交じった瞳で、由佳里を見ていた。



「本当に、川西さんの娘さんの由佳里ちゃんなんだね?」



 声をかけてきたのは、先程の派手な男だった。



「はい。あなたは……佐々木さんですか?」


「そうだよ。よくわかったね」


「伊月さんから伺ってます」



 その言葉に、ほかの人々は驚いていたが、佐々木だけは動じていなかった。

 会長である佐々木には事情を話してあると聞いていたから、そのせいだろう。


 由佳里は順を追って、今までの経緯を説明した。

 被害者の会のメンバーは、一様に信じがたいという反応だった。

 しかし由佳里の中学生とは思えない、理路整然とした話しぶりは、彼女が3年もの期間異世界にいたという事実の多少の裏付けになった。

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