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65 隠された本音

「この氷は、彼らにはしばらく溶かせないと思うよ。だから焦らず、ゆっくり話してごらん」



 ノアに促され、ネルはぽつりぽつりと話し始めた。



「殿下は、聖女様に洗脳の魔術をかけておられました。国の筆頭魔術師が入念にかけた魔術で、殿下をはじめとした王族の方々に聖女様が反感を抱くことがようにと……」


「だから王子たちの悪事に、由佳里ちゃんは気づくことができなかった。そうだね?」


「……はい。通常であれば気づいたはずの違和感も、魔術の効果でかき消されていたはずです。殿下はうまく隠しておいででしたが、長期間の旅で危うい場面は多くありました」


「で、その魔術を僕が消した」


「ええ、それで殿下は、より強い魔術で聖女様を縛ろうとお考えになりました。しかしその秘術は負担が大きく、聖女様が廃人になってしまう可能性も高いと……。殿下は……それは、むしろ好都合だと……」



 なんて勝手な話だ。

 いうことを聞かせるために、由佳里の心を殺してしまおうなど、許されることではない。


 しかしネルは聖女の護衛であっても、王家に忠誠を誓っているはずだ。



「それで、君はどうして彼女を逃がそうと思ったんだ?王子を裏切ったらどうなるか、わかっていたんだろう?」


「……自分は、今まで殿下の悪行を傍観していました。殿下に少しでも意見を言おうものなら、即座に首をはねられると知っていたからです。しかし、自分は今までずっと、おそばで聖女様を見てきました。ご自身がつらい立場でありながらも、弱きを守り、懸命に努力なされるのを見てきた……」


「ネル……」



 由佳里が、複雑そうな目でネルを見つめていた。

 ネルはそんな由佳里に深々と頭を下げる。



「自分の生まれ育った村は貧しく、瘴気によって壊滅に追い込まれました。自分は遠縁の親戚の家に預けられていたので生き延びることができましたが、家族はみな瘴気に蝕まれて命を落としました」


「……そうだったの」


「聖女様が瘴気を浄化してくださるのを見て、自分は家族が救われるような気がしていたのです。その聖女様のお慈悲を無下にすることなど、自分には到底できない。ならば聖女様を逃がして差し上げようと思って、部屋に侵入いたしました。見張りの兵士には、交代すると嘘をついて」



 それは、いったいどれほどの覚悟だったのだろう。

 少なくともネルは、由佳里の努力を目の当たりにし、深く感謝をしてくれていたのだ。


 そしてその事実は、傷ついた由佳里の心の慰めになるはずだ。


 由佳里の頬には、涙が伝っていた。

 由佳里はネルの前にしゃがみこみ、その手を取って「ありがとう」と笑った。



「私のこと、ちゃんと見ていてくれてありがとう。……私、さっき神様たちに会ってきたの。そして、聖女から解放された」


「……はい、おめでとうございます……」


「本当は、さっきまでこの世界で頑張ってきたこと、後悔してたの。でも、ネルのおかげで頑張ってきてよかったって思えた」


「……」



 ネルも涙を流していた。

 大男が身体を小さく丸めて、静かに泣いていた。



「私、ずっと家に帰る方法を探してきたけど、見つからなくて、悲しくて悲しくて……。でも、この人たちが私を家に帰してくれるっていうの。家族に会えるんだって……」


「……きっと、ご両親はたくさん褒めてくださいます」


「うん!私もそう思う!」



 そのとき、氷がパリンと割れる音がした。

 瞬間、ノアがパチンと指を鳴らす。

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