表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/266

61 解放

 しかし俺の魔法などものともせず、女神は涼しい顔をしたまま、指をパチンと鳴らす。

 その瞬間、俺の魔法は煙のように消え去った。

 攻撃が叶わないだろうことはわかっていたが、こうも容易く対処されてしまうとは。


 悔しくて、腹立たしくて、奥歯を噛みしめる。



『無礼ねぇ』



 怒りすらも感じさせない声で、女神が言う。

 反撃が来るかと身構えたが、何も起こらない。



『何もしないわよ。よそのペットが粗相したからといて、いきなり殺しはしないでしょ?』



 そう言って女神が微笑む。

 俺たちがペットだとすると、飼い主はノアだとでも言いたいのだろう。



「そうだね、殺されたら困る」


『なら、しつけはしっかりしておいてくださいな』



 笑みを浮かべながら、ノアと女神がにらみ合う。

 海神が、パン!と手を叩くと、俺たちを檻が覆った。



『しつけがなっていないのであれば、ゲージに入れておけばよいでしょう。むやみに暴れられても困りますからな』



 ノアはため息をついて、指を鳴らす。

 海神の作った檻が粉々に崩れ去り、代わりに透明な壁に包まれる。


 ノアは俺たちに向き直り「そこにいたら安全だよ」と言った。



「君たちは僕の大事なパーティーだからね。でも、まだレベルが足りない。無謀な戦いには、リスクしかないよ」


「ノア……」


「レベル10でラスボスに挑むようなものだよ?このレベルの敵と戦うのは、もっと鍛錬をしてからにしようね」


「……わかった」



 さて、とノアは踵を返す。

 神々を見据える凛とした後ろ姿は、何とも神々しく見える。

 あんな神たちとは、格別に。



「さぁ、選んでもらおうか?話し合いで解決するか、それとも力比べをするか。言っておくけど、僕は結構怒っているよ」



 ノアの出した選択肢に、神々が緊張したのがわかった。

 そのまましばし膠着状態が続く。

 神々の表情から察するに、場の主導権はノアにあるらしい。


 やがて海神が深く息を吐き、女神と太陽神にそれぞれ視線を向ける。

 女神と太陽神は諦めたように頷いた。



『……あなたと戦ったところで、我らには一粒ほどの勝機もありますまい。致し方ない、今回は退くことにいたしましょう』


「懸命だね」


『しかし失礼を承知で言わせてもらえば、あちらの世界を優遇し、我らの世界を見捨てるのかいかがかなものか』


「何を言ってるの。自分の世界の不始末をよそに押し付けようとする方が、よほど不合理でしょ。あちらの世界は、この世界に何の危害も加えていない。ただの被害者だよ」


『……手厳しいですな』


「グチグチ言わなくていいから、さっさとして。変な真似をしたら、武力行使に出るからね」



 ノアに返す言葉もないのか、神々は由佳里に向かって手のひらを向ける。

 すると由佳里の胸元からところどころ黒いもやに覆われた、淡い光の玉が出てきた。

 やがて光の玉にかかっていたもやが消え去り、再び由佳里の胸の中に戻っていった。


 怯えた顔で戸惑う由佳里に、ノアは「大丈夫」と声をかける。



「君の魂にかけられたフィルターを解除させただけだよ。これでもう、君を縛るものは何もない」



 しかし由佳里は、その表情に悔しさを滲ませる。

 爪が食い込むほど強く拳を握りしめ、唇を噛む。


 怪我しちゃうよ、と妻が言ったが、由佳里は震えたまま握った拳を緩めなかった。



「こんなに簡単に……簡単に解放されるなら、私の今までは何だったの……?3年間、ずっと我慢してきた。私にしかできないって、私がやらなきゃ世界が破滅するって、毎日毎日いろんな大人たちにせっつかれて、頑張ってきた」


「そうだね、よく頑張ってきたね」


「本当は、瘴気の中旅なんてしたくなかった!魔物は怖いし、いつだって逃げ出したかった!なのに、なのに……」



 溜め込んでいたものが堰を切ったかのように、由佳里はしゃっくりを上げながら訴え続ける。

 ノアは優しい目つきで、一生懸命話し続ける由佳里を見守っていた。



「……どうして……どうしてもっと早く、助けに来てくれなかったの……?どうして私、3年間も頑張らないといけなかったの?危ないこともたくさんあった!もしかしたら……もしかしたら、死んじゃってたかもしれないのに……!」



 ゆっくりとした足取りで、ノアが由佳里に近づく。

 そして座り込んで泣き続ける由佳里の前で膝をつき、優しく頭を撫でた。



「ごめんね」



 言い訳することもなく、ただ一言、ノアが謝る。

 由佳里はその言葉に、言葉もなく泣き続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ