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51 慈しみ深き少女

「それにしても、まさか本当に聖女様がもう到着されていたとは……。教えてくれて、本当にありがとう。」



 神官が、ノアにお礼を告げる。


 どうやら、神官に聖女の来訪を告げたのはノアらしい。

 収穫祭の屋台で少女を見かけた際、鑑定能力によって彼女が聖女だと確信したのだそうだ。

 はじめ、神官たちはノアの話に半信半疑だったようだが、リサが彼の鑑定能力を目の当たりにしたこともあり、聖女を迎える準備を速めることにしたという。


 どうりで、俺が草むしりの手伝いをしたいものがいると相談に行った際、神官たちが忙しなく動き回っていたわけだ。

 2日も早く聖女が来訪したとあっては、慌てるのも無理はない。



 しかし、彼女が聖女なら先に教えておいてくれてもよかったものを。

 恨みがましくノアを睨みつけると、いたずらっぽい笑みで返された。

 どうやら、確信犯らしい。



「そういえば、裏庭にいる彼女が聖女様だとわかったのも、ノアが教えたからなんですか?」


「いや、そうではない。我々神官は、神から神聖力を授かっている。同じく神聖力を持つものは、神官同士何となくわかるものなのだが、聖女様のお力は圧倒的だ。あれほどまでの力を持つお方が、聖女様でないはずがない。」


「なるほど。」



 なんとも便利なものだ。

 しかしそれはすなわち、それだけ彼女がこの世界の神々に愛されているということなのだろうか。


 ふとノアを見ると、なんだか複雑そうな顔をしていた。

 何か思うところがあるのだろうが、どうせ教えてもらえないだろうからと、何かを訊ねることはしなかった。







 部屋に戻った俺たちは、今後の動きについて相談することになった。

 相談と言っても、おそらくおおまかな流れはノアの手の内なのだろう。

 俺たちは、ノアから与えられるヒントを頼りに動くしかないのがつらいところだ。



「聖女様は、明日はどんなところへ足を運ぶと思う?」



 ノアが訊ねる。

 彼女は、街の様子を見て回ると言っていた。

 だから街の中を散策するのだと思うが、ノアの口ぶりだと確固たる目的があるのかもしれない。



「収穫祭のステージとか?」


「ちらっとは覗くかもしれないけど、ほかの街でも聖女の来訪にあわせてお祭りが開かれているからね。さほど珍しくもないんじゃないかな。」


「じゃあ、この街の観光地とか?」


「それはこの教会だね。」


「……グルメとか…?」


「ごはんは食べるだろうけど、一日中ってことはないでしょ。」



 だったら、一体どこだというのか。

 思いつくものは大方挙げたつもりだが、ノアの望む正解ではないらしい。



「ヒント。彼女は、この世界の現状を憂いている。」


「現状?」


「そう。貧富の差、恵まれない子どもたち、そして差別。」


「……。」


「君たちの暮らしていた世界でも、大なり小なり問題となっている事柄だろう?平和な国と呼ばれる日本でも、確実に経済格差は広がり、貧困にあえぐ子どもたちは後を絶たない。」



 孤児院への慰問のように、貧困家庭にも手を差し伸べているのだとしたら…。



「貧民街……スラムか。この街にもあるのか?」


「あるよ。表通りからは見えないけどね。」


「じゃあ、明日彼女はそこで炊き出しでもするのか?」


「その通り。この国を回る中で聖女は、孤児院の慰問と貧困者へのボランティアを欠かさず行っているそうだ。なんでも、聖女として大っぴらに訪問すると委縮されるから、一庶民を装っているらしいよ。」



 まさに、今日のように各地を回りながら多くの人に手を差し伸べてきたのか。

 いきなり連れてこられた見知らぬ世界で、他人を救おうとする強い意志を持つようになるまで、彼女はどのような時間を過ごしたのだろうか。


 本来であれば、保護されるべき子どもなのに。



「伊月くん、大丈夫?」



 不安そうに、妻が俺の顔をのぞき込む。

 どうやらこのやるせなさが顔に出てしまっていたらしい。


 俺は慌てて笑顔を作り「大丈夫だよ。」と妻の頭を撫でた。



「じゃあ、俺たちも明日はスラムへ行くのか?」


「結果的にはそうなるね。」


「……結果的?」


「まあ、明日になればわかるさ。」



 ノアが不敵に微笑んだ。


 今俺が悩んだところで、どうせなるようにしかならないのだ。

 流れに身を任せようと心に誓ったところで、急な眠気が訪れた。

 そういえば、昨日はノアに頼まれた作業がなかなか終わらず、あまり眠れなかったのだ。



「今日は早く寝て、明日に備えようか。」



 そうノアに促されるまま、俺たちは寝る支度を始めた。

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