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48 収穫祭

 翌朝、あくびを噛みしめながら、俺は街の大通りに来ていた。

 妻はコトラも連れて行こうとしていたが、人が多いところは好まないのか、しっぽを振るだけで拒否した。

 今頃、教会の部屋でぐっすりと眠っていることだろう。

 眠気をこらえながら、俺は少しだけコトラをうらやましく思った。


 大通りにはさまざまな屋台が並び、おいしそうな匂いが漂っている。


 妻は目を輝かせ、口の端からはちょっとよだれが垂れている。

 俺は妻の口元を吹きながら、ノアに「今日の目的は?」と訊ねる。

 ノアはきょとんとした顔をして「遊びに来ただけだよ?」と答えた。



「は?とくに用事があるわけじゃないのか?」


「うん。詩織ちゃんもお祭り見たがってたし、いいかなって。どうせ聖女が来るまで、何ができるってわけでもないしさ。」


「いや、そうはいっても…。」


「それに僕、こういう人間の文化見るの、結構好きなんだよね。」



 ころんとしたきれいな硝子玉を手に取り、ノアが笑う。

 光にかざすとキラキラして、まるで星を閉じ込めているようだ。


 ノアは適当に硝子玉を何個か選び、店主に料金を支払う。

 袋に入れてもらってうれしそうにしている様子を見ると、文句は言えなかった。



 妻は大きな綿菓子を買ってもらい、大きな口を開けて食べている。

 口周りがまたべたべたになっているから、あとで拭いてやらないといけないな。

 そんなことを考えつつ、あたりを見渡す。



 小さな街だと思ったが、活気のあるいい街だ。

 街の人の表情は明るく、景観もよく整備されている。

 聖女の巡礼に備えているとはいえ、この状態を維持するのは一朝一夕とはいかないだろう。


 ふと、カラフルな屋台が目に留まる。

 どうやら焼き菓子を売っているお店らしい。

 買っていったら、孤児院の子供たちは喜ぶだろうか。

 ぼんやり考えていると、ノアが「行ってきたら?」と背中を押した。



「勝手に心を読むなよ。」


「ふふっ、伊月くんがわかりやすいだけだよ。」



 お金の管理は基本的にノアに任せているが、俺や妻 も一定の金額を持たされている。

 万が一はぐれてしまったときや、不測の事態でお金が必要になったときに備えて、だそうだ。

 ノアにとって不測の事態など起こりえないような気がするが、無一文というのは落ち着かないのでありがたかった。


 屋台では、黒髪の少女が売り子をしていた。

 この世界には珍しく、日本人に近い顔立ちだ。

 少女は「どうぞ見ていってください。」と微笑んだ。



「それじゃあ、この瓶詰めのクッキーをまとめてもらおうかな。」


「全部ですか?結構な量になりますよ?」


「孤児院へもっていくから、たくさん必要なんだ。」



 なるほど、と少女は頷き、クッキーの瓶を袋に詰めてくれた。

 料金を支払い、お礼を言って立ち去る間際、少女が「子どもたち、喜んでくれるといいですね!」と笑いかけた。


 俺は「ありがとう。」と返し、妻とノアのもとに戻る。

 妻は俺の抱えた袋が何か気になったようだったので、孤児院へのお土産だと教えると、嬉しそうに俺の頭を撫でてくれた。

 お姉さんぶっている様子がおかしくて思わず笑うと、妻は褒めたことを喜ばれたと勘違いしたのか、その後もしばらく俺の頭を撫でまわし続けた。



 屋台で軽く早めの食事を済ませてから、孤児院へ戻る。

 結局あのあと、妻もお土産を買いたがったので、屋台を回って串焼きをたくさん包んでもらった。

 育ち盛りの子どもたちには肉が喜ばれるはずだ、と提案したのは俺だ。

 今から急いで帰れば、子どもたちの昼食に間に合うかもしれない。


 子どもたちの喜ぶ顔を思い浮かべながら、足早に孤児院へと急いだ。

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