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特別編(1)双子の帰還

「……ん…。」


 白い光に包まれ、まぶしさに目を閉じた絵美が再び瞼を開くと、そこは懐かしい学校の教室だった。

 黒板に並んだ数式、淡々と話し続ける担任の数学教師、そして見慣れた同級生の面々。

 呆然としていると、チャイムの音が鳴り響く。


 日直の号令に合わせて終業の挨拶を終えると、絵美は教室を飛び出して、隣のクラスに向かった。



「翔!」



 絵美が教室の入り口から声をかけると、先ほどまで隣で手を握っていたはずの弟が駆け寄ってきた。



「絵美、俺たち……。」


「うん、帰ってこれたんだね。」



 二人して涙ぐんでいると、翔の友人が怪訝そうな目で見ていた。

 そういえば、と絵美は思う。

 異世界に転移した際、絵美と翔の痕跡は世界から消えてしまったと聞いた。

 それでは、今ここにいる二人は、きちんと世界から存在を認識してもらえているのだろうか。



「お前ら、そろってどうしたんだよ。本当、仲いいよな。」



 半ば呆れたように吐き捨てたその言葉に、二人して安堵する。

 どうやら、異世界から帰還したことで、元通りになっているらしい。


 しかしスマホの画面を見ると、あの異世界転移の日から、すでに半年が経過している。

 そのあいだ、私たちはどう生活していたことになっているのだろうかと、絵美は不思議に思った。



 教室にカバンを取りに戻った絵美は、翔とともに帰宅の途についた。

 何気ない通学路がひどく懐かしく、見慣れたカフェやファストフード店に心が躍る。

 半年ぶりの誘惑に駆られながらも、我慢してスマホを手に取る。


 画面に表示されているのは、ずっと会いたかった姉の名前だった。



「お姉ちゃんに、電話してみよう。」



 絵美が言って、翔も頷いた。


 発信ボタンをタップし、スマホを耳に当てる。

 長いコール音が鳴り響き、プツッと何かが切れるような音がして、懐かしい声が耳元に響いた。



「……絵美…?」



 震えている声は、確かに姉の舞のものだった。

 絵美の頬には涙が伝い、声にならない声が漏れる。

 耐えきれずに、翔にスマホを手渡す。



「姉ちゃん?」



 恐る恐るといった調子で、翔が呼びかける。

 電話先の舞が、息を飲んだのが伝わった。

 どうやら舞の記憶は改竄されていないらしい。


 今どこにいるのかと問われ、近くの公園の名前を告げると、舞はすぐに向かうという。

 電話を切らないでほしいと懇願されたので、繋いだまま舞の到着を待つことになった。

 スピーカーからは、舞の駆ける足音と荒い呼吸が響いていた。

 


 どのくらい時間が経っただろう。

 数十分、数時間もの長い時間に感じられる。

 絵美と翔は俯いて、公園のベンチに座り込んでいた。



 ふと、2人の上に影が降ってきた。

 視線を上げた2人の目の前には、顔を真っ赤にして、汗だくで肩を上下させている舞の姿があった。



「絵美……!翔……っ!」



 嗚咽混じりに名前を呼び、舞が2人を抱きしめる。

 絵美と翔の瞳からも次から次に涙が溢れ、3人は身を寄せ合って、しばらくの間泣き続けた。








「姉ちゃん、その腕……っ!」



 舞の腕の違和感に気づいたのは、翔だった。

 その言葉に反応して絵美が舞の腕に視線を向け、一気に青ざめる。



「なんで、どうして……。」



 そしてハッとした。

 異世界へ転移したそのとき、姉が自分の腕をつかんでいたことを思い出した。



「もしかして、あのとき……!」



 震えだした絵美を、舞が強く抱きしめた。

 優しく背中を擦りながら「大丈夫、大丈夫。」と語りかける。



「腕はなくなっちゃったけど、新しい腕もかっこいいでしょ?結構気に入ってるんだ!……それに、2人が戻ってきてくれた、私はそれだけで十分だよ。」



 翔が舞の腕に触れ「確かにかっこいいね。」と笑った。

 舞もその言葉に、とびきりの笑顔で応える。

 そんな舞の姿を見て、ようやく絵美も微笑んだ。

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