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38 お茶会

 お茶会は、昼食を終えて一段落したころに行われた。

 エミとショウの希望か、俺たちに合わせてくれたのかはわからないが、日本のおやつの時間のような和やかな雰囲気だ。

 テーブルの上には、焼き菓子にケーキ、サンドイッチといった軽食が並ぶ。

 この世界にもアフタヌーンティーのケーキスタンドがあるのかと、感心する。


 本来は護衛はもっと多いものらしいが、そばに控えているのはロイのみ。

 部屋の外には騎士が数人待機しているが、俺たちを緊張させないために配慮してくれたらしい。

 妻は少しロイに恐怖心を持っているらしく、彼の鋭い視線が向けられると怯えた表情をする。



「魔王の配下には、俺よりも恐ろしいものが大勢いる。そのような調子で大丈夫か?」


「ふふっ、でも顔怖いもんね。」



 呆れ顔のロイを尻目に、エミがおかしそうに笑う。

 ショウもずいぶんリラックスしている様子だ。



「ノアはともかく、シオリもイツキもこの世界では珍しい名前だよね。もしかして、違う国の出身だったりするの?」


「あ、私も思ってた!……私たちの暮らしていた世界では、普通の名前だったけどね。」



 そういったエミは、故郷を懐かしんでいるのか、どこか寂し気な表情だった。



「詩織は日本から来たよ。」



 何気なく妻が爆弾発言をして、俺は勢いよくお茶を吹きだした。

 内緒にしておくよう、口止めするのを忘れていた。

 ……いや、ノアが口止めしているものと思い込んでいた。


 驚いたのは、エミとショウも同じだったようだ。

 おだやかだった表情を強張らせ「私たちの世界の話、誰に聞いたの?」と警戒した声を出す。


 妻はきょとんとしているが、ロイはすでに腰の剣に手をかけている。



「誰にも聞いてないよ?エミちゃん、日本知ってるの?」



 あっけらかんとしている妻に対し、エミとショウは戸惑う瞳を揺らし、俺の方をちらりと見た。

 おそらく、妻では会話にならないと判断したのだろう。

 しかし、この突然の修羅場に、俺もどう対応すればいいのか。


 冷や汗が額を伝う。

 何を言えばこの空気を緩和できるのかわからず、もごもごといい淀んでいると、限界といった様子でノアが大笑いした。



「ちょ、ノア!笑っている場合じゃないだろ!」


「あははは!だって、詩織ちゃんってば、展開早すぎるんだもん。こんなの我慢できないって!」



 なおも笑い続けるノアに「お前たちは何者だ」とロイが剣をつきつける。

 気づけば彼は、エミとショウを背に庇う位置に立っていた。



「ふふっ、ダメだよ、ロイくん。物騒なものを出すと、詩織ちゃんも伊月くんも怖がっちゃうでしょ。」



 笑いをにじませたまま、ノアがパチンと指を鳴らす。

 その瞬間、ロイの握っていた剣はノアの手に渡っていた。

 

 驚愕に顔をゆがめたロイだったが、すぐに切り替えて魔法の詠唱を始めた。

 詠唱の長い魔法は、それだけ効果が高いという。

 つまり彼は、俺たちは大きな脅威と判断したのだろう。


 しかしノアは慌てることなく「だからダメだって言ったでしょ。」ともう一度指を鳴らす。

 ロイの練り上げていた魔法は瞬時に壊れ、光の粒になって消えた。

 ロイの後ろで、恐怖に顔を引きつらせながらも、エミがショウを庇うように抱きしめていた。


 一人ではどうにもならないと、ロイが扉に向かって応援を呼ぶ。

 挟み撃ちになってしまうと警戒したが、いくら待っても騎士が入ってくることはなかった。



「ごめんね、防音魔法をかけているんだ。外には聞こえないよ。」



 明らかに悪者のような口ぶりだ。

 ショウもエミも泣き出しそうな顔をしている。



「ちょっ、ちょっと待って!」



 あまりのいたたまれなさに、思わず声をあげる。

 何が起こったのか理解していないらしい妻も、エミやショウ同様に泣きそうになっていた。



「どうしたの?伊月くん。」



 呑気そうにノアが返す。



「どうしたって、こんなに怖がらせてどうするんだよ!いじめてるみたいじゃないか!」


「えー、そんなつもりはなかったんだけど…。それに、先に剣を抜いたのはロイくんでしょ?僕は別に攻撃もしてないし、悪くないと思うけど。」


「俺はもっと和やかに話がしたかったの!みんなすごい顔してるだろ!」


「……ほんとだ。ごめんね。」



 どうやら本気で悪気はなかったらしい。

 珍しくしゅんとしている様子が面白かったが、今はそんなことを言っている場合ではない。



「驚かせてしまってごめん。団長も、ノアがすみませんでした。でも俺たちは別に、怪しいものではないんです。」


「……魔王の手のものではないと?」


「違います!誰にも危害を加えるつもりはありません!」



 必死に語り掛けるが、3人ともも「信じられない。」と顔に書いてある。

 俺は覚悟を決めて話を続ける。



「俺たちも、エミちゃんやショウくんと同じ、転移者なんだ。日本の東京で暮らしていた。君たちのお姉さん、高梨舞ちゃんとも面識がある。」


「……お姉ちゃん…?」



 聞き馴染みのある名前が出たことに驚いた様子で、エミの表情が少し緩んだ。



「俺たちは、君たち異世界転移者の意向を聞くよう、俺たちの世界の神に依頼されてここにきた。信じられないかもしれないけど、どうか話をきいてほしい。」



 そう頭を下げると、ショウが小さく「わかった。」と呟いた。

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