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エピローグ(1)晴れ着

 それから数ヶ月がたち、鏡の前で悪戦苦闘する俺に、妻が「準備は済んだ?」と声をかける。



「ちょっとあなた、そろそろ出ないと……」


「わかってる!でもあとちょっとだけ……」



 鏡の中の自分と睨めっこしていると、妻がひょこっと洗面所に顔を出した。

 そして呆れたように「何をしてるのよ」という。



「髪のセットやってるんだけど、いじってるうちに正解がわかんなくなってきて……」


「何それ」


「仕方ないだろ、セットするなんて久々だし」


「もう、仕方ないわね」



 妻があきれ顔でため息をつく。

 そして「ちょっとしゃがんで」と言われて大人しく従うと、手早く髪を整えてくれた。



「……ありがとう」


「まったく、変に気合入れちゃって」



 妻はそう言ってくすくす笑ったが、そんな妻もぴしっと黒留袖を着こなしている。

 鮮やかな花々が刺繍された黒留袖は妻によく似合っていて、俺はほうっと見惚れた。



「なあに?」


「……いや、似合ってるなって」


「そう?あなたもなかなか似合ってるわよ」



 にこっと笑う妻には余裕があるが、俺は内心心臓が飛び出しそうだった。

 妻に促されてリビングに戻ると、義母とノアがお茶を飲みながら待っていた。



「伊月くん、のんびりさんだったね」


「あらあら、かっこいいじゃない」



 二人に褒められると、悪い気はしない。

 義母は妻と同じ黒留袖姿だが、描かれている柄は落ち着いたデザインで、雰囲気も違う。

 ノアは俺と同じ正装のスーツ姿だが、首元のリボンにボリュームがあって、異世界の貴族のお坊ちゃんを彷彿とさせる格好だ。



「本当にこの格好でよかったのかな?」



 身なりを気にしながらノアに問いかけると「大丈夫」と頷いた。



「柚乃ちゃんたちもその格好できてほしいって言ったんでしょ?じゃあ、大丈夫。それにそろそろ時間だよ」


「そうだな、じゃあ行くか」



 俺は鍵を手に取り、掃き出し窓に近づけた。

 やがて白い扉が出現し、俺は扉を軽くノックする。


 少しして、扉がカチャリと開いて、魔王が顔を出した。

 そのまま中へと促されると、鏡台の前に座っている娘の姿が目に映る。

 ゆっくりと振り向いた娘は、俺たちを見てほほ笑んだ。



「今日は来てくれてありがとう」


「柚乃……きれいだな」


「ええ、本当に」


「お姫様みたいね」



 俺たちに口々に褒められ、娘は恥ずかしそうにしつつもうれしそうな顔をしていた。

 そのとき、娘の部屋の入り口が開き、サーシャと神が入ってきた。



「お、そろったか」



 俺たちを見て、サーシャは目を輝かせる。



「これが異国の服か?なんとも珍しい。しかし見事な刺繡だな」


「ありがとうございます」


「そなたはユノの祖母殿だな。今日ははるばる遠いところまで、感謝する。気分が悪くなってはいないか?このあたりは、人間にはあまり良い環境とは言えないからな」


「大丈夫。ノアくんが前もって保護の魔法をかけてくださいましたから」


「それは何よりだ。困ったことがあれば、何でもすぐに言ってくれ」



 サーシャがこうした細かいところにまで気が利かせていることを意外に思いつつも、俺たちも続けて挨拶を済ませる。

 義母を連れて、異世界へ来るの初めてだ。

 本当は連れてくるべきか悩んだが、娘の晴れ姿をどうしても直接見てもらいたくてノアに相談すると、快くサポートを申し出てくれた。


 ウエディングドレスは純白のイメージだが、魔族の間で白はあまり好ましい色ではないと言われている。

 そのため娘のドレスはさわやかな青色だ。

 光に反射すると、縫い付けられた宝石がキラキラ煌めき、まるで海の水面のようだった。

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