表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
250/266

227 玉手箱

「あとさ、この世界でも魔力って使えるのか?緊急時は魔力を流せって言ってたけど、この世界に魔法はないし……」


「そうだね。魔法は使えないけど、魔力を込めることはできる。異世界のときと同じように、体内の魔力を感じてみるといい」


「……魔力って、なくなったりしないのか?」


「しないよ。この世界に魔法はないけど、魔力が存在しないわけじゃない。……試しにやってみたらどうだい?」



 俺は鍵に魔力を込めた。

 全身の魔力を集めて、鍵に向かって流す。


 するとノアの胸元で、アラーム音がけたたましく鳴り響いた。



「ね?」



 にっこりと微笑むノアに、俺は安堵の笑みを浮かべて頷く。

 


「よかった。……ところで、元の姿にはいつ戻してくれるんだ?」


「あ……そういえば忘れていたね。さっそく戻そうか」



 そう言ってノアが指を鳴らそうとした瞬間、妻が「待って!」と大声で叫んだ。

 驚いた俺たちは、妻をぽかんと見つめる。


 どうしたのかと問いかけると、着替える時間が欲しいという。



「この格好は素敵だけど、さすがに元の年齢でこれはちょっと……」


「そう?かわいいと思うけどな」



 あっけらかんとノアは言うが、着替えたがる妻の気持ちは理解できる。

 高校生の娘がいる年齢で、ショートパンツにニーハイソックスというのは抵抗があるだろう。


 若返った姿でも、コスプレのようで最初は恥ずかしかったものだ。



「伊月くんも着替えてくるかい?」



 ノアに問われ、俺は「そうする」と頷いた。

 ゆっくり着替えておいで、と送り出され、リビングを出る。


 背中越しに、義母が「お茶を淹れましょうか?」と問いかける声と、ノアの喜ぶ声が聞こえていた。







 着替えを終えてリビングに戻ると、ノアは緑茶と煎餅を楽しんでいるところだった。

 煎餅は初体験だったようだが、お気に召したようだ。


 とくに海苔がついているのが気に入ったようで、積極的に手を伸ばしている。



「こんなものしかなくて、ごめんなさいね」



 しばらく留守にしていたから、買い置きしていた煎餅くらいしかお茶請けがなかったようだ。

 義母に気を遣わせたことを申し訳なく思っていると、妻も着替えが終わったようで戻ってきた。



「お母さん、用意させちゃってごめんね」


「いいのよ。でも、何も用意していなくて……」


「そうだよね、しばらく家も空けていたし」


「大丈夫。僕、お煎餅好きだよ」



 にっこりとノアが言い「ならよかった」と妻が笑う。


 俺たちが異世界へ旅立っているあいだ、日本では5ヶ月ほどの時間が経っていたらしい。

 実際に旅をしていた時間と比べるとはるかに短いが、誤差の範囲内だとノアは言う。



「よし、じゃあ戻そうか」



 ノアがにっこり笑って、指を鳴らす。

 それにあわせて、目の前にいた妻の姿が見慣れた元の姿に戻った。


 鏡を見ていないので自分の姿は見えないが、ずしりと身体が重くなったように感じる。

 ずっと若い姿でいたから、そのギャップでより年を感じてしまう。



「まるで玉手箱を開けた気分ね」



 ため息をつきながら、妻が言う。

 俺は同意しつつも見慣れた妻の顔を見て、やっぱりこっちのほうが落ち着くな、なんて考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ