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225 祖母

 義母が「早くこっちへいらっしゃい」と娘の手を引く。

 しかし娘は、悲しげに眉を下げて、首を横に振った。

 義母は戸惑いながら、妻に視線を向ける。


 妻は娘の肩を抱くように支え、義母の目をじっと見つめて説明した。

 娘は向こうの世界で生きることを決めたのだと。

 義母は驚きつつも、最後まで話を聞いていた。

 そしてポツリ「せっかく会えたのに……」とつぶやく。

 その声は悲壮感に満ちていて、娘はますます申し訳なさそうに目を伏せる。



「大丈夫、またすぐに会いに行けますよ」



 とっさにフォローをしたが、義母は浮かない顔のままだ。

 しかしふと娘に視線をうつした義母は、その顔をじっと見つめ、やがて微笑んだ。



「ずいぶん、大人の顔立ちになったのね」


「そ、そうかな?」



 娘が戸惑いつつ返事をすると、義母は娘の手を取って頷いて見せた。



「……あんなに小さかった柚乃が、お母さんになるのね……」



 ひとり言のように、義母がつぶやく。

 娘がこくりと頷くと、義母は穏やかに微笑んだまま続けた。



「取り乱してごめんなさいね。まずは、おめでとうっと言ってあげるべきだったのに……」


「そんな……私こそ、こんなに心配をかけたのに……」


「ううん、遠いところでよく頑張ったのね。……幸せになるのよ。そしてたまにでいいから、元気な姿を見せて頂戴」



 娘が頷くと、義母は満足そうに笑った。

 涙はすでにとまっていて、どこか晴れやかな顔をしている。


 そして義母は、神に向かってそっと手招きをした。

 神が戸惑いつつも近づいてくると、義母は満面の笑みのまま、フルスイングで神にビンタをする。


 バシン!と重い音がして、全員が呆然と義母を見ていた。

 義母はにっこり笑ったまま「ごめんなさいね」と気持ちのこもっていない謝罪をする。

 笑顔のはずなのに、明らかに怒りのこもった表情だ。



「どうしても気持ちが収まらなかったの。老い先短い人生だし、天罰を与えるならご自由にどうぞ」



 神は赤くなった頬を軽くさすって、義母に頭を下げた。

 予想外の反応だったのか、義母が目を見開く。



『つらい思いをさせてしまったこと、本当に申し訳ない。あなたの大切な人々を傷つけたことも、心より謝罪する。……待つことしかできない苦しみは、俺が一番よく知っているはずなのに。他人を同じ地獄に引き込もうだなどと、本当に愚かだった。到底償いきれるものではないが、できる限りの償いをすると誓う』



 神の言葉に、義母は涙ぐみながら頷いた。

 そして神の隣に並んで同じように頭を下げた魔王とサーシャを見て「孫のことをお願いします」と告げる。

 娘はそれを見て、ほっとしたような顔で「ありがとう」と義母の手を取った。


 そのとき、ふいに白い扉が淡く光り始めた。

 どうしたのかとノアを見ると「そろそろ時間だね」という。

 白い扉は、一定時間が経つと消えてしまう。

 しかし、向こうで試したときは消える前に光っていなかった気がする。



「扉が開いてるときだけ、光るようになってるんだ。光り始めてから5分くらいで扉は消えるから、気を付けてね。消える瞬間に扉に触れていると、別世界に飛ばされてしまうかもしれないし」


「あ、危ないんだな……」


「うん。もし誰かが巻き込まれたら、すぐに僕に知らせてね」


「わかった」



 ふと、娘の足元に座り込んであくびをしているコトラの姿が目に付いた。

 俺は慌てて「早くこっちに戻ってこい」とコトラを呼ぶ。

 妻も「コトラ、おいで!」と両手を広げた。


 しかしコトラは「にゃおん」と呑気な声を上げたまま、娘から離れようとしない。

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