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224 扉の先

「よし、それじゃあ、そろそろ帰ろうか」



 俺が妻に言うと、妻はこくりと頷いた。

 そして自然に手をつなぐが、娘の生暖かい視線に気付き、気恥ずかしくなって手を離した。

 照れ隠しにそっぽを向くと「そんなことで恥ずかしがらないの!」と妻が笑う。


 先ほどまで出現していた白い扉は、いつの間にか隠し部屋の扉に戻っていた。

 どうやら、一定時間が経てば元に戻る仕組みらしい。


 俺は鍵を取り出し、妻とともに握って扉に近づけた。

 二人でひとつの鍵を握っていると、なんとなく結婚式のケーキ入刀を思い出す。


 再び姿を現した白い扉の鍵穴に鍵を差し込み回すと、カチャリと音がした。

 そして鍵を引き抜き、扉に手をかける。

 ゆっくり開いた扉の先に、見慣れた懐かしいリビングの姿があった。



「なんと!」


「これはまた……」


「……本当にウチだ……」



 目を丸くして、サーシャと魔王、娘が口々に声をあげる。

 異世界へ繋がるといっても、これほどダイレクトだとは思わなかったのかもしれない。


 興味深そうにサーシャが、室内を見渡し「子ども部屋か?かわいい部屋だな」と言った。

 魔王城と比べて圧倒的にコンパクトだからそう思ったのだろうが、何とも恥ずかしくなって「リビングです」と小声で答えた。

 サーシャは驚きつつも、俺たちは一般庶民なのだと言うと納得してくれたようだ。



 そのとき、ドサッと何かが勢いよく落ちた音がした。

 びっくりして音のした方を見る。



「お母さん……っ!」



 音の主を見て、妻が咄嗟に声を漏らした。

 目を見開いて呆然と立ち尽くす義母は、旅立つ前より少し痩せたように見える。

 足元に落ちている鞄が、先ほどの音の正体だろう。


 義母はふらふらと俺たちの方に近づいてきて、そっと妻に手を伸ばした。

 存在を確かめるように、ペタペタと妻の顔を触る。



「怪我は?どこも怪我はしてない?」


「うん……大丈夫……」


「そんなに若返ってるから、一瞬誰かと思って驚いたじゃない……」


「……あ」



 義母の言葉で、姿を戻して貰うのを忘れていたことに気づく。

 ノアを振り返ると、ふいっと目をそらされた。

 どうやらノアも忘れていたらしい。



「本当、懐かしい姿ね……。なんてまあ、可愛い服を着て……目はそれ、どうなってるの?」



 そんなことを言う義母の声は震えていた。

 妻はそんな義母の手をそっと握り「心配かけてごめんね」と囁く。

 そんな妻の様子に、はっとしたように義母が言う。



「あなた……思い出したの?」


「うん……。迷惑かけてごめんね」


「迷惑なんて……とにかく、よかった……。あなたも、無事で何よりだわ」



 義母が俺に視線を向けて言う。

 俺は頭を下げて「ありがとうございます」と答えた。

 そして後ろを振り向き、娘を呼ぶ。


 義母は驚いた顔をしていた。

 義母がすぐに娘のことを聞かなかったのは、姿が見当たらなくて不安だったからかもしれない。

 悲しい報告を受けたくなかったから、先に妻と俺の無事を喜んでくれたのだろう。


 俺のうしろから、娘が恐る恐るといった様子で顔を出す。

 義母はその姿を見るなり、泣き崩れてしまった。


 慌てた娘がおろおろしていると、妻がそっと義母の肩を支えた。

 義母は声にならない声で、繰り返し「よかった……よかった……」と繰り返す。

 娘もいつの間にか涙を流していた。



「たくさん……心配かけて、ごめんね……」



 そう言った娘に、義母は首を横に振る。

 そして一言「あなたが無事なら、それだけで十分」だと泣きながら笑った。

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