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219 許し

「ごめんなさい、気づかなくて!」



 焦った様子で、妻が言った。

 サーシャの目にも、同情の色が浮かんでいる。

 俺を見て状況を察していることから、この世界の父親も同様に、娘の結婚には敏感なのだろう。


 不安げな顔で、娘が俺を見ていた。

 俺はふっと笑い、そっとその頭を撫でる。



「反対するつもりはないから、そんな顔するな」


「……本当?そういえばパパ、昔私と結婚しようとする男は全員倒してやるとか言ってたし……」


「言って……たけど、それはまあ、なんというか」



 父親なら誰しもいうような、願望の混ざった冗談だ。

 しかし本気にしたのか、魔王が軽く身構えていた。


 魔王と決闘をして勝てる自信は一切ないのだが、と苦笑する。



「ちょっと複雑なだけだよ。こんなに早く家を出ることになるなんて、思ってなかったからな」



 この一言は、神の罪悪感を貫いたらしい。

 絞り出すような声で『すまない……っ』と再び謝罪されてしまった。


 ノアに至っては、この状況を楽しんでいるのか、面白いものを見るような視線を向けてくる。

 その隣にいるサミューやロズも同様に、何やらひそひそ話をして盛り上がっていた。

 俺が苦情の意味を込めて軽くにらむと、三人はひらひらと手を振る。



「イツキ殿、シオリ殿。母上……そして、父上」



 改まった様子で、魔王が言う。

 娘の肩に、そっと手を添えているのが気になるが、話の続きに耳を傾けた。



「俺はユノとこれからも共に生きていきたいと思っています。どうか、結婚を許してはもらえないでしょうか?……決闘が必要だというのであれば、胸を借りる気持ちでお願いしましょう」



 その瞳には、確かな覚悟が宿っていた。

 俺は慌てて首を横に振る。



「決闘は必要ない!さっきのは、娘を手放したくない父親のわがままみたいなもんだ。本気じゃない」


「そうおっしゃるのであれば……」



 頷きつつも、魔王はどこか残念そうな顔をしている。

 本当は戦いたかったのだろうか?

 強さを求める魔族らしくはあるが、なんとも恐ろしい。



「……アークヴァルドくんが娘を大切にしてくれていることは、十分わかった。君のもとへなら、安心して娘を送り出すことができる。まだ幼く、頼りない娘だが、どうかよろしく頼む」


「ありがとうございます」


「……ところで、なんで急に敬語?」


「イツキ殿とシオリ殿はユノの両親であり、俺の義両親になるのですから、礼儀を尽くすのは当然でしょう」



 魔王はきっぱりと言い切る。

 しかし見た目は若くとも、魔王は俺たちよりもはるかに年上だ。

 加えて俺たちも若返っているから、今の見た目からしても俺たちの方が若く見えるだろう。



「気を遣うから、今まで通りの方がいいな」



 俺がぽつりとつぶやくと、魔王は不思議そうな顔をした。

 しかし俺の隣で妻も同意するので「……それならば」と納得してくれたらしい。



「今更だけど、私も結婚には賛成よ。アークくん、うちの柚乃をどうかよろしくね。……万が一にでも泣かせるようなことをしたら、絶対に許さないわよ」


「肝に銘じておく」



 妻の脅しに、魔王はまっすぐ答えた。

 そんな魔王を見て、妻は満足そうに笑う。



「私も異論はない。……な?」



 サーシャが神に問いかけると、神も頷いた。

 


「よし!」



 妻がまたパチンと手を叩く。

 そして満面の笑みで続けた。



「これでしっかりと筋も通ったわ。結婚話を進めていきましょうか」



 そんなに急がなくても、とは思ったが、口にはしなかった。

 嬉しそうに会話を弾ませる女性陣を見守りながら、俺はいつの間にか微笑んでいた。

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