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183 嗚咽と抱擁

 室内には、騎士のような格好をした女性が背筋を伸ばして立っていた。

 その奥の椅子には、ドレスに身を包んだ女性が腰かけている。


 女性は立ち上がり、騎士の後ろからその顔をのぞかせた。

 白銀の髪に、金色の瞳がこちらをじっと見つめている。

 それを見て、俺は怒りに身を震わせ、魔王を睨みつけた。



「娘に会わせてくれるのでは?」



 非難めいた俺の口調に、魔王はため息を返す。

 騙されたのかと激高しそうになった瞬間、カシャン!と金属のぶつかる音がした。


 思わず音のしたほうを見ると、騎士服の女性が深くかぶっていた兜を落としたようだった。

 女性は慌ててしゃがみ込み、兜を拾ったまま固まってしまった。

 かわいらしい桃色の髪に隠れて、その表情は見えない。


 どうしたのかと戸惑う俺の腕を、妻がぐいっと引っ張った。

 俺はよろけながらもなんとかバランスを取り、妻に視線を向ける。

 妻は女騎士を見つめたまま、口を開けて震えていた。


 妻のその表情だけで、俺はようやく状況を理解することができた。



 妻とともに、その場にしゃがみこんだままの女騎士にゆっくりと近づき、同じようにその場に屈んだ。

 桃色の髪の下に、白銀の髪がのぞいている。

 女騎士は、恐る恐るといった様子で、ゆっくりと顔をあげて俺たちをみた。

 黄金の瞳がみるみる見開かれ、大粒の雫が次から次へとあふれている。



「ぱぱ……まま……」



 震える声で話すから、幼い子どものような拙い喋り方に聞こえる。

 なんだか娘がうんと小さかった頃が思い出されて、悲しくないのに涙が零れた。


 声を出すと余計に泣いてしまいそうで、俺は黙ったまま、娘と妻をまとめて抱きしめる。

 震える娘の右手が、俺の背中に触れた。

 左手はきっと、妻の背に回されているのだろう。


 しゃっくりをあげながら泣きじゃくる娘は小さな子どものようで、なんとも頼りない。

 なんで変装なんてしていたのか聞きたかったし、今までよく頑張ったと褒めてやりたかったのに、嗚咽にかき消されてどうにも声にならなかった。







 ひとしきり親子で泣いたころ、ぐうっと誰かの腹の虫が鳴いた。

 俯いて頬を赤くしているのを見る限り、腹の虫の飼い主は娘らしい。

 なんでも「パパとママの顔見たら、お腹が空いちゃった」らしい。


 そんな娘を微笑ましそうに見つめ、魔王が侍女に軽食の用意を頼む。

 慣れた仕草に父親としての危機感を覚えつつも、再会の喜びに水を差したくなくて黙っておくことにした。



「ひっ!おばけ……!」



 不意に娘が小さな悲鳴をあげる。

 震えながら指差す方向には、サミューが立っている。



「え、あっちにも……!?」



 さらにロズまで見つけたようで、恐怖に顔を引き攣らせている。

 しかし震えながらも俺と妻を背に庇おうとする姿に、娘の成長を感じて切なくなった。

 まだまだ守られるべき子どもなのに、守るべき立場にならざるをえなかったのかもしれない。


 怯えつつも臨戦態勢をとる娘に「大丈夫」だと声を掛ける。

 娘は不安げな顔をしたままだったが、ノアがパチンと指を鳴らすと、驚きに目を丸くした。



「あれ?!おばけが子どもになった……?」



 どうやら娘にも2人の姿を正しく認識できるようにしてくれたらしい。

 あわあわしている娘に、2人は護衛なのだと説明すると、戸惑いつつも安心したように表情を緩めた。

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