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175 不審者

 不意に、ノックの音が響いた。

 一瞬サミューが戻ってきたのかと思ったが、実体のないサミューがわざわざノックをするとは思えない。

 ちらりと妻の方を見ると、ロズがさっと近くに寄って警戒の姿勢をとっている。


 それを確認して、俺はドアの外の人物に向かって返事を返した。



「どちら様ですか?」


「アリーです。開けていただいてもよろしいですか?」



 ノアに視線を向けると、小さく頷いた。

 俺も頷き返し、ドアノブに手をかけ、小さくドアを開けて顔を覗かせる。


 名乗った通り、ドアの外にはアリーが立っていた。

 どうしたんですか、と問いかけると不審者が出たのだという。



「不審者?」


「はい。先程魔王様の居室の近くで、怪しげな人物を目撃したとの情報がありまして……。警備の者が駆けつけたのですが、すでに姿をくらませており、現在行方を追っているところなのです。怪しい人物がお部屋を訪ねてはきませんでしたか?」


「いえ、誰もきていません」



 不審者というのは、タイミングから考えて十中八九サミューのことだろう。

 そしてサミューを目撃したのが魔王であれば、警備兵が差し向けられることもなく、魔王自身が対処するはずだ。


 目撃者は、おそらく娘だろう。

 そして娘の安全を確保するため、不審者の行方を追っているのだ。



「なかを確認されますか?」


「……いえ、大丈夫です。もしかしたら皆様を追ってきた者かもしれません。よろしければ警備をお付けしましょうか?」


「あ……いや、大丈夫です。俺たちが狙われているとも限りませんし、今は城内の捜索が優先ですよね?何かあればすぐ誰かに助けを求めますので」


「かしこまりました」



 ぺこりとアリーが頭を下げる。

 俺も会釈を返したところで、アリーの背後に何者かの気配を感じた。

 また神が何か仕掛けてきたのかと身構えると、ひょこっとサミューが顔を出した。



「どうかされましたか?」



 驚きが顔にでていたのか、アリーが怪訝そうな顔を向ける。

 俺が「虫がいたような気がして」と苦しい言い訳で誤魔化すと、アリーは首をひねりながらも納得してくれたようだ。


 アリーにはやはり、サミューの姿はおろか、気配さえ感知できないようで、うしろでサミューがゆらゆら揺れたり、アリーの身体をすり抜けて見せたりしても、何も感じていないらしい。

 俺は笑いそうになるのを必死に堪えながら、アリーに改めてお礼を言ってドアを閉めた。

 その寸前、するりと部屋に入ってきたサミューに再度戸惑いつつ。



「……お前、あれは反則だって」



 ドアを閉めてしばらくしてから、俺はサミューに抗議した。

 サミューはケラケラ笑いながら『ごめんごめん』と軽く答える。



『伊月くんの緊張を和らげてあげようと思ったんだけど、やりすぎちゃったみたいだね』


「絶対楽しんでただけだろ」


『ふふ、伊月くんは面白いな』



 普段真面目な顔をしているサミューが、あんなおふざけをしたのは正直意外だった。

 でもノアとロズが呆れた顔をしているので、もしかしたらこっちが素なのかもしれない。



「それで、魔王とは?」


『残念ながら部屋にいなくて、接触できなかった』


「で、柚乃に目撃されて戻ってきたのか?」


『よく知ってるね。柚乃ちゃん、俺のことおばけだと思ったみたいだよ』



 子どもの姿を見て、おばけだと勘違いするか?

 サミューが嘘をついているようには見えないが、にわかには信じられない話だ。

 そんな疑いのまなざしに、サミューがくすりと笑う。



『多分柚乃ちゃんには俺の姿がはっきり認識できず、人型のモヤのようなものに見えたんじゃないかな?』


「あ……だから、おばけ……」


『驚いた顔が伊月くんによく似てた』


「それ、本人に言ったらすごい怒られるぞ」



 そうぼやきながらも、何とも娘らしい話に笑みがこぼれた。

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