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特別編(17)来訪者

 それからしばらく、亮介は例の夢を見なかった。

 あの夢を見るタイミングはまばらで、続けてみることもあれば、数週間時間が空くこともある。


 しかし前回、あんな展開で終わってしまったのだ。

 亮介はそれから奈央がどうなったのか、毎日気が気ではなかった。


 その日の夜、亮介はなかなか寝付けずにいた。

 眠ればあの夢を見られるかもしれないという期待とともに、事態が悪化していたらという不安が大きくなるほど、眠りが遠くなる。

 睡眠導入剤が必要かもしれない、などと考えながら、亮介はベッドの上でぼんやりと寝転んでいた。



「……奈央……」



 名前を呼ぶと、涙がにじんだ。

 ぼやけた視界の中で、亮介は自嘲する。

 いつから俺はこんなに泣き虫になったのかと。


 昔気質な亮介の父は、ことあるごとに「男は泣くもんじゃない」と言っていた。

 感動もののバラエティ番組なんかで男性タレントが涙を見せると「女々しい」だの「みっともない」だの散々ないいようだった。


 そんな父のもとで育ったからか、亮介自身も物心がついてから泣いた記憶はなかった。

 それが今では、ほとんど毎晩のように涙を流している。

 今の自分を見たら父は何というだろうか、と思いつつも、亮介は涙を止めることはできなかった。


 そのとき、ぼやけた視界がぐにゃりと歪んだ。

 奇妙な感覚に戸惑いつつも、闇に引き込まれるような感覚がどこか心地よく、亮介はそっと目を閉じた。







 ゆがんだ感覚がなくなって、亮介はゆっくりと目を開いた。

 そこは見慣れたいつものあの夢の中だった。

 ただ、ブラウン管テレビは壊れているのか、砂嵐のような映像が映し出されている。



「……どうなってるんだ?」



 訝し気にテレビを眺めながら、亮介は次第に焦り始めていた。

 このままテレビが壊れたままなら、もう奈央を見ることすらできなくなる。


 バンバンとテレビを叩いてみたが、映像が変わることはなかった。

 亮介は、全身の血の気が引く感覚に支配されながら呆然とその場に立ち尽くしていた。



「……古典的な方法だね」



 ふと、自分のものではない誰かの声が聞こえてきて、亮介ははっとした。

 声のした方を振り返ると、地面に男の生首が落ちている。


 亮介は思わず、息をのんだ。

 生首は暗い顔で微笑んで、亮介のことを見ていた。



「お前……」



 亮介はその生首に見覚えがあった。

 以前異世界の神だと名乗っていた男だ。

 あの頃はきちんと身体もあったのに、どうして今はそんな姿になっているのか、亮介には意味がわからなかった。



「そんなことをしても、それは直らない。……もう、直す理由もない」


「な……なんだと……!」



 神の言葉に、亮介は怒りが沸騰する感覚を覚える。



「お前が奈央を異世界なんかに連れてったんだろ!これがなければ、奈央の様子もわからないじゃないか!」



 亮介は怒り任せに怒鳴りつけたが、神は眉一つ動かさない。

 神の瞳は亮介を映しているようで、どこかうつろだった。

 その空虚な瞳に、亮介は思わずぞっとする。



「大丈夫だよ」



 ふと背後から、誰かが声をかけてきた。

 目の前にいる神じゃない。

 おそるおそる振り返ると、金の髪と瞳を持つ少年が立っていた。

 その少年は、細やかな装飾が施された銀色の鎧を身に着けている。


 戸惑いながら少年を見つめる亮介は、少年の右腕の肘から先がないことに気づいた。

 少年は亮介の視線に気づいて「これは気にしないで」と笑った。



「君の大切な人は、まもなく戻ってくる。だからもう、こんなものは必要ないんだ」



 テレビにちらりと視線を移して、少年が言う。

 亮介は少年の言葉の意味をうまく呑み込めず、何度も頭の中で反芻する。


 まもなく戻ってくる。

 その言葉をようやく認識できたとき、亮介は少年の肩をがしっとつかみ「本当か?!」と大声を出していた。

 少年は驚くことなく、笑ったまま頷く。



「あ、悪い……」



 腕を失った少年に乱暴なことをしたことに気づき、亮介は謝罪する。

 少年は気にしなくてもいいというように首を振り「よく頑張ったな」と言った。

 こんな子どもに、と思うこともなく、亮介はその場に泣き崩れた。


 少年が言っていることが本当だという確証はない。

 そう頭のどこかで考えつつも、あふれ出る感情を抑えることができなかった。

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