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154 お願い事

「ほ、本物の聖女様……?」



 女の子がポツリと呟いた。

 しかし男の子たちはまだ疑い半分のようで、ネックレスを拾って仕掛けがないかチェックしている。

 しかし小さなネックレスには、オンオフのスイッチ以外はついていない。

 スイッチのボタンを何度か押してみたようだったが、強い光が出ることはなく、淡い光が出ては消えるだけだった。


 それでようやく、奈央が本物の聖女だと言う結論に達したのだろう。

 3人の表情がみるみる青ざめていく。


 そして思い立ったように地面に跪き、奈央に向かって頭を下げた。



「聖女様に無礼なことをして申し訳ありません!どうか弟と妹はご容赦を……!」



 声を震わせながら、年上の男の子が訴える。

 他の子どもたちも「ごめんなさい!ごめんなさい!」と泣きながら繰り返していた。


 信仰の厚いこの国では、神の遣いへの無礼は王族に対するものと同義だ。

 本来であれば、即極刑に処されてもおかしくはないのだろう。

 しかし、幼い子どもたちが恐怖に震え、謝罪を繰り返す姿は見ていて気持ちのいいものではない。



「大丈夫よ」



 奈央は子どもたちにそっと歩み寄り、震える肩にそっと触れた。

 そして「顔をあげて」と優しく語り掛ける。



「大人の言いつけを守って、とても偉かったわね。知らない人を疑う気持ちは大切だわ。私たちはあなたたちを傷つけるつもりはまったくないし、そうやって謝ってもらいたいとも思っていないの。だから立って。お洋服が汚れちゃうと、お洗濯が大変よ」


「聖女様……」


「ありがとうございます」



 子どもたちは奈央に支えられ、立ち上がった。

 奈央はしゃがんで、子どもたちの服についた土を払ってあげる。


 子どもたちは遠慮していたが、奈央がにっこり微笑むと、嬉しそうに笑った。



「一つお願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?」



 奈央が訊ねると、子どもたちは「もちろんです!」と頷いた。



「私たち、今ないしょのお仕事でここにきているの。私たちに会ったこと、誰にも言わないでもらえるかな?」


「わかりました!」


「誰にも言いません!」


「お母さんにもお父さんにもヒミツにします!」



 元気に返事をする子どもたちに、奈央はクスクス笑って頭を撫でた。

 そして妻に向かって「詩織ちゃん」と声をかける。



「なあに?」


「よかったらこのお菓子をこの子たちにあげたいんだけど……いいかな?」



 奈央はさっき妻にもらったお菓子を手に取って言った。

 妻は少し悩んだ顔をして「ダメ!」と答える。

 予想外の答えに奈央が戸惑った顔をして俺を見たが、俺は大丈夫だと笑みを返した。


 長年連れ添ってきたんだ。

 次に続く妻の言葉は、容易に想像がつく。



「それは奈央ちゃんのだから、奈央ちゃんが食べてね!みんなにも、今出してあげるからね」



 ごそごそとカバンを漁り、妻がお菓子を取り出す。

 奈央が手にしている量のお菓子を、一人に一つずつ手渡した。



「座っていっしょに食べよう!」


「でも……お菓子ってすごく高いんでしょ?」


「僕たち、お金なんてないし……」



 遠慮する子どもたちに、妻は飛び切りの笑顔で答える。



「細かいことは気にしない!みんなで食べると、もっとおいしくなるんだよ!」



 そして自分の分のお菓子をぱくっと頬張り、頬を緩める。

 最上級のおいしさが伝わる顔だ。

 子どもたちはごくりと生唾を飲み込み、ちらりと奈央の方を見た。


 奈央がにこっと笑って「いっしょに食べよう」というと、子どもたちはようやく頷いてくれた。

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