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136 過保護

「友だち……ではないかな。俺の連れの彼女の友だちに、柚乃って子がいた気がして」


「そ、そうか……」



 ひとまず胸を撫でおろす。

 しかしまだ彼氏がいないと確定したわけではないし、そんな話題が飛び出さないとも限らない。


 俺は覚悟を決めて続きに耳を傾ける。



「俺も連れも勉強苦手でさ、毎回赤点ばっか取ってんだけど、次も赤点なら進級できないかもって担任に言われたんだ。で、連れの彼女に勉強見てもらうことになったんだけど、その子理数系は得意なんだけど、文系は苦手らしくて。文系科目の助っ人として柚乃って子も来てくれて、みんなで勉強会したんだ」


「……ちなみに、勉強会はどこで……」


「あ?何心配してんの?」



 ははっと蓮が笑った。

 俺の意図を察したらしい。



「いや、父親としてはやっぱりちょっと……」


「大丈夫、図書館の自習室だったから」


「よかった……」


「よかったって、別に家にきたからって何もしないけど」



 そんなことを言いつつも、蓮は楽しんでいる様子だ。

 大人をからかうものじゃない、というと「見た目は子どもじゃん」と返された。

 でも多分、見た目がもとの通りでも蓮にはからかわれたような気がする。



「俺らは家でもよかったんだけどさ、柚乃の親が過保護だからどうのっていってたな」


「か、過保護……」


「ま、友だちの彼氏や知り合いとはいえ、初対面の男の家にホイホイついていかないってのは、いいことだと思うぜ」



 そう言った蓮は、どこか遠い目をしていた。

 どうしたのかと訪ねると、なんでもないと答える。

 しかし、その声が少し震えているような気がした。


 元の世界のことを思い出して、気持ちが落ち込んでしまったのかもしれない。

 さっきの俺のように。


 とくに蓮はまだ子どもだ。

 こんなに長く親元を離れたことなどなかっただろう。



「……俺、高校って留年してんのかな?それとも、まさか退学……?」



 俺の予想に反して、蓮の頭の中は学校のことでいっぱいだったらしい。

 確かに、高校を卒業できないかもしれないと思うと、怖くなる気持ちもわかる。



「多分休学扱いになってるんじゃないかな?進級できたかどうかは、出席日数とか成績とかで変わると思うけど……」


「え、やべぇ。結構サボってたし、赤点ばっかだったからな……。いや、補習はちゃんと受けたけど」


「あぁ……」


「ちょ、諦めみたいな声出すなって!」


「あ、ごめん。いや進級できてる可能性もあるから、希望はあるよ!」



 慌ててフォローしたが、蓮は深いため息を吐いた。

 そして落ち込んだ様子で「俺だけあいつらの後輩になっちまうじゃねぇか」なんて言っている。

 友だちと一緒に進級できないというのは、確かにつらいものだろう。


 気づくと、部屋の前まで戻ってきていた。

 蓮はどこか諦めた顔をしながらも、俺に向かって微笑んだ。



「話がそれちまったな。俺は数回しか会ったことないけどさ、あんたの娘はしっかりしてたし、異世界で苦労してるかもしんないけど、大丈夫だと思う。それだけ、なんか言っときたくなってさ」


「……ありがとう」



 蓮は蓮なりに、俺に気を使ってくれていたらしい。

 俺が礼を言うと、満足そうに頷いた。

 蓮は両手にコップをもっていて両手がふさがっているので、代わりに蓮たちの部屋のドアを開けてあげる。



「サンキュ!あ、あと柚乃、そこそこ可愛いのに、今まで彼氏いたことないって言ってたぜ!安心しろよ、おとーさん」



 部屋に入る直前、茶化すように蓮が言った。

 俺は内心ほっとしながら、自分の部屋のドアに手をかけた。


 あと、娘はそこそこじゃなく、相当可愛い。

 そういうと親ばかだと思われるので我慢したが、本当は声を大にして叫びたかった。

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