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134 列車

 ノアたちが戻ってきたのは、それから間もなくのことだった。

 蓮とラウルはノアからお小遣いをもらったらしく、戦利品を部屋に置きに行っている。


 すみません、と斎藤が言うと、ノアは「いいんだよ」と嬉しそうにしていた。

 おじいちゃんが孫にお小遣いを渡したがるようなものだろう、なんて思っていると、ノアが「失礼なことを考えているね?」と睨んできて、ちょっと焦る。

 ノアはすぐに表情を崩して「まったく」と笑った。



「情報屋はどうだった?」



 ノアがさらりと問いかけ、結果を報告する。

 話を聞き終えたノアは「ずいぶん大きな成果だったね」と笑った。



「これも正晴くんの人柄のおかげかな?」


「いや、私は何も……」


「正晴くんの連れだから、情報屋の彼は伊月くんを信用してくれたんじゃないかな?誉め言葉は、素直に受け取っておくものだよ」


「あ、ありがとうございます……」



 よしよし、と笑うノアに、斎藤は少し呆気にとられている様子だった。

 それもそうだろう。

 いい年をして、子どものような扱いを受けるのは違和感があるものだ。


 ただ、ノアは常にあんな調子だし、慣れてもらうしかないだろう。



「伊月くんも、よく頑張ったね」



 ノアの言葉に、小さく頷いてそっぽを向く。

 どうしても気恥ずかしく感じてしまうのは、俺も変わりなかった。







 出発は、翌朝早く、まだ日が昇りきらない時間。

 昨晩、夕食のあとで妻と街を散歩したときのんびりしすぎてしまい、ちょっと寝不足だ。

 ちょうど大道芸をやっていて、ふたりして見入ってしまったのだ。

 俺の横で、妻もあくびをかみ殺している。



「ずいぶん眠そうだね」



 くすくすとノアが笑う。



「今日はほとんど列車での移動だから、道中寝ているといいよ。何かあったら起こしてあげるから」


「悪い」



 お言葉に甘えて、少し眠らせてもらうことにしよう。


 意外なことに、この世界には列車が存在した。

 異世界人によって伝えられた技術を応用して、開発されたものだという。

 技術を伝えた異世界人がどこから来たのかは不明だが、元の世界では高名な学者だったそうだ。

 動力源は電気でも石炭でもなく、魔力だというのが何とも異世界らしい。


 始発の列車に乗れば、今日中に国境沿いの街まで行ける。

 移動時間が短縮できるのは、何ともありがたい。


 客車にはランクがあり、切符の値段によって利用できる車両は異なる。

 最高ランクの貴族専用の客車は、ホテルのスイートルームのように贅沢だという。

 俺たちが利用するのも個室だが、ベッドと小さなテーブルがあるだけの簡易的な部屋だ。

 ベッドは2段になっていて、1部屋に4人まで宿泊できる。

 俺たちは昨晩のホテル同様、2部屋分利用することになった。


 日本の寝台列車と、仕組み自体はさほど変わらないらしい。

 一度は寝台列車に乗って旅をしてみたいとは思っていたが、まさか異世界で体験することになるとは思ってもみなかった。



 早朝だというのに、駅はずいぶん混雑していた。

 ただ貴族と平民の待遇の違いは駅でも顕著な様で、立派な身なりの紳士淑女は、すぐに駅員によって建物の中に案内されていく。

 平民は混雑する駅の中で行列に並び、列車の到着を待ち続けるしかない。


 ラウルは人混みに気後れしている様子だったが、斎藤や蓮はまったく気にしていない様だった。

 かくいう俺も、混雑しているとは思うが、さほど戸惑いはない。

 元の世界での朝の通勤電車に比べたら、かわいいものだ。



「あ、きた!」



 線路の先を指さし、妻が言う。

 大きな音を立てながら。ゆっくりと列車がホームに入ってきた。

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