131 身勝手
俺はふいに浮かんだ疑問を情報屋に投げかけてみた。
「50年に1度ということは、転移者は2人いる時期もあるのですか?」
情報屋は俺をじっと見て、ため息をつきながら小さくかぶりを振った。
「……いや、ないな」
「え?でも……」
「新しい転移者が召喚されることは、事前に神から信託を受けるそうだ。そのとき、前の転移者が生きていたら、神の御許に還される」
眉間にしわを寄せ、情報屋が言った。
それはつまり……。
「殺されるということですか?」
俺の言葉に、情報屋は頷いた。
「正確には、神への供え物って扱いだけどな。神のもとへつながるといわれてる深い滝があって、そこに突き落とされるんだと」
「むごいことを……」
「な。虫唾が走るぜ。だがまあ、そんなわけでいつの時代も、あの国にいる転移者は一人だけだ」
今まで神の遣いとあがめてきた者たちに突き落とされたかつての転移者たちは、どんな気持ちだったのだろうか?
新しい転移者がくるなら仕方ないと、素直に受け入れられたとは到底思えない。
絶望的な思いで命を落としたのか、それとも本当に神のもとへ行けると信じていたのか。
俺には知る由もないが、そんな身勝手がまかり通っていいはずがない。
新たな犠牲を出さないためにも、かの国の転移者に会わなければと、決意をあらたにする。
情報屋はそんな俺を見て、一枚のメモを書いた。
そしてそれを俺に手渡す。
「……これは?」
受け取りながら訊ねる。
メモには簡易的な地図が書かれていて、いくつか丸いしるしがつけられていた。
「近々聖女は、ユミュリエール教国内のとある領地に視察へ出ることになっている。接触するなら、その道中だろう。しるしがついてるのが、聖女が休憩に立ち寄りそうな場所だ」
「……ありがとうございます」
「二重丸をつけてるのが、一番接触しやすそうなところだ。開けた場所になっていて、よく旅の者の野営や休息に使われている。ただ少し離れたとこには、身を隠すのに最適な岩陰がある。あと町や村から離れていて、相手の騎士が応援を呼びにくいってのも魅力だな」
「でもどうして俺が彼女に会いに行くって……」
「顔みりゃわかるだろ」
「か、顔……。でも、どうしてそこまで……」
こちらが求めている以上の情報を無意味に提供してくれるほど、この男は甘くはないだろう。
何か裏があるのではないかと、つい疑ってしまう。
「ま、ただの気まぐれだ。……こいつが連れてんなら、お前も悪いやつじゃないんだろ。報酬も奮発してくれたことだし、サービスとしてありがたく受け取っとけ」
斎藤のほうを伺うと、こくりと小さく頷いた。
信頼してもいいらしい。
そして「ついでにおまけだ」と店主が俺に小さな宝石のようなものがついたネックレスを差し出した。
淡く光っているように見えるのは、光の反射だろうか。
ネックレスを受け取ろうと手を伸ばした。
しかし俺の指先が触れた瞬間、急にまばゆい光がネックレスから放たれた。
「うわっ!」
「ちょ、おい!すぐ手離せ!」
驚いたのは情報屋も同じだったらしく、慌てた様子で怒鳴りつけられた。
ぱっと手を離すと、光も落ち着いた。
驚きとまぶしさにパチパチと瞬きをしていると、情報屋は呆れたように言った。
「おいおい、どうなってんだよ。まさかお前も異世界人なのかよ……」