128 コンビプレー
「情報屋の隠し部屋は、厳重な警備システムで守られています」
「警備……システム?」
「ええ。やつは優秀な魔法道具師で、すごいアイテムをいくつも自作しているんです。ただ本人は仕事にするつもりはないらしく、あくまで趣味の一環だと言い張っていますが」
「へぇ、すごいですね」
「ええ。まず隠し部屋に入るためには、やつの作った腕輪が必要になります。腕輪が入室許可証の役割を担っていて、腕輪なしに無理やり侵入しようとした者が、見えない壁に弾き飛ばされるところをみたことがあります」
ちなみに、入室権限の付与は情報屋の持つ別の魔法道具で行われるらしく、危険があると判断されれば、腕輪に入室権限が剥奪され、自動で部屋から追い出される仕組みを構築しているという。
なんとも便利なシステムだと、改めて感心する。
「やつは警戒心の強い男です。余計なトラブルを避けるためにも、私が一人で会いに行こうと思います。そのあいだ、蓮とラウルをお願いできますか?」
「それはもちろん。でも……」
「でも?」
「あ、いえ。わかりました」
斎藤は少し引っかかったような顔をしたが、それ以上追及することはなかった。
俺はそれをありがたく思いながら、甘えることにした。
しばらく進んでいくうちに、何度か魔物に遭遇した。
意外なことに、さくさく魔物を倒していったのは、蓮とラウルだった。
ラウルが短剣をもって前衛を務め、蓮が後方から弓でサポートする。
そうして手際よく、2人は魔物を仕留めていった。
「すごいな」
連携のとれた戦闘スタイルに感心していると、斎藤が「私が鍛えましたから」と得意げな顔をする。
弟子が褒められるのは、師匠としてうれしいものなのだろう。
蓮は接近戦に不慣れで、敵が近付くと焦って冷静に対処できなくなるそうだが、弓の腕は確かだった。
なんでも、中学時代2年ほど弓道部に所属していたらしい。
筋がよいと顧問に褒められ、部の代表として大会に参加したこともあるという。
しかしそれが先輩の気に障ったらしく、言いがかりをつけられるようになったそうだ。
そうして揉めた結果、部をやめることになって弓道はそれっきりだったらしいが、2年間の練習の成果は身についていたらしい。
ラウルの場合、弓の的中率は蓮の足元にも及ばない。
その代わり、魔物の攻撃に怯まず敵に接近し、冷静に剣をふるうことができるという。
元の世界で怪我に慣なれていたせいだろうかと思うと、何とも言えない気持ちになる。
怪我を恐れず戦う姿は、少し危なっかしく見えてならないが、ラウル曰く「魔物は人間ほど怖くない」そうだ。
「なかなかやるね」
ノアも二人の戦いぶりが意外だったのか、興味深そうに呟いた。
口々に褒められたのが嬉しかったのか、蓮とラウルは顔を見合わせて笑った。
そのとき、木陰から小さい何かが素早く蓮とラウルに向かって飛んできた。
ギリギリのところでかわす二人だったが、奇襲に驚いたこと、素早さに翻弄されたことによって、苦戦している。
斎藤は腰に下げていた剣を抜き、一太刀で敵を仕留めた。
ポトリと真っ二つになって地面に落下したのは、コウモリに似た魔物だった。
「褒められたからと言って、油断しないように」
ぴしゃりと斎藤が言い放ち、蓮とラウルはそろってシュンと落ち込んだ。
斎藤はそんな2人の頭をポンポン叩いて「だが、上出来だ」という。
斎藤に認められるのが一番うれしいのか、2人とも照れくさそうに笑った。
「2人ともかっこよかったね!」
そう妻が言うので、俺も「そうだな」と同意した。
しかし2人はそろって明後日の方向を向いた。
どうしたのかと思ったが、耳まで真っ赤になっている様子を見るに、単に恥ずかしがっているだけなのだろう。
そういえば、蓮は中学校から男子校に通っているといっていた。
年頃の女の子と接する機会がなかったのかもしれない。
俺は何だかおかしくなってくすくす笑うと、蓮とラウルに軽く睨まれてしまった。