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119 文化の違い

「……本当は、おっさんだったんだ……」



 話を聞き終えた蓮が、ぽつりと言った。

 俺は苦笑しつつ、頷いて見せる。



「え、じゃあ、ノアは神様ってこと?」



 ラウルが興味深そうに、ノアの顔を覗き込む。

 ノアは柔らかく微笑み「どうかな」と意味深に答えた。

 ラウルは「教えろよー」とぼやいているが、ノアは笑って流している。

 どうやらまた、答える気はないらしい。



「なあ、ノアって力あるんだろ?だったら、俺だけじゃなくてさ、ラウルのことも元の世界に帰せるんじゃね?」



 ぱっと閃いたように、蓮が言った。

 確かに、ノアなら俺たちの元の世界だけでなく、ほかの世界にも自由に行き来できる。

 蓮の懸念点の一つであるラウルについて、転移前の世界へ戻せるのなら、願ってもないことだ。


 しかしノアは、困ったように眉を下げた。



「できなくはないよ。向こうの神に話をつけないといけないけど」


「まじで⁉じゃあ、話つけてやってくれよ!」


「それが、本当に必要なことならね」


「……は……?」



 意味がわからないという表情で、蓮が固まる。

 俺も同じ気持ちだったが、ふとラウルのほうを見ると、その理由がわかった気がした。



「ま、俺の話はどうだっていいんだよ。それよりさ、イツキって師匠と同じくらいの歳ってこと?」



 わざとらしく明るい調子で、ラウルが言った。

 話を逸らしたいのが、ありありとわかる。

 蓮は納得がいっていない様子だったが、斎藤に「まだ時間はある」と言われ、しぶしぶ引き下がった。


 ラウルの言う師匠とは、もちろん斎藤のことだ。

 斎藤は蓮とラウルを保護してから、この世界で生き抜く手段として戦闘の指南をしているらしい。

 出会ったとき、蓮とラウルが弓矢を手にしていたのも、修行の一環として狩りに出ていたからだという。


 何も師匠じゃなくてもいいと思ったが、そっちのほうがかっこいいと蓮とラウルが譲らなかったそうだ。

 斎藤自身は、普通に名前で呼んでもらいたかったそうだが、若いふたりの勢いを断り切れず、今に至るらしい。



「斎藤さん、今って40過ぎくらいですか?」



 俺が訊ねると、斎藤は軽く頷いた。



「おそらく、42か43といったところでしょう。国に追われるようになってしばらくは、昼も夜もなく身を潜めていたので、年月の感覚があやふやになってしまって」


「そうですか……。俺は今年45になったので、少し年上ですかね」


「え、まじか!」



 蓮とラウルが、俺と斎藤を交互に見比べてため息をついた。

 そろった動作がまるで兄弟のようで、何とも微笑ましい。



「え、俺、伊月さんって呼んだほうがいい……?」



 緊張した面持ちで訊ねる蓮に、俺はかぶりを振った。



「呼び捨てで構わないよ」


「そ?よかった、俺、敬語とか苦手だし」



 へらっと蓮が笑った。

 その隣では、ラウルが不思議そうな顔をしている。



「イツキって偉い人なの?」


「なんで?」


「だってさん付けって、立場が上の人にするものだろ?」


「あぁ……俺たちのいた世界では、年上の人を敬う考えがあってね、敬称をつけて呼ぶことが多いんだよ」


「ケーショー?」


「敬意を表す呼び方、さんとか様とかのことだよ」


「ふうん。俺の住んでたところは、大人でも子どもでも身分が同じなら呼び捨てだったからな。なんか変な感じ」



 そう言いつつも、ラウルは納得したようだった。


 国によって文化が違うように、世界によっても文化が違う。

 それは当たり前のことだろう。

 ただ、それをすんなりと受けとめられるというのは、すごいことだと俺は思った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 同意が無い異世界召喚は、神様でさえ罰を受けるのに 召喚魔法を乱用して、色々な世界に干渉している 今回の異世界は大丈夫なのでしょうか? [一言] 更新を楽しみにしています。 ラウルの事情…
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