111 三人の転移者
「3人?!……それは、多いな……」
「次の世界は、召喚魔法がずいぶん発達しているんだ。君たちの世界だけじゃなく、いろんな世界から手当たり次第召喚している」
「そんなにたくさん……何のために?」
「国の発展のためさ。有能な人材を育てるのは大変だから、すでに育っているものを引っ張ってくればいいという発想なんだって」
「なんだよそれ……」
「転移者は国籍を持たないから、人権がない。どう扱っても罰せられることはない。……奴隷同然の扱いをしても、ね。だからこそ、各国がこぞって召喚魔法を使っているんだ」
今まで俺たちが出会ってきた転移者たちは、それぞれ苦労していたが、それでも勇者や聖女として表面上は丁重に扱われていた。
勇司の妹に関しては、転移者ではなく憑依者だったため、例外だったが。
しかし次の世界での転移者の扱いは、まったく異なるものだという。
「転移者の説明をする前に、次の世界の情勢について軽く教えておくね。国の数は多いけど、覚えてほしいのは3ヶ国。広大な領土と強固な軍事力を有するロナリア帝国、魔法技術が発達したオートラック王国、そして神の名のもとに世界統一を目指す宗教国家のユミュリエール教国。この3つの国が世界の覇権を争っている状態なんだ」
「戦時中なのか?」
「いや、今はまだ開戦してはいないよ。ただ、時間の問題だろうね」
「……そうか」
ノアが言うには、元の世界からの転移者は、この3つの国にそれぞれ召喚されたらしい。
一人目は1年ほど前にロナリア帝国へ、二人目は3年前ほどにユミュリエール教国に、そして三人目は20年以上前にオートラック王国に。
「に、二十年前?!」
「そう。この世界は、君たちの世界とのタイムラグがほとんどないから、彼は異世界で20年もの時を過ごして言ことになる」
唖然としている俺をそのままに、ノアは話を続ける。
「召喚者のうち二人は、被害者の会のメンバーの家族だよ。代表の佐々木くんの弟と、大和くんの奥さん」
情報が多すぎて、全然頭がついていかない。
まさか、二人が同じ世界に転移していたとは予想していなかった。
「佐々木くんの弟の蓮くんは、ロナリア帝国に召喚された。ただあの国は転移者への扱いが特段にひどくてね、役に立たないと判断されたら処分対象になってしまう」
「処分?」
「まとめて殺しちゃうってこと」
「……なっ?!」
ロナリア帝国では、召喚は毎月数十人のペースで行われるという。
優秀な転移者が現れるまで、繰り返し、繰り返し。
帝国にとって有益ではないと判断されたものは、基本的にその日のうちに殺処分となる。
ただし、極端に容姿が優れている場合などは、奴隷として売りに出されることもあるそうだ。
「転移者は、世界を渡る際にみなそれぞれ独自のスキルを神から与えられる。そして帝国では、そのスキルが転移者の有益性の最も大きな判断材料となる」
「蓮くんは……」
「蓮くんのスキルは【接着】だった。その名の通り、何かをくっつける能力だね。使いようによっては便利だと思うけど、帝国の期待に沿うことはできなかった」
「じゃあ、まさか……」
「蓮くんは殺処分が決まった。でも、彼はほかの世界からの転移者と力を合わせて、逃げ出すことに成功したよ。……ただ、生き残れたのは蓮くんを含めてたったの二人だけだった」
ノアは淡々と語っていたが、その表情には怒りがにじみ出ていた。
俺も同じ気持ちで、こぶしを握り締める。
「それで、逃げたあとは?」
「とある人に保護されている」
「とある人?」
「そう。彼については、またあとで説明するよ」