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特別編(9)護衛騎士

 勇司の異世界での新生活は、平穏なものではなかった。


 各地からの救援要請に応え、国中を飛び回る日々は多忙を極める。

 かつて魔王討伐の旅をしていたころと比べても、さらに忙しい毎日だった。


 しかしそれでも頑張れたのは、支えてくれる仲間と帰りを待っていてくれるシャルロッテのおかげだった。

 勇司は今、魔王討伐時のメンバーとともに各地を回っている。

 国一番の魔法使いであるロエナのほか、教会に戻っていた神官のマシュー、そしてロエナの護衛騎士を務めているカイル。


 カイルがロエナの護衛騎士になっていたのは、勇司にとっては意外なことだった。

 そもそもカイルは貧しい孤児で、王族や貴族に対して深い憎しみを抱いていた。

 同じ孤児の子どもたちと生活を共にしており、日銭を稼ぐために窃盗を繰り返していたのだ。

 窃盗被害に困った住人に頼まれ、盗賊退治を引き受けた勇司たちは、カイルと出会い、彼らの境遇を知ることになった。


 一番ショックを受けていたのは、ロエナだった。

 自分の知らぬところで、飢えに苦しむ国民がいるという事実に打ちのめされたらしい。


 しかし、そこでロエナは背を向けなかった。

 ロエナは己の世間知らずを恥じ、カイルをはじめとする孤児たちの生活の安定に奔走したのだ。

 紆余曲折あったものの、その街の領主に孤児院の建設を約束させることに成功した。

 ロエナ個人としても寄付を行い、孤児院完成までの間、孤児たちが安心して暮らせる環境を整えることになった。


 カイルはロエナの献身に、何か裏があるのではないかと疑っていた。

 だからこそ、監視のために勇司たちに同行すると言い出したのだ。

 危険な旅だからと止めたものの、カイルの決心は固く、勇司たちが折れる形で同行することになった。


 旅の中で、カイルは王族や貴族が悪人だとは限らないと身をもって感じたらしく、次第に態度は軟化していった。

 そしてやがて、互いの命を預けられるほどのかけがえのない仲間となったのだ。



「なあ、カイル。なんで護衛騎士を選んだんだ?」



 救援要請のあった街へ向かう道中、勇司が訊ねた。

 魔王討伐後、カイルは故郷に戻ると語っていた。

 そこで、きょうだい同然に育った孤児たちとのんびり暮らすのだと。


 だから、ロエナのそばに鎧を着たカイルがいて驚いたのだ。



「そうだな……一度は故郷に戻ったんだがな」


「何か問題があったのか?」


「いや、みんな俺の帰りを喜んでくれた。このまま、みんなと暮らしたいと思ったよ」


「じゃあ、なんで……」


「……思ったんだよ、旅をしているとき。姫様ならきっと、この国をもっとよくしてくれるって。俺はその手助けがしたくなったんだ」


「手助け……」


「いや、違うかな。姫様のそばで、国が変わっていくところを見ていたかったのかもしれない」



 魔王討伐を成し遂げたあと、ロエナは国民の生活の安定に注力した。

 孤児院を作り、病院を整備し、生活困窮者が自立できるよう仕事について学べる学校の設立を提案した。

 多大な国費を使うことから、反対意見も多かったというが、長い時間をかけて少しずつ環境はよくなっているという。


 俺たちの話を隣で聞いていたロエナは、照れくさそうな顔をしながら言った。



「前にユージが教えてくれた、ユージの世界の話を参考にしてみたのです」



 以前、ロエナに貧困者の救済方法について相談されたとき、勇司は日本の話を例に挙げたことがあった。

 親のいない子どもを養う施設があること、専門学校や職業訓練校の仕組みなど、あまり詳しくはなかったがわかる範囲で話したのを覚えていてくれたらしい。


 この国には、そもそも病院はなかった。

 病気になったら神官に治癒魔法をかけてもらうのが一般的だが、料金は高額で、平民にはとても手が出せない。

 それに比べると治療薬は安価だが、それでも裕福な平民がようやく利用できる程度だ。


 そこでロエナは、神官見習いの学習の場として病院を設立しようと決めたそうだ。

 治癒魔法の練習という形で、神官の指導を受けながら見習いが治療を施す。

 練習がメインなので、料金は安価に設定された。


 魔王討伐をともにした神官のマシューの力添えもあり、教会側はすんなりと提案を受け入れてくれたそうだ。

 神官見習いの練習の場は想像以上に少なく、成長の遅さが課題だったそうだ。

 実際に病院で活動することで、神官見習いたちは異例の速さで治癒魔法を上達させたという。



「この数年で、頑張ったんだな」



 勇司がいうと、ロエナは嬉しそうに笑った。



「せっかくあなたが救ってくれた世界だもの。一人でも多くの人が笑って暮らせる世界を作っていきたいの。……これからは、ユージも手伝ってくれるでしょう?」



 ロエナの言葉に、勇司は「もちろん」と頷いた。

 そんなふたりを見つめるカイルの瞳は、以前のような憎しみではなく、希望と感謝に満ち溢れていた。

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