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第75話 対レックス

 思わずびくりとする。

 いきなり跪かれるから、びっくりしちゃったよ。


 ジメイさんたち三人に「お願いね」と言い背を向ける。

 事態は一刻を争う。ボクはボクの出来ることをしなくちゃ。


 そんなボクに真剣な表情で言うベルトラン。


「覚悟は決まったか? なら雑魚の魔物は俺が一掃してやる、その間にお前はレックスを殺せ」

「う……」


 思わず軽く引いてしまう。


 や、やっぱりそうなる……?

 分かってるよ、分かってるけど改めて言われると……。


「お前の気持ちは分かる。だがな、あれはもう駄目だ。ここまでの事をしちまったら捕まえたとしても死刑は間違いないねぇし、お前の権限ならこの場で処刑してもなんら問題はない」

「そ、それはそうかもしれないけど……」


 頭では理解してるんだけど……。


「うん、ダメだね、こんなんじゃ」


 ぱんぱんと両頬を叩く。


「町のみんなを護ると決めたんだ。ボクもしっかりしなくちゃ」


 言うと、にやりと笑うベルトラン。


「覚悟決まったようだな。じゃあお前の師匠として、冒険者の先輩としてひとつ見せてやろう」

「え?」


 目をぱちくりとするボクの目の前で、ベルトランはブロードソードを両手で構える。


「技スキルは上位スキルまで使えるようになってるか?」

「う、うん。大丈夫だよ」

「精霊術を武器に纏わせることは?」

「精霊佩帯(はいたい)のこと? うん、出来るよ」


 コクリと頷くボクにベルトランは言う。


「なら、その先だな」

「その……先?」

「ああ。A級、S級ともなれば上位天職を持ち、上位スキルを使えることはほぼ必須と言っていい。それ以外の奴らにゃ悪いが、それがないとそこまで到達することは出来ん」

「う、うん。それは分かるよ」


 確かに下位天職しか持ってない人からすると理不尽だと思うけど、やっぱり現実は厳しいと思う。


「天職から得られるスキルは上位スキルまで。なら上位スキルを使えることは大前提、という世界でなにがA級とS級の決定的な差となるのか――それは、スキルを組み合わせた独自の技を持つかどうかだ」

「スキルを……組み合わせる?」


 困惑するボクにベルトランは「おうよ」と返す。


「論より証拠、見せてやろう。S級のみが至れる境地――纏渾轟臨(てんこんごうりん)をな」

「てんこん……ごうりん……?」


 あっけにとられるボクの前で、ベルトランは短く「――炎よ」と唱える。

 瞬間、赤い炎に包まれるベルトランのブロードソード。


 ここまでは分かる。ボクの使う精霊佩帯と同じだ。


 すぅ、と息を吐くベルトラン。


(ケセド)より輝剣抉殺(シャイン・エクリプス)――」


 彼の右腕が光を放ち、それがブロードソードへ伝わっていく。


(ゲプラー)より輝剣抉殺(シャイン・エクリプス)――」


 同じく左腕も光を放ち、それが剣へと伝わっていく。


 両腕から流れ込んだ光を込められたブロードソードは、今や眩いばかりの輝きを帯びていた。


「見せてやる、これが――」


 輝きを放つブロードソードを振りかぶり、振り下ろす――!


「穿て!! 餓狼咆吼リュジス・ルーヴ・アンフェール!!!」


 轟音と閃光。


 振り下ろされたブロードソードから放たれた、まるで大地を、大気を割るんじゃないかと思うほどの衝撃波。

 衝撃波は一瞬で何十体もの魔物を飲み込み、そのまま更に何十体もの魔物を巻き込みながら一直線に進行。


 そのままいくつかの建物を倒壊させ、最終的にボクの目の前に広がっていたのは、何もかもが一掃された瓦礫の山だった。


「す、すごい……これが纏渾轟臨(てんこんごうりん)……」

「ああ、右手と左手で同じ、もしくは別々のスキルを発動、それを武器の中で混ぜ合わせ強化し放つ技術だ」


 言葉が出ない。


 ベルトランの言葉から考えると、いまの技は上位剣技シャイン・エクリプスをふたつ掛け合わせた技なんだろう。いや、その前に剣に炎を纏わせているから、合わせてみっつかな。


 ボクたちの周りは魔物にぐるりと囲まれていたけど、いま目の前の魔物は綺麗に一掃されていた。

 ベルトランの技量もあるんだろうけど、すさまじい威力だ。


「というわけでな、雑魚は任せておけ。お前は仲間と協力してレックスを倒せ」

「うん、分かったよ」


 ベルトランに頷いて返す。


 一番強いベルトランがレックスの相手をすれば、と一瞬思うけど、この数の魔物相手にボクだと持ちこたえられないかもしれない。


「ベルトラン、気を付けてね」

「俺はこれでもS級だからな、大丈夫だ。それよりお前こそ気をつけろよ」


 もう一度頷くと、ベルトランに背を向ける。


 後ろで聞こえてくる魔物を蹴散らす音に背中を押されながら、みんなの所へと急ぐ。


 「みんな!!」


 そこでは防戦一方となっていた。


 リリアーヌがファイアボールで雑魚を次々仕留めているけど、リリアーヌは接近戦が苦手だ。この魔物の数の中でエステルさんやジゼルちゃんと引き離されてしまえば、命の危険がある。だからリリアーヌ中心にエステルさんとジゼルちゃんが近づいてくる魔物を仕留め、そのさらに外側で近衛騎士さん達が戦っている。


 ようするにリリアーヌ中心に何重もの円状になり、迫りくる魔物から身を護る防御の陣形。


「ウへァハハはハハはは!! そんナものカ、弱イ、弱イなァ、人間はァ!!」


 そしてその向こうでは、今まで見たことのない形相でげらげらと嗤うレックス。

 レックスの周りには、まるで彼を護るように控える特別屈強な五体のオーガ。そしてレックスの指示で魔物が次々と現れ、リリアーヌたちに襲い掛かっていく。


 その様相は、まるで魔物の王のよう。


 ずきんと心が痛む。


「リリアーヌ! エステルさん! ジゼルちゃん!」


 心の痛みを振り切り声を上げると、振り向くみんな。


「シルリアーヌ! 遅いのじゃ!」

「シルリアーヌ様! 申し訳ありません、現状防戦で手一杯です!」

「お姉さま! 待ってたの!」


 笑顔で迎えて来るみんなに「待たせてごめんね」と声をかけ、輪の中に入る


 すると、隊長らしき近衛騎士さんが近づいてきて、ボクの前で跪く。


「シルリアーヌ王女殿下、我ら近衛騎士団、殿下の指揮下に入ります。ご下命を」


 貴族様でもある近衛騎士さんにへりくだった態度でそんなことを言われて、思わずびくりとしてしまう。


 でも、そんなんじゃダメだ。

 ボクが近衛騎士さんに命令、と考えるからダメなんだ。みんなで力を合わせて、この町を護るんだ!


「レックスはボクたちが抑えるよ。町のみんなの避難は冒険者たちががんばってくれるから、近衛騎士団は魔物の掃討をお願い」

「冒険者、ですか……」 


 言うと近衛騎士さんは、行動を始めた冒険者たちの方へ胡乱な視線を向けた。


 むぅ。

 だめだよ、それは。


 騎士さん達と冒険者たちは、あまり相性が良くない。

 言うほど接点がある訳じゃないから敵対してるとかいう程じゃないんだけど、騎士さんは冒険者の事を「冒険者ふぜい」と見下して、冒険者は騎士さんの事を「偉そうにしやがって」なんて言って嫌っている。


 でもそれは良くないと思うんだよね。


「冒険者たちはボクのために頑張ってくれているよ。彼らを信頼してあげて欲しいな」


 言うと、素直に頷く近衛騎士さん。


「承知いたしました。王女殿下がそう仰るのであれば」


 そしてすっくと立ちあがり、部下を率いて散開していく。

 いいなぁ。冒険者もかっこいいけど、騎士もかっこいいなぁ。冒険者はまだしも、ボクが騎士になる事は絶対にないだろうけど。


 そんな事を思いながら、レックスへと向き直る。


「うェはハハははハハハは!! 最強ォ!! オレは最強ダぁアア!!」


 魔物の中心で、げらげらと嗤うレックスへと。


「――行くよっ!」


 後ろでみんなが頷く気配がした。


お読みいただいて、ありがとうございます。 


 少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。


 つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。


 なんの反応も無いのが一番かなしいので……。



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