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閑話 近衛騎士団副団長

「はぁ……まったく、あの方は……」


 私――アルベール・ド・プレヴァンは、上司である近衛騎士団団長ガルドス・ド・オブランの執務室で何度目になるだろうか、ため息をついた。


 近衛騎士団団長であるガルドス様は現在、国王陛下の御親征に同行して魔族との戦争に出陣していて不在。

 だからその間の近衛騎士団の執務は、近衛騎士団副団長なんかやらされている私が代行する事になる。それはまぁいい。めんどくさいが副団長としてそれなりの給金を頂いている身だし、給金分の働きをすることはやぶさかではない。


 だけどね……


「この人ぜったい見てないだろ……この書類の山」


 机の上には、うず高く積み上げられた書類の山。

 明らかに目を通していなさそうな雑多に散乱した資料、未決済の書類が積み上がり、机の引き出しを開ければ未処理の案件の資料が無造作に詰め込まれている。

 別件で任務があって本部を空けていたから、帰ってきて驚いた。


「副団長としての執務だってあるんだけどね……」


 明らかに一人で出来る仕事の量じゃないし、婚約者とのデートの約束だってある。こんな事ばっかりやっていられない。


 ぼやきながら考える。

 近衛騎士団は高位貴族の子息が多く在籍している関係上、書類仕事なども得意な団員が他の騎士団と比べて多い。団員たちの顔を思い浮かべ、どの仕事を誰にやってもらうべきか考えていると、執務室のドアがバァンと弾き飛ばすように開けられる。


「副団長! ここにおられましたか!」

「うん? どうした?」


 血相を変えた部下の姿に、出来るだけいつもの調子で答える。

 部下を落ち着かせようとしての事だったが、帰ってきた答えは私の想像を超えていた。


「王都の中に魔物の群れが出現しました!!」

「はぁ?」


 緊急時の騎士にあるまじき、間の抜けた答えを返してしまう。

 しかし尋常の事態ではないらしい。立ち上がり王宮の外へと、部下と共に移動しながら質問を返す。


「どういう事だ?! 城壁が破られたのか? しかしそんな報告は……」

「いえ、違います。城壁に異常はありません。突然王都内に魔物が出現しました」

「都市内に突然魔物が出現? そんな事が……」


 歩きながら考える。


 そんな事はありえない。

 しかし絶対という事は無いし、部下が嘘を言っているはずもない。城壁を守る衛兵がみすみず魔物を通すわけもないだろうから、可能性としてはどこか城壁に綻びがあったか、もしくは考えたくはないがどこかに都市内と外を繋ぐ地下通路でも存在しているのか……。


「分からない事を考えていても仕方ない。他の騎士団はどうしている?」

「ハッ。他の騎士団は御親征でほとんどの騎士が出払ってしまっているため、動きは鈍いです。残っている騎士と近衛騎士団が魔物の討伐に向かっていますが、現在王都は大混乱に陥っており、なかなか思う様に進んでおりません」

「王宮からなにか言ってきたか?」

「いえ、現在ほかの者が指示を仰ぎに向かっておりますが、今の所はとくに指示等はありません」

「ふむ……」


 国王陛下と王太子殿下が不在の時期にこの騒動……人為的に引き起こされた物か?

 王妃陛下と第二王子殿下はあてにならないか。王弟殿下は権力から遠ざかっているしな……。


「よし、私が出よう。臨時の司令部を近衛騎士団の本部とする。連絡用にお前とその部下は残れ、何かあれば全てそこへ報告を上げさせる。本部権限は一時的に全て移譲する、緊急時はなにか術を打ち上げろ」

「はっ、申し訳ありませんが、お願いします!」


 敬礼する部下に答礼を返し、何人かの部下を率い街に出る。


 そして、息をのんだ。


 ――まるで地獄のようだった。


 ついさっきまで平和に暮らしていた王都の市民が、我が物顔で闊歩する魔物どもになぶり殺しにされていた。

 もちろん衛兵や騎士は魔物を倒そうと奮闘していたし、冒険者だって目の前で人が魔物に殺されているのを黙って見ているほど腑抜けてなどいない。


 しかし、この王都には5万人ほどの市民が暮らしているのだ。


 その市民全てを魔物の手から守るには、衛兵も騎士も冒険者も、圧倒的に数が少ない。

 そして町の中に魔物が侵入しこれほど乱戦になってしまうと、威力の高い術や技は使えない。


流剣星貫シューティング・グリッター!!」

「グギャアアッ?!」


 技スキルで手当たり次第に魔物を切り捨てていく。

 今の所あまり強力な魔物はいないが、とにかく数が多い。部下も頑張っているが、目の前で何人もの市民が魔物によって傷つけられていく。


「|癒しの囁きは煌めく奇跡ワールド・オブ・ブランシュ!!」


 唱えると、私を中心にして輝く光が広がってゆく。


 使ったのは、私の天職パラディンが使える光属性精霊術の上位術ワールド・オブ・ブランシュ。

 神聖術にもない超広範囲の回復術で、威力はヒール並みと低いが半径25メートルほどの球状に効果を及ぼすことのできる、戦場などでは特に有用なスキルだ。

 ……まぁ敵味方無差別に回復してしまうのが難点だが、魔物や魔族への回復術の効き目は極めて薄い。この際仕方ないだろう。


 これからどうするか考えていた私に部下が叫ぶ。


「副団長、この程度なら我々で対処可能です! どこかに魔物を手引きした者がいるはずです! そちらをお願いします!」

「すまない!」


 部下に礼を言い、走りだす。


 魔物を通りすがりに切り捨てつつ探す。


「誰だ、これほどの事態を引き起こした奴は! どこだ、どこにいる!」


 すると、ひときわ混乱の大きな一画を発見した。

 そこは冒険者ギルドなどがあるエリアで、そこでは屈強な5体のオーガがまるで雑草を薙ぎ払う様に次々と市民の命を奪っていた。


 ――そしてそこには


「うヒャあハハハははハハぁ!! どうシタ、そんなモノかァ?! S級冒険者のオレの力、思いシッタカ!!」


 血を流し倒れ伏す冒険者や市民の上で、狂ったように嗤う男の姿。


「レックス――」


 その男は、知っている。

 以前は全く知らなかったが、先日まで担当していたある任務の関係で知った顔だ。『勇者の聖剣』という冒険者パーティーのリーダーで、A級冒険者。実力はA級相当のものはあるようだが、素行が悪くギルドでの評価は低い男だ。外面は悪くないようで、市民の間での評判は悪くなかったが。


 その男が血の海の中で、ざまあみろと嗤っている。


「レックス! 貴様、自分が何をしているか分かっているのか?!」

「何ガダ? オレの力を認めナカッタ奴らノ、似合いノ末路ダぁ!! ぅはハははハ!!」


 問い詰めるが、レックスは何を言っているのかと嗤う。

 げらげらと嗤うその様子は、自分が犯した罪の重さも奪った命の尊さも、なにも理解してはいないように見えた。


 ――この男はもう駄目だ。


 かちゃり、と剣を構える。

 

 レックスの天職はパラディンだったはず。

 私の天職も同じだから、パラディンに何が出来て何が出来ないかはよく分かっている。


「すまないが、お前を生かしておくわけにはいかん。……光よ!!」


 叫ぶと、光属性精霊術の光が構えた剣に収束していく。


飛龍砕黎(スラッシング・サイス)!!」


 剣を横薙ぎに振ると、解き放たれる白い光を帯びた衝撃波。

 しかし迫る来る衝撃波の前で、レックスは嗤う。


「フはハハぁひャはァ!! 近衛騎士団、そんナもノカ!!」


 両手を広げて高笑いするレックスの全身から、黒いもやの様な物が湧きあがる。

 そしてその黒いもやは、ゆらゆらと変質し轟々と燃える紅蓮の炎へとその姿を変えた。


「ふハははハハははハあッ!!」

「炎だとッ?! 精霊術……いや、しかしパラディンは炎属性精霊術は使えないはず――?!」


 何かがおかしいと、私の経験が警鐘を鳴らす。


 そんな私の目の前でレックスの全身を取り囲む炎はレックスの右手へと収束し、彼の身長ほどもある巨大な剣を形作る。


「これガ、オレの手にイレタ新しいチカラだァ! 第四位階フィアルテ・フォルマル剣炎フランメ・シュヴェールト!!」

「バカなッ?!」


 息を呑む私に、振り下ろされる紅蓮の剣。


 それは女神様に授かるスキルという名の祝福とは対極に位置する力。

 忌まわしい邪神の力を借りて行使される、魔族のみが使える力――。


「――魔術、だとッ?!」

お読みいただいて、ありがとうございます。 


 少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。


 つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。


 なんの反応も無いのが一番かなしいので……。



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