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閑話 レックス7

 倒したデス・リーパー・マンティスの死体を冒険者ギルドに持ち込んだオレは、そこでもまた鬱陶しい奴らに面倒をかけられていた。


「A級相当の魔物だぞ?! どうして報酬がこれっぽっちなんだよ!!」

「いえ、ですから……」


 カウンターの机をどんと叩くと、机に置かれた10枚ほどの銀貨が硬い音を立てる。

 するとおろおろと、弁解をするように続けるギルドの受付の女。


「いえ、ですから……規定の依頼料はお支払いしてます。ですが死体が切り刻まれて素材として使う事の出来ない状態になってますし、魔石も粉々でした。買取料はお支払いすることは出来ませんので、こちらの金額に……」

「ゴチャゴチャうるせぇ!!」

「きゃっ?!」


 ふたたび机を叩き、受付の女がびくりと震える。


「いいから黙って金出しゃいいんだよ! 貴様らギルドはオレたち冒険者の仕事のおかげでメシ食えてるんだろうが!」

「いえ、ですが……」


 まだなにか抜かそうとする受付を殴り飛ばしてやろうかと考えた時、カウンターの奥の方から一人の男が姿を現した。


「レックス、またお前か……。どうした、今日は特にヒドイな」

「……ギュスターヴ!」


 現れたのはハゲ頭の巨漢は、ギルドのギルドマスター、ギュスターヴ。

 ギュスターヴは、その禿げた頭をがしがしと掻きながら言う。


「なんと言われようと、規定の料金以上は出せんぞ。それが嫌なら野良の冒険者になるんだな。べつに冒険者ギルドに所属していなくとも、冒険者として食っていくのは不可能じゃないんだ」

「貴様っ……! このオレに向かって……ッ!」


 この馬鹿にしたような態度に、ぎりりと歯を噛みしめる。

 元A級冒険者だから気を遣ってやっていたが……、それももう止めだ。S級になるこのオレに、その口の利き方は何だ?!


「レックス……もういいだろう。その金額でも当面の食費と宿泊費くらいは出せる。次は気を付ければいい」


 ダグラスの野郎も、オレに歯向かうような事を言いやがる。


 ……イライラする。


 ああ、本当にイライラさせやがる!!


「ぐっ……?!」


 きりきりと頭が痛む。


 懐からノワールに貰ったポーション、その3本目を取り出し飲み干す。

 すると刺すように痛かった頭痛はぴたりと止み、晴れやかな気分が広がった。


「ハァ――!」


 今まで感じていたイライラがすっと解消していく。そうだ、オレはなにをそんなにイライラしていたんだろう。このオレが頭を悩ませるような問題じゃなかった。


「聞いているのか、レックス?」


 厳しい目を向けてくるギュスターヴ。

 しかし、今のオレには少しも気にはならない。


 鬱陶しい目障りな存在が目の前にいる。

 であれば、どうするか。

 答えは簡単。


 ずぶり――


「あ?」

「えっ?!」


 抜き放った剣が、ずぶずぶとギュスターヴの腹に突き刺さっていく。


「が……はっ?!」

「ぎゅ、ギュスターヴさんっ?!」

「レ、レックス! な、なにをやっているっ?!」


 ギュスターヴが血を吐き、腹からもばたばたと血が滴り落ちる。

 悲鳴を上げる受付の女と、血相を変えて詰め寄ってくるダグラス。


 ……ああ、鬱陶しいなぁ。……人間はあッ!!


「目障りだアッ!! 光精霊よ、貫きて輝け(サンライト・グロウ)!!」


 叫ぶとオレを中心に球状の光が広がる。


「きゃあああっ?!」

「ぐあああっ!」

「くううううっ?!」


 吹き飛ばされるギュスターヴたち。


「はははははははは!」


 ざまあみろ。


「ははははハはハハハハ……うひぃはハハハハハアァ!!」


 気分がいい。


 とてもとても気分がいい。


貫く輝きは我等の智剣ホーリー・スティングレイ!!」

「ぎゃああああっ?!」

「うわああああっ?! たすけてくれぇッ?!」


 さらに精霊術を放つとギルドの壁に大穴が空き、何人もの人間が吹き飛び、悲鳴を上げ、逃げ惑う。

 逃げ出そうとする人間や何が起きたのか分からず立ち尽くす人間を、手当たり次第に切り捨てていく。


「はハははハハハハぁッ! 逃げまドエ、人間ドモ!!」


 人間どもの絶望の表情は、心が和む。

 人間どもの悲鳴を聞くと、心が躍る。

 人間どもの死体を見ると、心が弾む。


「いやあっ?! ギュスターヴさんっ、ギュスターヴさんっ?!」

「くっ、だれか、神聖術を使えるものはいるかっ?!」


 ははははは、無様だなァ?!


 混沌とするギルドを後にし外に出る。

 しかし、そこでは右を見ても左を見ても人間ばかり。人間人間人間人間……。


 鬱陶しい……。

 ああ、鬱陶しい……。

 しかし、このオレを舐めた奴らが血を流し悲鳴を上げるのを見るのは、とてもとても気分がいいだろう。


 それは素晴らしいアイデアだが、ひとりでこの大量の人間を相手にするのは分が悪い。

 身を隠すように人ごみの中に紛れ込み人をかき分け進んでいると、人ごみの中に見知った顔を見つけた。


「ククク……かなり回って来ているようだな……」

「おオ、ノワール! 来てくレタのか!」


 そこにいたのは、表情が見えないほど深くフードを下ろした姿のノワールだった。


 以前はそんな姿を胡散臭い、薄気味悪いと感じたが今は全くそうは思わない。

 それどころかむしろ、古くから知っている気心の知れた友人のように感じられた。


「オ前が来てくレタなら心強イ! とモに人間どもヲ皆殺しにしヨウ!!」

「ククッ、無様だな……しかし、やはり適性は無いか。理性も失いつつある、これはもう長くはないな……ふむ」


 なにかを考えるような仕草をするノワール。

 こいつは頭が良いからな、やはりノワールは頼りになるな!


「少々前倒しになったが丁度いい、この機会に王都を大混乱に陥れる。……おい、来い」


 ノワールが後ろに向かって声をかけると、背後から5つの人影が進み出る。


 ノワールと同じような顔をすっぽりと覆うフード付きのローブを身に着けていて、オレの1.5倍はあろうかという巨体。人間ではありえないその巨大な身体をローブは隠しきれておらず、ローブやフードの裾からは緑色の肌がちらちらと見え隠れしていた。


 この巨体、そしてゴツゴツとした岩の様な肌。冒険者としてはなんども目にしたことがある。


「……オーガか。ヨクこの王都に入ってコレたナ」


 かつては何度も討伐した魔物だったが、今はまるで親しい隣人のように感じられた。


「ククッ……伝手があってな。教えてもらったのだよ、王都の中と外を繋ぐ隠し通路をな」

「オおっ! サすがノワールだ! 頼りになルナ!」


 やはりノワールは頼りになる! そんな伝手を持っているとは!


「同胞が隠し通路から魔物を突入させる準備をしている。私も今からそこへ合流し、一気に魔物を突入させ王都を混乱に陥れる。レックス、貴様はその先駆けだ。このオーガ達と一緒にこの辺りで暴れまわれ」

「おオ! 望むトコロだ!!」


 人間どもを殺せるのなら大歓迎だ!

 なにかと煩い人間どもヲ黙らせることが出来ル――ああ、楽しみダ!!


 ノワールが雑踏のナカへ姿をケシ、5体のオーガ達がフードをヌイでその屈強ナ姿を現ス。

 彼らはオーガのナカでも上位種のオーガインペリアルで、その中でも選ばレタ精鋭。鋼のヨウな肉体を持チ、研ぎ澄まさレタ戦闘センスを持ツ歴戦の戦士たち。そのオーガインペリアルが、A級冒険者のオレでもめったに見ナイ程の高品質の鎧と大剣で武装してイタ。


「きゃあっ?! オ、オーガッ?!」

「うわあっ?! どうしてこんな所に魔物がっ?!」

「ひゃああああっ?!」


 悲鳴を上げル人間どもをオーガ達が切り伏せてイク。


 人間どもハ、まだまだイル。

 冒険者ダッテいるし騎士団だっテ駆け付ケテ来るダロウ。もっトダ、モッと力がいる。


 ぐい、ト4本目のポーションを飲み干シタ。


 力がみなギルような感覚。


「うヒィはハハハあァ! イひあハハうあはハハハハはハ!!」


 みなギル。


 力がミナぎる!!


 もっト、モットだ!!

お読みいただいて、ありがとうございます。 


 少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。


 つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。


 なんの反応も無いのが一番かなしいので……。



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