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第67話 企み

「はぁ…………」


 何度目だろうため息が漏れる。


 ボクたちはレックスとの決闘を終えてから、王都の広場に移動していた。

 その中心にある噴水に腰かけて休憩していたんだけど、出てくるのはため息ばかり。


「す、すまぬのじゃ。お主が調子が悪い事を失念しておった、妾の責任じゃ……」

「いえ、それを言うならメイドである私の責任です。王族の方々の体調管理はメイドの責務、誰より先に私が気付き申し上げるべきでした……」

「……あいつ、やっぱりキライ。殺しとくべきだった」


 みんなが気を遣っていろいろ言ってくれるけど、なんだか頭に入ってこない。


 実を言うと負けたこと自体には、それほどショックを受けてはない。

 レックスはA級冒険者で、ボクはB級。レックスの方が強くてもさほど不思議はないし、ボクだって強くなった自信はあったけど戦えば必ず勝てると思うほど己惚れてはいない。


 でも天職の祝福が弱まり、今まで使えていたスキルが使えなくなっていた事は思ったよりもショックだった。

 リリアーヌ、エステルさん、ジゼルちゃんと出会っていろいろあって、その中で少しづつ使えるようになっていった様々なスキル。それが使えなくなっていたことは、みんなとの日々が否定されたような気さえしてしまった。


 それに、ボクがスキルが使えなくなったことにショックを受けた、その事実そのものにもショックを受けてしまった。いつからボクは女装までして使えるようになった様々なスキルが、使えて『当たり前』だと思ってしまっていたんだろう? シリルとして活動していた時に比べれば今の状態でもずいぶん強くなっているのに、それじゃ満足出来ないようになっていたんだろうか? 知らないうちに力を手に入れて、いい気になっていたんだろうか?


「はぁ…………」


 うつむき、漏れるため息。

 そんな時、


「あ、シルリアーヌちゃ……殿下」

「え?」


 ボクを呼ぶ声に顔を上げると、そこにいたのは術士の着るローブを身に着けた男の人。以前リリアーヌと出会ったダンジョンで、ドラゴンと戦っていた冒険者パーティーの人だ。神聖術で回復してあげた事もある。


「ジメイさん……」


 名前を呼ぶと、ジメイさんはなんだかばつが悪そうな表情を浮かべた。


「ええと……なんだ、さっきの決闘は残念だった……いや、残念でございました。心中お察し申し上げます」


 きょろきょろと視線をさまよわせながら、慰めの言葉を丁寧な言葉で言いなおすジメイさん。

 そして、軽く頭を下げると踵を返し、その場を立ち去ろうとする。


「待って――」


 気が付けば、立ち上がってジメイさんの右手をつかんでいた。


 ボクは今どんな顔をしているんだろう?

 こちらを振り返ったジメイさんが、ぎょっとした顔をする。


「どうしてみんなボクを避けるの? 王女だから、王族だから?」


 いろんな事があって、ボクの頭は色々な事がぐるぐると回っていた。

 だから思ったことが、そのまま口からすべり出る。


「急に王女って言われて、ボクだって混乱してるんだよ? それなのにみんなボクを避けるようにする。今までみんな冒険者として普通に接してくれてたのに、急になんで? どうして?」


 話していると、なんだか泣きたくなってきた。いや、もうすでに泣いてるかもしれない。


「えええっ?! シ、シルリアーヌ殿下あッ?!」

「ボクは町のみんなに今まで通りふつうに接して欲しいだけなのに、みんなボクが王女ってだけでよそよそしくなっちゃって……」


 自分でも何を言っているのかよく分からないまま言葉を続ける。

 ジメイさんはボクに右手を掴まれたまま、左手をわたわたと動かす。


「いや、いやいやいや! シルリアーヌ殿下、あなた王族ですからね? オレたちゃただの冒険者だし……恐れ多くてまともに口なんてきける訳ないじゃないですか!」

「でも、ボクは平民育ちだから王女としてどう振舞っていいのかなんて分からない。今まで仲良くしてた人達に王女だなんて言われて仲間外れにされると……さみしいよ……」


 言うとジメイさんは、なぜか真っ赤な顔で何か言いたげに口をぱくぱくと動かしたあと、「はぁ~~~~っ」と長い長いため息をついた。

 そして左手で頭をがしがしと掻く。


「分かりました、分かりましたよ! そんな顔で頼まれちゃ、嫌だなんて言える訳ないじゃねぇか……」

「えっ?! じゃあ!」


 以前の口調に戻ったジメイさんの言葉に、ぱあっと笑顔が浮かぶ。


「しゃあねぇ。王女殿下じゃなくて、シルリアーヌちゃんとして接することにするよ」

「やったぁ! うれしいよ、ありがとう!」


 やったね、これで以前の生活を一歩取り戻せたよ! 最近ちょっと嫌なことが多かったけど、これを機会にみんな仲良くしてくれて、元の生活が帰ってきたらいいなぁ!


 つかんだままのジメイさんの右手を両手で握りしめ、ぶんぶんと振る。

 ジメイさんは「かなわねぇなぁ……」と左手で頭をかきながら、右手で握り返してくれた。


 そんな様子を黙って見つめていたリリアーヌが、ぽつりと呟いた。


「シルリアーヌよ……妾はお主の将来が心配じゃ……」

「ほんとだよ。あんた達も、この危なっかしい王女サマをちゃんと捕まえといてくれよ?」


 リリアーヌの言葉にジメイさんが続け、顔を見合わせたふたりは「はぁ」とため息をついた。


 なんなの?



◇◇◇◇◇



 それからジメイさんとちょっと世間話をしていたけど、話は自然とさっきの決闘の話に戻っていく。


「さっきの決闘、残念だったな」

「うむ、妾も正直シルリアーヌが負けるとは思っておらなんだ。勝負を煽った妾も責任を感じておるのじゃ」


 ジメイさんの言葉に続き、リリアーヌが申し訳なさそうに言う。


「まぁ、勝負は時の運、とも言うしね。仕方ないよ、レックスはA級冒険者だもん」


 ボクは勝敗にこだわりは無かったからそう言ったけど、エステルさんは首を振った。


「確かにどれほどの強者であっても慢心が敗北を招く、それが勝負の世界です。しかし先ほどの決闘の内容は、それだけでは済ませられない物でした。シルリアーヌ様の能力は明らかに弱体化していました、これは由々しき事態です」


 その言葉に、男性のジメイさんを警戒してボクの陰に隠れているジゼルちゃんも、こくこくと頷く。

 まぁ、たしかにそれは気になるかも。


 うーん、と考え込むボクたちを見たジメイさんが、「あ~~……」と頭をがしがしと掻く。


「もしかして、知らないのか?」

「なにを?」


 ジメイさんの言葉に首を傾げる。


「いや、うーん、なんていうか……。ほら、あれだ、決闘場でレックスも言っていただろ?」

「うーん、なんだっけ……?」


 なんだか困ったような様子で、言葉を濁すジメイさん。

 なにか言っていたかなぁ?


「……あの男、お姉さまの事を売女なんて言ったの。死ぬべきなの」

「あ、そうだね。そんなこと言ってたね」


 ジゼルちゃんの言葉で思い出した。確かに、売女って散々言われた気がする。

 「人に死ねとか言っちゃダメだよ」と、ジゼルちゃんの頭を撫でてあげる。


「いや、そうじゃない。えー、ほら、言ってたろ? 娼館で体を売っていたとかなんとか……」

「あ、そうえいば」


 言い辛そうなジメイさん言葉に、ぽんと手を叩く。


 確かに言われた。

 娼館で身体を売って稼いだ汚い金で地位を買ったような売女、って。男のボクが娼館で働けるわけないし、スキルを使えなくなった事とかいろいろあって忘れてた。


「そういえば言われたね。どっからそんな話が出て来たんだろう、って思ってたけど」

「……お姉さまは聖女、女神様なの。娼館とか売女とか、あたまオカシイの」

「うむ? 娼館とはなんじゃ?」

「……リリアーヌ様は知る必要のない、下々の働く場所です」


 ジゼルちゃんは不満を訴えているけど、リリアーヌは娼館の事は知らないみたいだ。まぁ、王女殿下とは関係のない場所だけど。


 そんな事を考えていたボクを見て、ジメイさんが言う。


「娼館の件、レックスの根拠のないデタラメだと思ってるか?」

「そりゃ、まぁ……ボクそんな所で働いたことないし。ていうか、行ったこともないし」


 なにを言っているのだろうか、そう思ったボクにジメイさんは真剣な表情で告げた。


「だが、実際に町では噂になっている。そして、それがおそらくシルリアーヌちゃんが弱体化した理由だ」

お読みいただいて、ありがとうございます。 


 少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。


 つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。


 なんの反応も無いのが一番かなしいので……。



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