第66話 決闘2
ボクたちはギルドの裏の決闘場に移動していた。
とはいっても決闘場、という名前ほど立派な場所じゃない。冒険者たちが訓練なんかに使っているギルドの裏庭の隅にロープを張って、その外側を精霊術アースウォールで囲っただけの簡易的な場所だ。簡易的ではあるけど冒険者間の決闘には精霊術なんかも使われるから、広さだけは結構ある。正方形の形で、一辺がだいたい20メートルくらいかな?
ロープの中に決闘する人が入り、ロープと岩の壁の間に見学者が立つ構造だ。
その決闘場に意気揚々と入っていくレックス。
ぞろぞろと入ってくる見学者の中にリリアーヌ達の顔を見つけ軽く手を振りながら、ボクもそれに続いた。
レックスの装備はいつも身に着けているプレートメイルに、騎士系統の天職をもつ人のオーソドックスなスタイルである両手に剣と盾。レックスは性格的に盾を使うのはあんまり好きじゃないみたいだけど、それでも盾だって平均以上に使える。
そして一方ボクの武器は、腰の聖遺物、疾風たるファフニール。
ボクとレックスが決闘場の中心に立ったあと、ギルドを代表して受付のコレットさんが入って来た。以前はギルドの人の立ち合いとか無かったんだけど、死人が出るほどの死闘に発展したことがありギルド職員の立ち合いが必要になったらしい。
「では、今からレックスさんとシルリアーヌ殿下の決闘を始めます。準備はいいですか?」
「ああ、当然だ。そこの売女にA級冒険者の実力、思い知らせてやる」
「ボクも大丈夫だよ。コレットさんも手間取らせてゴメンね」
こっちに向かって憎悪を燃やすレックスから視線を逸らし、コレットさんにお礼を言っておく。「恐縮です、王女殿下」と丁寧に頭を下げるコレットさんの姿は、やっぱり少し胸が苦しい。
「では、始めてください」
「喰らえ、パラディンの力! 貫く輝きは我等の智剣!!」
エステルさんの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、レックスの精霊術が放たれる。
パラディンなど一部の天職だけが使える光属性精霊術、その上位術ホーリー・スティングレイ。その言葉とともにレックスの手が目がくらむような光を放ち、迸る光の奔流は収束し指向性を持ちこちらに解き放たれる。
まるで王都の大神殿の柱のような巨大な光の奔流を迎撃するには、生半可な術ではダメだ。
でもボクはどうしてか上位上段の精霊術が使えなくなっている。原因は分からないけど、とりあえず今はこの前は使えた上位下段の精霊術でいくしかない!
「焼尽せよ炎の輪舞!!」
だけど――
「っ?! なんでっ?!」
起こらない、なにも。
「シルリアーヌ?!」「お姉さま?!」とリリアーヌやジゼルちゃんの声が聞こえる。
だけど、ボクはそれどころじゃなかった。
上位下段の精霊術まで使えなくなってる、どうしてっ?!
混乱する頭で迫る光の奔流を躱そうと身をよじるけど、間に合わず術の余波で吹き飛ばされる。
「うわあッ?!」
「はッ! ははははははッ!」
吹き飛ばされ転がるボクを見たレックスは、哄笑を上げ剣を抜き放つ。
「いい様だな、売女! 娼館で身体を売って稼いだ汚い金で地位を買ったような売女には、地べたを這いつくばるのがお似合いだ!」
「な、なんの話なの、さっきから?!」
混乱する頭で叫ぶ。
さっきから売女売女、ってなんの事かとは思っていた。しかも今度はし、娼館で身体を売った? ボクが? 男なのに? そんな訳ないじゃないか!
慌てて身を起こし腰のファフニールを抜き放つ。
だけど周囲で見学していた冒険者たちは、ざわざわとし始めていた。
「シルリアーヌ殿下が娼館で? あの噂は本当だったのか?」
「そりゃ嘘だろ。そんな訳ねぇだろ」
「いや、でも下町では話題になってるぜ。娼館に王女殿下がいるってよ」
「行こうかとも思ったけどよ、いま値段高騰してて諦めたわ」
「え……じゃあもしかして本当なのか?」
喧騒が喧騒を呼び、交わされる声はどんどん大きくなっていく。
リリアーヌが「何を言っておるのじゃ、お主ら! そんな訳ないじゃろ!」と声を上げるけど、その声は周囲の喧騒にかき消される。
「はははァッ! その通りだ、この売女は金と色仕掛けで王女の地位を手に入れた! 大勢の男どもを咥えこんで手に入れた、汚い金でなあッ!!」
「ち、ちがうっ?! そんな訳ないじゃない!」
男のボクが娼館でなんて働ける訳ないじゃないか!
振り下ろされたレックスの剣を、ファフニールで受ける。
「……ぐっ!」
だけど力も落ちているのか、腕に伝わるのは想像以上の衝撃。
「貴様のような売女が王位継承者? 王女殿下? 次代の勇者? オレは認めんぞ、勇者となるのはこのオレだ! 八連殺陣!!」
「くぅっ……四連断 !」
放たれたレックスの上位剣技を受け止めるため、下位剣技のオービット・クアッドを放つ。
だけど、上位剣技の八連撃を下位剣技の四連撃で受け止められるはずがない。
レックスの剣がボクの二の腕をかすり、血が飛び散る。
「ははははははっ! やはりそんな物か! みたかパラディンの力、オレの力!!」
「ううっ……」
さらに激しさを増すレックスの剣に、ボクの身体に切り傷が刻まれていく。
どうしたらいい?
どうしてか上位のスキルが使えなくなってるから、このままだと押し負けちゃう。結界で防ぐ? いや、それよりいったん後退して回復かける?
混乱した頭にいろいろな考えが、ぐるぐると回っては消える。
「逃がすかァッ!!」
ボクがいちど体勢を立て直そうと後退すると、レックスはそれを追いかけるように踏み込み剣を振り下ろす。
「くうっ……!」
力比べで敵わないならっ――!
ファフニールを両手持ちに切り替え、構えを左足を踏み込んだ半身の構えに。
そしてファフニールでレックスの剣を力に逆らわず受け流す。
「うおっ?!」
体勢を崩し、つんのめったレックスの懐へ潜り込む。
そして体勢を崩したレックスに、手をかざし唱える。
「ごめんっ、土精霊よ集い貫け!」
「舐めるなッ! 光精霊よ、集いて護れ!」
ボクの手から放たれた岩石で出来た槍が、レックスの光り輝く盾に防がれる。光属性精霊術?!
「ははははッ! みたか、パラディンの力! 貫く輝きは我等の智剣!!」
「ううううっ、咎め給え神の審判!」
レックスから放たれた光の奔流を、白く輝く光線で迎撃。
だけどホーリー・スティングレイは上位の光属性精霊術。ホーリーは神聖術下位上段だし、前に使った時ほどの威力が出ない。ボクの放ったホーリーは掻き消され、襲い来る光の奔流の衝撃で吹き飛ばされる。
「うわああああああっ?!」
天職の祝福の力が弱まっている、スキルをぶつけ合うたびに押し負ける!
背中から地面に叩きつけられ、衝撃がボクを襲う。
いけない、早く起きないと! そう思って身を起こそうとしたボクの首元に、レックスの剣が突き付けられた。
「ううっ……」
「ははははァッ、しょせん売女、その程度か! これでオレが次代の勇者だ!!」
決闘場に、レックスの哄笑が響きわたった。
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