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閑話 レックス5

 オレは孤児院のガキどもの相手という苦行から解放され、宿へと帰っていた。


 王都に流れる川の上にかけられた橋の上を歩く。この川は王都の中心部と端の方の貧民街の間に流れている、王都の市民たちと貧乏人どもを隔てる境界だと言っていい。


 その橋の上から、孤児院の女のガキにもらった雑草の束を投げ捨てる。


「ちっ、手が汚れちまったじゃねぇか」


 雑草に付着していた土が手に付いていた事に気付き、ズボンで払う。


 しかし、これでオレのパラディンの天職は多少強くなったはずだ。……まぁ、実感できるほどじゃないが、これを積み重ねることでオレの天職はもっと強くなる。A級冒険者のオレは、努力も惜しまないんだよ。


 そんな事を考えていると


「『勇者の聖剣』のレックス様ですか?」


 後ろから声がかかる。


「あん?」


 振り返ると、そこにいたのは妙な男だった。

 身体全体をすっぽり覆う大きなローブを身に着け、顔が見えないようにフードを目深に下した怪しい風体。男……でいいのか? 背丈はオレと変わらないくらいだし、かけられた声は確かに男の声だった。


「……怪しいヤツだな。誰だ、お前は」

「ノワール、とお呼びください。あなたの……『勇者の聖剣』のファンですよ」


 男は、そう言うとクククと低く笑う。


 ちっ、なんだコイツは。

 ファンだとか言うが、どうもそうは見えない。伝わってくるのは、こちらを見下すような雰囲気。ノワール、という偽名くさい名前といい、まともに取り合っていい手合いだとは思えない。


「ちっ、男のファンには興味ないんだ。他をあたってくれ」


 踵を返した立ち去ろうとしたが


「シルリアーヌとかいう女に陥れられた、あなたを助けたいのですよ、私は」


 男からかけられた声に、再び振り返る。


「なに……? 今なんと言った?」

「ククク、言葉の通りですよ。私はね、シルリアーヌなどという売女の工作で、あなたという希代の冒険者がくすぶっているのを見るのが心苦しいのですよ。ですから、少しばかり協力して差し上げようかと」


 シルリアーヌの……工作?


「そうですよ、聡明なあなたなら気付いているでしょう。平民だったはずのシルリアーヌが、いつの間にか王女などといって持ちあげられている事の不可解さに。あれは、シルリアーヌが女の武器を使って貴族や王族を篭絡し、自分を認めさせたのです」


 それは、オレが考えていた事と一致していた。


「やはり……、やはりそうだったのか」


 オレが唸ると、男は「そうですとも」と頷く。


「しかもあの売女はそれだけでは飽き足らず、あなたの悪い噂をばらまきました。『勇者の聖剣』レックスは大したことない、自分の方が強いのだと。王族の権力を使ってばらまかれた噂は瞬く間に広がり、定着しました。お聞きするのは心苦しいですが、もしやあなたのパラディンの天職、弱まってきているのでは?」

「なんっ……だと?!」


 オレの身体に衝撃が走った。

 確かにここ最近はどうも調子が悪く、依頼でも失敗することが多かった。もしやと思っていたが、やはりそれもシルリアーヌのせいだったのか?


「確かに……ここ最近どうも調子が出ないと思っていたところだ……」

「おお、やはりそうですか! それは間違いなくシルリアーヌの仕業でしょう。正面から立ち向かってはあなたの様な英雄には敵わないと、卑劣な工作で追い落とそうとしているのです」

「そうか……そうだったのか……」


 全てが繋がった。

 ぎりりと歯を食いしばる。


 あの売女、勇者に最も近いと言われたオレのパラディンの力を妬んで、卑劣な手段で陥れようとしているのか。この最近の依頼の失敗は、シルリアーヌのせいだったのか……。

 そこで、オレの鋭敏な脳裏にひとつの考えが浮かぶ。


「もしかして、ミランダやオスニエルもシルリアーヌに陥れられ、殺されたのか?」


 そうだ、ミランダやオスニエルもシルリアーヌに卑劣な手段で殺されたに違いない。

 あいつらはA級冒険者のオレに比べるとまだまだだが、それなりに仕える奴らだった。それがいなくなれば『勇者の聖剣』の戦力は低下する。それが狙いに違いない。


 オレの考えを伝えると、男は驚いたのか少しの間沈黙したあと、頷いたのかフードが揺れる。


「卑劣な手段を使いやがって……」

「クククッ、そうですとも」


 オレが唸るように言うと、同意する男。


「シルリアーヌの天職は、おそらく『プリンセス』。剣術・精霊術・神聖術を全て扱える天職は多くはありませんからな、おそらく間違いないかと。あの美貌で王族に取り入り、王族だと認めさせた。名実ともに王女となったシルリアーヌの天職の祝福は、かつてない程に強化されているかと」

「ちっ、プリンセス……上位職か。生意気な」


 確かに、最上位職以外で剣術・精霊術・神聖術を使えるのはプリンセス・プリンスの天職くらいか。

 オレのパラディンの天職も上位職で万能型の天職だが、地水火風の普通の精霊術は使えない。しかし、選ばれた者しか使えない光属性の精霊術が使える。上位職の中でもトップクラスの、選ばれたオレに相応しい天職、それがパラディンなんだよ。


「しかしですな、それならば打つ手もあるというものです」

「あぁ?」


 イライラとした気持ちを持て余していると、男の声で我に返る。


「あちらが卑怯な手段を使って来るのなら、それをそのまま返してやればいいのです。……すこし耳を貸していただけますか?」

「なんだ、もったいぶりやがって……」


 舌打ちをして、男に耳を近づける。


 そして耳にした事は、オレが考えもしなかったアイデアだった。シルリアーヌに意趣返しが出来て、オレも楽しめて、しかも実利もある。やらない理由が思いつかない、素晴らしく冴えた方法。


「ほほぅ……なかなか頭いいな、オマエ」

「クククッ……お褒め頂き光栄ですよ」


 オレは素直に褒めてやったのに、薄気味悪く笑う男。


 まぁいい。

 みてろよ、シルリアーヌ。このオレに舐めた真似をしてタダで済むと思うなよ。

お読みいただいて、ありがとうございます。 


 少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。


 つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。


 なんの反応も無いのが一番かなしいので……。



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