第58話 話題の冒険者
翼を生やし鋭い嘴を持つグリフォンが、十体以上も頭上を旋回している。
「来たよっ!」
声を上げると、リリアーヌ、エステルさん、ジゼルちゃんが頷いて答える。
「まかせておくのじゃ! 妾の敵ではないわ!」
「リリアーヌ様、またそのような大きなことを……。大丈夫です、私がフォローします」
「分かったの! わたしも、がんばってがんばってお姉さまの役に立つの!」
ボクたちは今、ギルドの依頼でグリフォンの群れの駆除に来ていた。
近づく人間を許すまいと、襲い来る何体ものグリフォン。Bランクの魔物で、単体ならともかく群れとなるとパーティー構成によってはA級パーティーでも苦戦する手ごわい相手だ。
「食らうのじゃっ! 火精霊よ集え!」
リリアーヌが振り上げるのは、聖遺物、創炎たるリンドヴルム。
リンドヴルムの先端の宝珠が光を放ち、10個ほどの火球が放たれる。
「ほれ、どんどんいくのじゃ!」
リリアーヌがリンドヴルムを右に左に振ると、次々ファイアボールが現れて飛んでいく。
しかし、怒ったようにギャアギャアと声をあげながら、ひらりひらりと躱していくグリフォン。
翼をもつ魔物が手ごわい理由がこれなんだよね。
空を飛んでいるから剣はもちろん届かないし、術を放ったとしても距離が離れているから容易に躱されてしまう。地上で面と向かって戦えば大したことなくても、空を飛べるというだけで危険度は数段底上げされる。
だけどね、何の考えも無く来たわけじゃないんだよ。
グリフォンはひらひらと火球を避けていくけど、創炎たるリンドヴルムを使って放たれるファイアボールは途切れることはない。ファイアボールを避けて移動していくうちに、次第に一か所に誘導されていくグリフォンたち。
そう、リリアーヌにはグリフォンを中央に誘導するように、ファイアボールを外側から中心部に向かって包囲網を狭めていくように撃ってもらっていた。
「そろそろいいかな?」
両手を前にかざし、唱える。
「|炎の大王その滅却せし業炎!!!」
上位上段の炎系最上位精霊術、レイ・バーン・ネメシス。
その名を唱えた瞬間、上空のグリフォンを中心に爆発的に温度が上昇する。それはグリフォンを巻き込んで次々と誘爆し、連鎖的に爆発と轟炎が巻き起こり、見渡す限りの青空は一瞬でまばゆい光とともに白い炎に包まれた。
「グキャアアアアアッ……」
中心部にいたグリフォンたちは消し飛んだけど、何体かは炎に包まれ落ちてくる。
ほとんどは死んでいるけど、何体かはまた生きているみたいだ。いちど地に落ちた後、起き上がろうとしている個体もある。
「行くよっ、エステルさん、ジゼルちゃん!」
仲間に声をかけながら、腰の聖遺物、疾風たるファフニールを抜き放つ。
「大丈夫です、行けます」
「さすがお姉さま、すっごい術だったの! わたしもがんばるの!」
エステルさんが手をかけた腰のカタナがかちりと音を立てた。
そしてジゼルちゃんはバーサーカーの天職を発動したみたいで、白い光に包まれる。ぶおんと片手でウォーハンマーを振り上げるジゼルちゃん。
三人で一斉に走り出す。
まだ息のあるのは5体ほどのグリフォン。
虫の息の個体もあれば、満身創痍ながら翼を広げ向かって来る個体もある。
「飛龍砕黎!」
走り込みながら、ファフニールを一閃。
衝撃波が奔り、こちらに向かって来ようとしていた二体のグリフォンがまっぷたつになる。
「九十九杠葉流――朧百夜」
エステルさんが呟くように言うと、きらりと奔る剣閃。
かちり、とカタナが再び鞘に納められたと同時に、反対方向からこちらに向かって来ようとしてたグリフォンの首が落ちる。
「オリャアァッ!! 死ねっ! 死ねやアッ!」
ジゼルちゃんが、倒れているグリフォンにウォーハンマーを振り下ろしていく。
ドカン、グチャッ、という音が響き、虫の息で荒い呼吸をしていたグリフォンたちが、次々と無惨な肉塊に変えられていく。
ジゼルちゃんの首の黒い首輪に視線を向ける。
ジゼルちゃんがミランダに付けられていた、人を自由に操る非人道的な魔導具『羈束の円環』。それを改良して、付けた人が洗脳や混乱から解放される『覚醒の円環』としてジゼルちゃんにプレゼントしたのはボクだ。
でもなかなか完璧にはいかないみたいで、ジゼルちゃんはバーサーカーの天職を使うと今みたいにちょっと……ちょっとだけ荒っぽくなってしまう。あれでも十分改善されたし上出来だってリリアーヌなんかは言うけど、ボクはもっと改良してあげたい。……今の所、目途は立ってないけど。
「ふう、これで片付きましたね。あとは魔石を取ってギルドに報告しに戻りましょう」
エステルさんが周囲を見回して、ふぅと息を吐く。
ボクがちょっと考え事をしている間に、動くグリフォンはいなくなっていた。
「うははは、あのグリフォンがこんなにあっさりと制圧されるとはの! さすが妾! さすが妾の妹じゃ!!」
リリアーヌが、腰に手をやり高笑いを上げる。
ぽそりと「ボクは妹じゃないけどね」と小さな声で言うけど、その声は誰の耳にも入らない。
だけど、ジゼルちゃんはジトっとした目で堂々と口にした。
「……偽王女、また言ってるの。シルリアーヌお姉さまが『姉』なの。第七王女様なの」
「なあっ?! ジゼル、お主また真なる王女たる妾にむかって偽王女などと! ぽっと出の王女のシルリアーヌより、妾の方が『姉』に相応しいに決まっておるじゃろうが?!」
「……王女様はそんな口の利き方はしないの。優しくて可憐で礼儀正しいお姉さまこそが、『姉』に相応しいの」
びっくりした顔で反射的に言い返すリリアーヌと、ぼそぼそとした声だけどしっかりと反論するジゼルちゃん。
こんなやりとりは、この所なんども繰り返されている。とはいえ、リリアーヌもジゼルちゃんも優しい子だ。じゃれあいみたいな物で、お互いの事を嫌ったりはしてないしもちろん根に持ったりもしない。
そんな事より、こんなドレスなんか着ているけど本当は男のボクとしては、居場所がなくて小さくなってしまう。
男だから姉でも妹でもないし、可愛いとかいわれてもその……困る。ベルトランみたいな漢の中の漢になる、というボクの夢はどこにいってしまうんだろう?
そこで、ぱんぱんと手を叩く音がする。
「はいはい、じゃれあうのもそれくらいにしてください。シルリアーヌ様が照れて縮んでしまいますよ」
「むぅ、そうじゃの。早く魔石を取って帰るかの」
「かわいい! 照れて真っ赤になったお姉さまもかわいい、かわいいの!」
うう……かわいいはもういいよ。
そんな感情をぶんぶんと首をふって振り払うと、グリフォンの魔石を取り出す作業を開始した。
これがボクの今のパーティー、『双星の菫青石』だ。
おひさしぶりです、少しづつ連載再会します。
この第3章までで第一部となる予定ですので、第一部は必ず完結させるつもりです。
お付き合いくだされば嬉しいです。




