表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/140

第57話 オークキング3

 真剣な表情のエステルさんを見返す。


 こちらを見つめる黒い瞳は、ボクと視線を合わせている短い間にもリリアーヌの方をちらちらと窺っている。エステルさんにとって一番大切なのはいつだって主であるリリアーヌで、一刻も早く片を付けて主の所へと駆け付けたい、という思いがひしひしと伝わってくるようだった。


 そんな優しい瞳にボクも頷き返す。

 エステルさんが何をやろうとしているのかは分からないけど、彼女は信頼に足る人だ。技に集中するためか、カタナを鞘に戻したエステルさんに声をかけてオークキングの方へと視線を戻す。


「分かった。なんとか持ちこたえてみせるよ」


 そう言ったボクの目の前で、ジゼルちゃんがオークキングの棍棒に押し負けて体勢を崩した。


「っ! ジゼルちゃん!!」


 疾風たるファフニールを両手で構えて駆けだす。

 両手に込めるのは、上位下段の精霊術ファイアストーム。炎を剣に纏わせるようにイメージしながら叫ぶ。


「精霊佩帯(はいたい)――炎 王 纏アルム・アーム・エクスプロジオン!」


 剣から噴き出すように出現する炎。

 

飛龍砕黎(スラッシング・サイス)!」


 掛け声とともにファフニールを水平に振ると、スキルによる衝撃波が放たれる。

 精霊術を纏わせたことで強化されたそれは、オークキングの分厚い筋肉を深々と切り裂いた。


「ブギャアアアアッ?!」


 悲鳴を上げるオークキング。

 その間に後ろに下がり、ジゼルちゃんと合流する。


「ジゼルちゃん、大丈夫?」

「はいなの! ありがとうなの、やっぱりお姉さまはかっこいいの!」


 ぱあっと明るい笑顔になったジゼルちゃんを見て、ほっと胸をなでおろす。ちょっと無理をしてそうだったから心配だったんだ。でも、もうすこし無理をしてもらわないといけないのが、申し訳ないなって感じる。


「お姉さまの顔を見たから、もうすこし頑張れるの!」


 ふんす、と気合を入れるジゼルちゃんを見て、苦笑が漏れる。

 その様子を見て、ボクはジゼルちゃんの事をどこか『奴隷にされたかわいそうな少女』という目で見ていたという事に気付かされた。でも、それは違う。ジゼルちゃんは立派な冒険者で、ボクたちの素晴らしい仲間だ。


 だから、ジゼルちゃんにこう声をかける。


「ありがとうジゼルちゃん。もう少しボクに力を貸して」

「もちろんなの!」


 ぱあっと表情を輝かせるジゼルちゃんと一緒に走りだす。


「お姉さまのためなら、なんだってするの! オラアアアアッ!!」

「ブファアアアアアアアッ!!」


 ふたたび激突する、ジゼルちゃんのウォーハンマーとオークキングの棍棒。


 耳をつんざく様な音の中、振り回される質量をかいくぐりオークキングに切りつける。

 ファイアストームによって超高温に熱せられたファフニールは、オークキングをやすやすと切り裂く。しかもその超高温によって切り裂かれた場所が焼け、じゅうっという音がして肉が焼けるような匂いが辺りに漂う。


「プギャアッ?!」


 たまらず悲鳴を上げるオークキング。

 

「オウラアッ!!」


 体勢のくずれたオークキングを、ジゼルちゃんのウォーハンマーが吹き飛ばす。


「ブフウッ!! ブフウウウウウウッ!!」


 だけどオークキングの目はボクたちへの怒りでぎらぎらと輝く。

 巨体の身体はだらだらと血を流しながらも、止まることは無い。


「身体が大きすぎるんだ……! 切り付けても内臓まで届かない……!」


 そう、オークキングの身体は3メートルはあるうえ、その身体は分厚い筋肉と脂肪で覆われている。

 切り付けても、その刃はなかなか内臓まで届かない。


「ブヒイイイイイッ!!」


 オークキングが怒りに任せ棍棒を振り回す。

 それはまさに暴風。興奮したオークキングの振り回す棍棒は、予測できない軌道で襲い掛かってくるので対応が難しい。


「だったら……」


 ジゼルちゃんといっしょに少しだけ後退すると、オークキングに左手を向ける。


焼尽せよ炎の輪舞(ファイアストーム)!」


 オークキングの身体が、炎の竜巻に包まれる。

 ぶすぶすと肉が焦げる音と、オークキングの悲鳴が響く。


 だけど、止まらない。


 目を血走らせ、涎をだらだらと垂らすオークキングが炎をかき分け、棍棒を振り上げて迫る。


「ひうっ」


 ジゼルちゃんがその只ならぬ様子に悲鳴を漏らす。


 これが、キング種。これが、オークキング。


 どうすれば、これを止められるんだろう。

 そう思った時、その場に涼やかな声が響く。


「九十九杠葉流、奥義――」


 不思議とよく響いたその声に視線が吸い寄せられる。

 そこにあったのは姿勢を低くし、鞘に入ったままのカタナに手を添えたエステルさんの姿。


「――紫電百頼(しでんひゃくらい)天虎(てんこ)


 呟くと、カタナに手を添えたままのエステルさんが急加速する。静止から一瞬でトップスピードに乗る急加速にボクたちの眼は追い付かず、エステルさんの姿を見失う。


 それはまさに神速。


 次の瞬間にはオークキングの懐に潜り込んでいたエステルさんの手の中で、カタナの柄がかちり、と音を立てる。


 白刃が煌めき、一陣の風が吹く。


 あ、と思った瞬間、エステルさんはオークキングの背後に移動していた。

 ちん、と音を立てカタナが鞘に仕舞われたその瞬間、オークキングのお腹がぱっくりと裂け、大量の血が噴き出す。


「ブヒイイイイイイイッ?!」


 噴き出す鮮血の中、オークキングの身体がぐらりと傾く。


 それを確認し、飛び出すボクとジゼルちゃん。

 オークキングは棍棒を振るい対応しようとするが、その動作はさっきまでの嵐の様な攻撃と比べると、ひどく緩やかだった。


「やらせないのっ!」


 ジゼルちゃんのウォーハンマーが、オークキングの棍棒を吹き飛ばす。


 今しかないっ!


 オークキングが姿勢を崩したせいで、さっきまでは遥か頭上に会ったオークキングの顔は手の届く所まで下りてきていた。

 ファフニールを構え、飛び掛かる。


 みんなが作ったこのチャンス、逃すわけにはいかないっ!


飛龍砕黎(スラッシング・サイス)!」


 ファフニールを水平に振るうと、ファイアストームの威力を纏った衝撃波が放たれる。


「ブギイアアッ?!」


 衝撃波がオークキングの頭を切り落とした。

 オークキングの首がごろりと転がり、その巨体が地響きのような音をたてて崩れ落ちる。


「……やった?」

「なんとか倒せましたね」

「やったの、やったの! お姉さま、すごいのすごいの!」


 ほっと息を吐き表情を緩めるエステルさんと、ぴょんぴょんと跳ね回るジゼルちゃん。


 頑張ったジゼルちゃんの頭を撫でてあげていると、オークキングを倒すことが出来たんだという実感がわいてくる。

 オークだけど、さすがキング種。とんでもない強敵だった。ジゼルちゃんが仲間に加わって、エステルさんが新しい装備で天職の力を十全に使えるようになっていたから勝てた。もしそうでなかったら、危なかったかもしれない。


 よかった。

 本当によかった。


 そう思い身体の力をぬいた時


「オークキングを倒したのならこっちを助けるのじゃあっ! もう持たぬのじゃっ!」


 リリアーヌの切羽詰まった声が聞こえてきた。


 そうだ、リリアーヌ!


 周囲を見回すと、オーク達は大混乱だった。

 キングが倒された事によって逃げ出す者、ただ右往左往する者、怒り向かって来る者。オーク達の反応は様々だったけど、なにせ数が多い事でその場は大混乱に陥っていた。


 

 今はリリアーヌがリンドヴルムを振り回し倒して行っているけど、このままでは追いつかない。

 混乱して走り回るオーク達に流され、押しつぶされてしまう。


「ご、ごめん! 今行くよ、リリアーヌ!」

「申し訳ありませんっ! リリアーヌ様、今行きます!」

「お、お姉さま待って欲しいの!」


 エステルさんとジゼルちゃんと走りだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ