第39話 オーク討伐4
「ほれ、火精霊よ集えじゃー-っ!」
リリアーヌが聖遺物、創炎たるリンドヴルムを振り上げ、いくつものファイアボールがオークの群れに降り注ぐ。
オークが大量発生している森が目の前に見える街道に、ボクたちはいた。わらわらと森から街道へ湧き出してくるオークたちを、リリアーヌがリンドヴルムの力を使ったファイアボールで倒してゆく。
そしてそんなリリアーヌの背後で、カタナの柄に手をかけたまま周囲を見回す警戒態勢のエステルさん。
ふたりはもう戦闘態勢に入っているというのに、ボクの頭の中にはさっきのミランダからの手紙とジゼルちゃんのことがぐるぐると渦巻いていた。
「うう……こんな事じゃダメだよ」
ぱんぱん、と頬を叩いて気合を入れる。
だけど、そんな事ですぱっと頭が切り替わったりする訳ない。さぁ頑張るぞ、とシャキッと背筋を伸ばすけど、すぐにミランダとジゼルちゃんの事が脳裏をよぎり、がっくりと肩を落としてしまう。
「うう……ボクはだめなやつだ……」
ボクが肩を落としてめそめそとしていると、そんなボクを心配してエステルさんが声をかけてくれる。
「シルリアーヌ様、そう心配なさらないで下さい。私も帰ったら同僚のメイドや執事たちに相談してみます。王宮の使用人ともなれば位の高い貴族家出身の方も多いですし、なにか良い案があるかもしれません」
「うう……ありがとう、エステルさん」
リリアーヌもオークを相手にしながら、こちらを気遣ってくれる。
「そうじゃよ。妾もお父様やお兄様……はお忙しいから無理かもしれぬが、執事長のじいやに頼んでみるのじゃ。じいやはお父様とも仲が良いし、力になってくれるはずじゃ」
「ありがとう、リリアーヌ」
リリアーヌもエステルさんも、こんなに気を遣ってくれて力になってくれる。ボクがこんなんじゃダメだ。
もういちど、頬をぱんと叩く。
今度は頭がすっきりとし、今やるべき事へと意識が切り替わる。
「はあっ!」
「ブヒイッ?!」
腰から疾風たるファフニールを抜き放ち、背後から近づいてきていたオークの首を斬りつける。
「調子が戻ってきたではないか!」
「その調子です。一気に殲滅しましょう」
「ごめんね、もう大丈夫だよ!」
声をかけてくれるリリアーヌとエステルさんに頷き返す。
まわりを見回すと、リリアーヌのファイアボールがつぎつぎとオークたちを火だるまに変えているが、オークの数があまりにも多い。創炎たるリンドヴルムの力でファイアボールを精霊力の消費無しに放てるとはいえ、同時に放てる数はひとつかふたつ。それを上回る勢いでオークが現れれば飽和してしまう。
降り注ぐ炎をかいくぐって接近してくるオークは、エステルさんがつぎつぎと切り捨てていく。
だけど、明らかに手が足りていない。
リリアーヌのファイアボールは全方位どこにでも放てるけど、どうしても正面に放つ量が多くなり背後は対応が後手になってしまう。そこをエステルさんがフォローしているけど、リリアーヌから見えない背後の敵に加えてファイアボールをかいくぐって接近する敵の相手までするのでは対応が追い付かない。
「ボクが背後の敵を受け持つよ! エステルさんはリリアーヌの周囲をおねがい!」
「わかりました、ありがとうございます!」
エステルさんはお礼を言ってくれるけど、ボクはふるふると首を振る。
お礼なんてとんでもない。自分の事ばっかりでぜんぜん周囲の事が見えていなかった自分が恥ずかしい。
「一気にいくよ、力を貸してファフニール! 精霊佩帯――疾風纏!」
素早さを増加させるファフニールの力と、ウインドプレッシャーを纏わせた力で一気に速度を上げる。オークは一体一体はそんなに強い魔物じゃないから、一気に片を付ける!
「はああああっ!
「ブビイイッ?!」
「プギイイイーーッ!」
一気に踏み込み、接近していたオークの首を刎ねる。そしてそのまま速度を落とさず何体ものオークを切り伏せてゆく。
背後を見ると、エステルさんも何体ものオークを倒していくけど、基本的には背後が手薄なうえ接近戦に弱いリリアーヌの護衛だ。ここはボクが頑張るしかない!
自分の内側に意識を向けると、新しい段階まで天職の力を引き出せるようになっているのを感じる。
「邪悪を誅す神の雷!」
「プギイイイイイイイイイイッ?!」
力を込めて叫ぶと、純白の稲妻が天より降り注ぐ。
降り注いだ何本もの稲妻は地面を抉りながら周囲を走ってゆき、それに巻き込まれ次々と黒焦げになって行くオーク達。
上位下段の神聖術、ジャッジメント。女神様の力を借りて顕現した雷が、邪悪な敵をうち滅ぼす神聖術だ。
「いくよっ!」
ジャッジメントにより出来たオークの群れの中に出来た空白に、身を躍らせる。
そして、ジャッジメントによる稲妻に浮足立っているオークたちを次々切り付けていく。目の前に群がるオークたちをどんどん倒していくけど――
「プギイィ?!」
「ブビブヒブヒッ!!」
「ブヒー! ブヒヒー!」
仲間が倒されて激昂するオークたちは、手に持つ棍棒を振り上げ次々向かってくる。
「数が……多いっ…………!」
倒しても倒してもどんどん現れるオークたちにあっという間に周囲を取り囲まれたボクは、その恐怖に思わず息をのむ。確かにオークは強い魔物じゃないけど、数は暴力。
一人の人間が剣を振って倒せる敵の数はたかが知れている。それを超える勢いで敵が現れればどうなるか、その答えがいま目の前でボクを押しつぶさんとする勢いで迫るオークだ。
「焼尽せよ炎の輪舞!」
唱えるのは、新たに使えるようになった上位下段の精霊術。
足元から高温の風が渦巻く。超高熱の風は発火し炎を上げ、一瞬で巨大な炎の竜巻と化す。次々と黒焦げになり、吹き飛ばされてゆくオーク達。
「凝結せよ氷の波涛!」
続けて放つのは、同じく上位下段の精霊術ホワイトアヴァランチ。
上昇していた気温が瞬きの間に超低温まで下がり、大気中の水蒸気が次々と凝固しボクの周囲にいくつもの氷で出来た槍が出現する。無数の氷の槍はボクを中心にして全方位に放たれて、その直撃を受けたオークたちは体を貫かれたり氷漬けにされたりしてゆく。
「プギイィィッ!」
「ブヒイイイッ!」
さすが上位精霊術。
周りを見渡すと、ボクの周囲には動いているオークはいなくなっていた。だけど奥の森から次々と現れるオークは、仲間の死体を乗り越えボクの周りを取り囲むように迫ってくる。
「数が多すぎるよ! どれだけいるの?!」
上位の術スキルは放てる回数に限界がある。
ボクは再びファフニールを強く握りしめると、オークの群れの中に飛び込んでいった。
お読みいただいて、ありがとうございます。
少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。
つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。
なんの反応も無いのが一番かなしいので……。




