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第22話 ドラゴン戦5

 ジゼルちゃんのバーサーカーの天職を使う?

 あの、血だらけで自分の身体を顧みず狂ったようにウォーハンマーを振り回していた天職を?


「だ、駄目だよ! あの天職は危険すぎる! またあんな無茶したら死んじゃうよ!」

「……でも、今使わないとシルリアーヌ様もやられちゃう。役に立つ」

「気持ちは嬉しいけど……」

「……わたしは自分の天職が嫌い。この天職のせいでわたしは全て失った。全ての元凶」


 ジゼルちゃんは自分の手の平を見下ろし、憎々し気に語った。

 

 ずきん、と心が痛む。

 ボクも自分の天職がプリンセスな事は嫌だし他の天職だったらいいとずっと思ってたけど、全ての元凶なんて言えるほど自分の天職を憎んだことなんてない。


「……わたしは自分の意思で天職を使ったことは……無い。一度も。……天職の事なんて考えたくなかった……から」


 ジゼルちゃんは詰まりながらぽつぽつと語る。


「……さっきも無理矢理天職を使わされ辛かった。憎かった。……でも、シルリアーヌ様にかけてもらった神聖術は……あったかかった。すごく」

「…………」

「……この天職の事は嫌いだし、好きになれそうにない。嫌い。……でも、助けてくれたシルリアーヌ様が、傷付くところを見るのは、嫌」

「ジゼルちゃん……」


 ジゼルちゃんのその手は、微かに震えていた。


「またあれをかけてもらえるなら、頑張れると……思う。たぶん。……だから、頑張らせて欲しい。わたし、シルリアーヌ様の役に立ちたい。がんばる」


 ジゼルちゃんは、その黒い瞳でボクを見上げる。

 その瞳はまだ昏く世界を憎むような色をしていたけど、そうでない綺麗な光も宿っている、そんな気がした。


「ファイアボールならいくらでもくれてやるのじゃーーーー!」

「シルリアーヌ様! これ以上持ちません!」


 見ると、後ろではカタナでドラゴンを牽制するエステルさんと、ファイアボールを連打しながら逃げ回……走り回るリリアーヌ。

 そうだ、早く戻らないと。


「分かった、無茶はしないでね。危なそうだったら、すぐに言ってね?」

「……わかった。がんばる」


 ボクが頷き同意すると、ジゼルちゃんは両手を握りしめ、ふんすと気合を入れる。

 そのしぐさに、笑みがもれる。

 ボクも頑張らないと。ジゼルちゃんがこんなに頑張っているのに、ボクがみっともない所は見せられない。


 ジゼルちゃんにピュリフィケイションをかける。彼女を包み込む、きらきらと輝く光。


「今かけても特に意味ないかもしれないけど……おまじないみたいな物かな?」

「……ありがと。嬉しい」


 すこしぎこちない笑みを浮かべるジゼルちゃん。


「じゃあ……行くよっ!」

「……わかった。了解」


 レイピアを構え走りだす。


「ううぅぅ……ヴ、ヴアアアアアアアア!!」


 天職を発動し、ジゼルちゃんが雄叫びを上げる。

 彼女は落ちていたウォーハンマーを拾い上げると、それをまるで木の枝か何かのように振り回しドラゴンへ殴り掛かった。


「ヴオアアアアアアーーーーーーッ」

「ギャウオオオオオオッ!」


 ウォーハンマーとドラゴンの腕や尻尾が激突する。

 ゴオン、ゴオンと低い衝撃音が響く。


 ぞっ、と血の気が引いた。


 その巨大な打撃音は、とても人が戦うときに出る音とは思えない。そのすさまじい衝撃がジゼルちゃんの小さい身体に与えるダメージを考えると、心が痛む。

 でも、だからこそ早く勝負を決めないといけない。


「頭を! ドラゴンの頭を狙って!」


 エステルさんとリリアーヌに向けて叫ぶ。

 ジゼルちゃんがやたらめったら殴り掛かっているせいで連携は難しいけど、ジゼルちゃんは小柄だ。5メートル以上はあるドラゴンと戦えば、まるで巨人と小人。ドラゴンの頭部を狙えば、多少狙いが外れてもジゼルちゃんに被害が及ぶ可能性は低いだろう。


「分かりました! 飛龍砕黎(スラッシング・サイス)!」

「分かったのじゃ! 火精霊よ集え(ファイアボール)10連!」


 エステルさんの刀から放たれた衝撃波と、リリアーヌの放つファイアボールがドラゴンの頭部を直撃した。


火精霊よ集い貫け(ファイアランス)!」


 ボクも下位上段の精霊術ファイアランスを放つ。


「ギャオオオオオンンン!」


 ドラゴンが、たまらず悲鳴のような鳴き声を上げる。

 でも


「足りない! まだ決定力が足りないよ!」


 とはいえ相手はドラゴン種。

 追いつめてはいるけど、致命傷を与えるような攻撃が出来ない。このままではこちらの体力が尽きてしまうかもしれない。


 ふ、と視線を洞窟の奥に向ける

 そこにあるのは、少し高く隆起した場所に設置されたこぢんまりとした祭壇。そして、その祭壇の中に安置された一本の白い剣。

 レックスが聖遺物と言っていた、一本の剣。

 あれが本当に聖遺物なら、この状況を打開できるかもしれない。


「ゴメン、ちょっとだけ持ちこたえて!」


 そう声をかけ、走りだす。

 このままじゃ、ジゼルちゃんの身体が持たないし、リリアーヌ達だってもう限界だ。決め手になるなにかが、絶対に必要なんだ!


 祭壇に駆け寄ると、その祭壇はあちこち痛んで朽ちかけているのに気が付いた。

 魔物か何かにやられたのか破壊された個所や、腐って崩れている個所があちこちにある。


 でもそこに祭られた剣だけは、まるでいま造り上げられたかの様に光り輝いていた。

 それは一本の細身のロングソード。光沢のある白い金属で造られていて、柄の部分は龍を模した彫刻が施されており、柄頭にはうすい緑色の宝珠が埋め込まれている。


 手に取ってみると


「あ……」


 創炎たるリンドヴルムを手に取った時と同じように、この剣の事が頭に流れ込んでくる。


 この剣の銘は、疾風たるファフニール。

 特に敏捷性を向上させる特性があり、上位までの剣技が使えるようになる恩恵が与えられる。


 鞘から少しだけ抜いてみると、そこにあるのは女神様の手により打たれたのではと思えるほどの美しい刀身。一応ロングソードに分類されると思うけど、その刀身はかなり細身でレイピアに近く非力なボクでも扱いやすそうだった。


「いける、これなら!」


 疾風たるファフニールを鞘から抜き放つ。


 振り返ると、ジゼルちゃんがドラゴンに撃ち負けて吹き飛ばされるところだった。


「ジゼルちゃん!」


 駆け寄る。


 身体が軽い。


 ボクの身体は一瞬でトップスピードに乗り、今までの倍以上のスピードで一瞬でドラゴンに肉薄する。


「ギャオオオオオ!」


 振り下ろされるドラゴンの爪。


 それは今のボクにはひどくゆっくりとして見えた。


「精霊佩帯、烈風纏アルム・トゥールビヨン! そして……飛燕斬(スラッシュ)!」


 上位精霊術ウインドカッターで剣を強化し、すれ違いざまにファフニールを振ると、ドラゴンの腕から血が噴き出す。

 聖遺物のファフニールは、技を繰り出したボクの方が驚くほどドラゴンの鱗を易々と切り裂いた。


 悲鳴を上げるランドドラゴン。


 体勢を立て直したジゼルちゃんが、ウォーハンマーをドラゴンの腹へ打ち込む。


 リリアーヌが最後の精霊力で放った上位精霊術がドラゴンの頭で爆発した。


 エステルさんが繰り出す剣術がドラゴンの皮膚に無数の傷跡を作る。


流剣星貫シューティング・グリッター!」


 ボクが新たに使えるようになった上位剣術で、いくつもの流星の様な突きを繰り出す。

 ドラゴンの身体のあちこちから鮮血が噴き出し、ドラゴンがまたも悲鳴の咆吼を上げる。


 苦し紛れか、たまらず胸を張り息を吸い込むドラゴン。

 その口元にはちろちろと炎が巻き、陽炎が現れる。


「ブレスじゃ!」


 叫ぶリリアーヌ。


 でも、この時を待っていたよ!

 ドラゴンが大きく口を開ける、この瞬間を!


「いっけえぇぇ! 輝剣抉殺(シャイン・エクリプス)!」


 放つのは上位剣技、シャインエクリプス。

 スラッシュとターミネイトを融合したような技で、長距離に閃光のような突きの衝撃波を放つ剣技だ。


 放たれた衝撃波がドラゴンの咥内に飛び込み、貫通し後頭部から飛び出してくる。


「ギャウオオオオオオアアアアアー--------ッ!」


 ドラゴンから初めて純粋な悲鳴が上がり、その巨体がぐらりと力なく傾いた。


「離れて! ドラゴンが倒れます!」


 エステルさんが声を上げ、リリアーヌが飛びのき、まだウォーハンマーを振り下ろそうとしてたジゼルちゃんにはボクが体当たりをして距離を取る。


 ずうううん、とすさまじい音を立てて倒れるドラゴン。


 ドラゴンはしばらく悲鳴を上げて動き回っていたけど、やがて動かなくなった。

お読みいただいて、ありがとうございます。 


 少しでも面白い、と思って頂けましたらブックマークや、下の☆を入れて頂ければ嬉しいです。


 つまんねぇな、と思われた方も、ご批判や1つでもいいので☆を入れて頂ければ、今後の参考にさせて頂きます。


 なんの反応も無いのが一番かなしいので……。




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